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なぜ海外で成功したマーケティング施策が日本では失敗するのか?データで見る5つの要因

日本市場のマーケティング施策

グローバル施策と日本市場での現実のギャップ

「本社では大成功だったのに、なぜ日本ではうまく行かないのか?」

これは多くの外資系IT企業のマーケティング担当者が直面する共通の悩みです。実際に、外資系IT企業のマーケティング担当者を対象とした調査では、73.6%が日本市場での課題に直面し、そのうちの半数以上が「日本市場に特化した戦略立案」を最重要の課題として挙げているという調査結果があります(以下参照)。さらにこの調査結果でより注目すべきは、75.5%の担当者の方が「日本のマーケティング戦略は、海外のマーケティング戦略と異なる」と回答している点です。

PR TIMES(株式会社 IDEATECH)

【外資系社員のマーケティング担当者106名に聞いた】73.6%が日本市場で課題に直面したことがあり、半数以上が「日本市場に特化した戦略立案」「日本市場のニーズ把握」に課題を実感

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000151.000045863.html

確かに弊社の肌感としても、これまで 20年余、翻訳やローカリゼーションというお仕事の中だけで振り返ると「日本は特殊な市場である」という話は何度も耳にする機会がありました。

では、具体的に何が違うのでしょうか。今回はデータと実例をもとに、海外で成功したマーケティング施策が日本で失敗する5つの構造的な要因を分析し、それぞれに対する実行可能な解決策を探りたいと思います。

【ギャップ1】日本企業の意思決定プロセスの構造的な違い

課題:「短期成果主義 vs 稟議制度」

最も見落としがちなのが、日本企業の意思決定プロセスでしょう。多くのグローバル標準では「決裁者にダイレクトにアプローチし、短期で成果を出す」ことが重視されますが、日本企業では稟議制度に基づく合意形成プロセスが根強く残っています。いわば日本式の意思決定プロセスです。

この違いは数字にも現れています。国内の公開調査では、選定に関与するメンバーは「4〜5名」、最終承認者は「2〜3名」が一般的で、検討期間は「1〜3ヶ月が最多」と報告されています(大規模案件ではさらに長期化)。これが一般的な意思決定プロセスとすれば、確かに「時間がかかる」わけです。

解決策:段階的な合意形成プロセス

効果的なアプローチは以下の3段階に分けてクライアントの合意を獲得する必要があります。逆にこのプロセスを辿ることで合意を得やすくなるとも言えます。

フェーズ期間内容
第1段階情報収集フェーズ数週間~数か月・現場担当者向けの詳細な技術資料、機能比較表、ROI計算ツール等を提供

・「上司への説明用資料」として、プレゼンテーション素材をセット

・競合比較や業界動向を含む、包括的な情報パッケージを準備
第2段階社内検討フェーズ数ヶ月〜四半期単位・各部門(IT、調達、法務、セキュリティ)向けの専門資料を個別に準備

・段階的な導入計画と予算分散などの提案

・他社の導入事例と失敗回避策を詳細に提示
第3段階最終決定フェーズ案件と稟議の層数に依存・経営層向けの戦略的な価値提案

・導入後のサポート体制とリスク管理計画

・段階的な成果測定指標の設定

成功事例:Salesforce の長期にわたる関係構築のアプローチ

Salesforce は日本市場への参入当初、アメリカ式の短期クロージングアプローチで苦戦していました。しかし、2010年以降、前述の日本企業の意思決定プロセスを理解し、以下の施策を実行しました。

  • Trailhead プラットフォーム:無料学習コンテンツを提供し、現場担当者の理解度向上を支援
  • 段階的な導入プログラム:小規模パイロットから始める低リスク導入モデルを確立
  • 業界特化型アプローチ:製造業、金融業などの業界ごとの特殊な状況や事情にも対応

これらのプロセス変更により、徐々に日本市場に受け入れられるようになり、Salesforceは日本を含むアジア太平洋地域においても、CRM市場シェア1位となるなど評価が上がっています。

Salesforce、12年連続で世界No.1 CRMプロバイダーに選出

【ギャップ2】コミュニケーション文脈の誤解

課題:ダイレクトメッセージング(ローコンテクスト) vs 間接的表現文化(ハイコンテクスト)

欧米のマーケティングでは「明確な価値提案」「ストレートなベネフィットの訴求」が非常に効果的ですが、日本ではこのまま適用すると「過度な売り込み感」「押しつけがましい」として敬遠される傾向があります。この文脈を理解しないまま、販売活動を続けても成果に結びつきにくくなります。

解決策:文脈を理解した日本的なコミュニケーション

日本では「売り込まれている」「押しが強い」といったスタンスではなく、「お客様のために」「お客様の役に立つ」といった効果的なコミュニケーション戦略をとる必要があり、これはセールス、マーケティング部門では必須の考え方となります。

コミュニケーション戦略具体的な施策
コンテンツのトーンの調整・「革命的」「画期的」などの過度な形容詞を避けたり、「改善」「効率化」などの現実的な表現を使用するようにする

・ベネフィットより先に、顧客の課題共感を示す

・具体的な数値データより、「お客様の声」を重視
情報提供スタイルの変更・セールス色を抑えた「情報提供セミナー」形式

・「業界の動向レポート」として価値のある情報を先に提供

・「相談対応」「課題解決サポート」としてのポジショニングをとる
フォローアップアプローチ・頻度の高いフォローより、タイミングを見計らった価値ある接触に重点

・季節の挨拶や業界イベントに合わせたごく自然なコミュニケーション

・一方的な情報提供より、双方向の意見交換を重視(対話)

成功事例:マイクロソフトの「お客様第一主義」ローカリゼーション

マイクロソフトは2014年の新CEO就任を機に、日本市場でのコミュニケーション戦略を大幅に見直しました。いわばローコンテクストからハイコンテクストへのシフトです。

コミュニケーション戦略

Azureは2015年時点で既に国内2位(AWS 1位、Azure 2位、Google 3位)との調査があり、2020年の利用率調査でも国内2位という結果が出ています。

https://business.ntt-east.co.jp/content/cloudsolution/column-374.html

【ギャップ3】競合環境の認識

課題:グローバル競合想定 vs 国内ベンダーとの競争

多くの外資系IT企業は、グローバル市場での競合他社(GAFA、Oracle、SAP等)を想定したポジショニングを行っています。しかし、実際の製品選定タイミングにおいて日本市場では国内ベンダーや日本独自のSaaSベンダーとの競争が重要な要素となることが隠れてしまうことがあります。

解決策:日本市場での独自の競合マッピングと差別化戦略

日本市場を理解するための様々な「競合」を把握することが重要ですが、日本市場に特化した競合分析フレームワークを用いて様々な角度から分析を行っていきます。

競合分析補足説明
技術的な競合相手・他社グローバルIT企業
※これが従来の競合分析
関係性の中での競合・既存の国内ベンダーや SIer
現状維持としての競合・自社開発で解決したり、既存システムをそのまま使用(延命措置)する
代替手段による競合・他部門での課題解決や外部への業務委託による投資による回避

このように、外資系IT企業だからこそ持ちうる様々なリソースと日本企業の特徴を掛け合わせることで、新しいマーケティング戦略を生み出すことができます。

戦略設計補足説明
グローバル標準の技術力 × 日本市場への理解度外資系IT企業が保持する高い技術力を武器に、日本市場や日本企業文化を理解した方法でのアプローチ設計が重要。
本社リソース × 現地サポート体制の充実外資系IT企業の潤沢なリソースを活用し、きめ細かい日本企業へのフォローやアフターサポート、フォローアップ。
コスト競争力 × 導入リスクの最小化強い資本力から生まれる価格競争力とクライアントにとっての導入リスク(価格、品質など)をカバーした戦略

成功事例:Salesforce の国内 SIerとの協業パートナー戦略

Salesforce は当初、直販モデルで日本市場に参入しましたが、国内ベンダーとの競合で苦戦していました。そのため、2012年以降、戦略を以下のように転換しました。

協業パートナー

これらの方針転換により、Salesforce は日本市場で大きくシェアを獲得することができました。また、IDCの経済効果分析では日本におけるパートナー収益率(Salesforce 1ドル当たり)が7.07倍と推計されています。

2019年から2024年の間に、日本で1,090億ドル以上の新規ビジネスと、 約20万人の新規雇用を「Salesforceエコノミー」が創出

【ギャップ4】購買影響者の見極めの失敗

課題:決裁者重視 vs 現場担当者の影響力

欧米では「Decision Maker(意思決定者)」へのダイレクトアプローチが効果的ですが、日本企業では現場担当者の意見が意思決定に大きな影響を与えることがあります。そのため、現場担当者の理解をどのように得られるかがポイントになります。

解決策:日本企業における購買影響者マッピングを行い、アプローチする

日本企業での意思決定プロセスにおいて現場の担当者の共感と理解を得ながら、経営までの意思決定をスムーズに運ぶためためのいくつかの階層を通過しなければなりません。それぞれのポジションにおける評価ポイントを確認しつつ、営業マーケティング活動を進めます。

階層影響度属性特徴や評価ポイント
エンドユーザー実際の利用者、現場担当者・日常業務への影響を最重視
・操作性、利便性および学習コストを評価
技術者、技術検証者中~高IT部門のシステム管理者やエンジニア・技術的な妥当性やセキュリティ面、運用負荷などを評価
・既存システムとの連携性を重視
業務の責任者部門長、マネージャー層・業務効率、コスト効果を評価
・導入による組織への影響を考慮
経営中~決定権役員、CIO等・戦略的価値、投資対効果、信頼度を評価
・最終的な予算承認権限を保有

段階的なエンゲージメント向上を狙う

以下のプロセスに則って、購買者に対しそれぞれの訴求ポイントを中心に、プレゼンテーションを重ねていかなければなりません。
成功事例:Adobe の現場主導型の導入支援

Adobe Creative Cloudの企業向けの展開では、従来のトップダウンのアプローチから、現場主導型に戦略を転換し成功を収めています。

現場担当者エンゲージメント

これらの施策により、Adobeは国内「グラフィックスソフト」部門でBCN AWARD(量販POSベース)最優秀賞を獲得し、同カテゴリでの強い地位が証明されています。

【ギャップ5】投資時間軸のミスマッチ

課題:四半期での成果 vs 長期関係構築の重要性

外資系IT企業の多くは四半期ベースでの短期の成果を求められますが、日本市場では長期的な関係構築が売上に大きく影響するため、それらを無視してのビジネス推進は長期的には拡大が難しくなります。

解決策:段階的なROI測定と長期投資のバランス

例えば、以下のように短期から長期のそれぞれの目標設定および、投資バランスなども設定しておくことで、短期的な目標を満たしつつ、長期の関係構築も進められるようになります。

短期成果指標(3-6ヶ月)中期成果指標(6-18ヶ月)長期成果指標(18ヶ月以上)投資配分の最適化(例)
・リード獲得数
・セミナー参加者数
・パイプライン金額
・検討段階進展率
・受注金額
・継続契約率
短期成果:40%(リードジェネレーション、イベント等)
・ホワイトペーパーダウンロード数・パートナー紹介案件数・顧客生涯価値(LTV)の向上中期成果:35%(関係構築、パートナー開拓等)
・初回商談 創出件数・既存顧客エンゲージメント向上率・口コミや紹介による新規開拓長期成果:25%(ブランディング、思想リーダーシップ等)

成功事例:Oracle の10年投資戦略

Oracle は1990年代の日本市場参入時、短期的な売上追求で苦戦しましたが、2000年以降、長期投資戦略に舵を切りました。

長期投資

日本企業は一度信頼関係をしっかり築いてしまえば、契約更新なども見込めるため「損して得取れ」という発想が必要になります。Oracle はそういう点では日本市場を深く理解したからこそ成功したと言えるでしょう。

実践のための5つのアクションプラン

前述のように日本市場に合わせた(ローカライズされた)マーケティング戦略が必須ですが、具体的に明日から実践可能なアクションプランをご紹介します。この順番で戦略設定からスタートすべきであり、最適なパートナーとともに進めていくことが求められます。

5つのアクションプラン

まとめ:日本市場での真の成功に向けて

いかがでしょうか。海外で成功しているマーケティング施策や手法が日本で失敗してしまう要因は、決して日本市場の「特殊性」や「閉鎖性」が理由ではありません。

むしろ、日本企業の合理的な意思決定プロセス、リスク管理重視の姿勢、長期的な関係性を大切にする企業文化を正しく理解し、それに適応したマーケティング戦略を構築することが重要だと言えます。

外資系企業にとって重要なのは、グローバル本社のリソースと日本市場の特性を組み合わせた「ハイブリッド戦略」の構築です。技術的優位性やグローバル実績という強みを活かしながら、日本企業の意思決定プロセスや購買行動に適応したアプローチを取ることで、将来を含めた持続的な成長を実現することができます。

今回ご紹介した5つの要因と解決策は、多くの外資系IT企業が実際に直面している課題への実践的なアプローチと言えます。まずは完璧を求めるより段階的に実装し、継続的な改善を通じて日本市場でのビジネスを加速しましょう。

日本市場は確かに独特ですが、それは同時に、適切にアプローチできれば長期的で安定した収益を生み出す魅力的な市場でもあるということです。外資系企業というポジションを上手に活用しながら、日本市場での存在感を増すためのマーケティング活動をお勧めいたします。

【徹底解説】日本企業のアジア市場進出の成功を導く鍵となるローカリゼーション6ステップ

アジア市場進出

成長が続くアジア市場の魅力

アジア市場は広大で多様性に富み、世界の成長市場の一つとなっています。その中でも特に東南アジアは人口約6億7,000万人と日本の約5.4倍の規模を誇り、またタイ、インドネシア、ベトナムでは若年層が人口の約半数を占め、高いGDP成長率を維持しています。

中小企業白書から見るアジア市場進出と多言語翻訳

デジタル面でもスマホの普及率やインターネット利用率もかなり高く、日本企業にとって大きなビジネスチャンスであることは間違いありません。そのチャンスを見逃さずに海外進出、アジア市場への進出をするための具体的なローカリゼーションのステップをご紹介します。

ローカリゼーションとは何か?翻訳との違いとは?

ローカリゼーションは単なる翻訳のことではなく、言語・文化・商習慣などを含めて「現地仕様」に最適化するプロセスのことを指します。またローカリゼーションの対象というのは文章だけでなく、例えば、色彩、デザイン、UX、決済方法、法規制まで幅広く含まれるのが一般的です。

ローカライズとは

アジア市場でローカリゼーションが不可欠な理由

アジアには48の国・地域があり、さらに数千の言語と多様な文化があるのは有名です。ターゲットとする国や地域に合わせた表現をしなければ現地の人には受け入れられることはありません。

例えば、言語面ではインドでは22の公用語、フィリピンでは170以上もあります。中国に至っては方言は多数ですし、消費行動なども日本では口コミが重視される一方、東南アジアでは家族・コミュニティ・インフルエンサーといった人たちの意見が尊重される傾向にあります。

要素欧米圏の例アジア圏の例
色の意味白=純粋白=喪(中国)
赤=幸運(中国)
ジェスチャーサムズアップ=好意的な意味一部地域ではサムズアップが侮辱的になることも
食文化・宗教食材制限なしイスラム圏ではハラール必須、豚肉・牛肉制限あり

ですから、こういった特徴を無視してただ翻訳すればいいというわけにはいかないことがお分かりになるでしょう。

ローカリゼーション成功のための4つの視点

1. 徹底した市場理解と市場調査

実は最も大切なのは「ローカリゼーションの準備段階」という人もいるくらい各国の市場理解と市場調査は重要です。ローカリゼーション前に、現地の価値観や嗜好、購買行動を詳細に把握できるかどうか(色、ユーモア、宗教的配慮など細部の違いなども含めて)は、貴社商品や製品が売れるかどうか、受け入れられるかどうかを判断するための非常に重要な要素です。「相手を知る」ことはマーケティングの基本ですが、ローカリゼーションはそこにも関係しています。

2. 翻訳ではなく「体験の最適化」を設計する

単に文章を翻訳するのではなく、トーン&マナー、ビジュアル、UXまで現地の仕様にする必要があります。それは例えばスマートフォンなどが顕著です。例えば、モバイルファーストの市場では、スマホ画面での操作性を最優先に設計しなければ、ユーザがあっという間に離脱してしまいます。自分自身での経験でも確かに簡単に画面を切り替えたり、閉じたりするわけですから、いかに UI/UX が大切かは直感的に理解できるはずです。

「サービスやプロダクトを体験する中で、ユーザにどのような価値を感じてもらいたいのか」をしっかり設計しなくてはなりません。

3. 過度な一般化を避ける

前項と重複しますが、「アジアを一つの市場」と見なすのではなく、国・地域ごとの特性に合わせましょう。

例えば、有名なペプシ社の「Come alive with the Pepsi generation」が、中国では「先祖を墓から呼び戻す」と誤訳された事例は、過度な一般化のリスクを象徴していると言えます。

しっかり市場調査をし、背景を押さえておくことがこういったリスクを最小化するもっとも有効な手段だと言えます。

4. テクノロジーと人の融合

翻訳メモリやCATツール、AIPE などを使って効率化しつつ、文化的な背景を理解するネイティブ翻訳者が品質を確保していくことで、より信頼のおけるコンテンツを提供することができます。

成功企業に学ぶ!ローカリゼーション事例

アジア市場においてローカリゼーションの力によってビジネスが急速に拡大した例は以下になります。

企業名施策成果
Alibaba統合決済、グループ購入、WeChatとの互換性など現地の商習慣に柔軟に対応中国B2B市場で圧倒的シェアを誇る
Grab現地ドライバーとの契約・面接などで安全性を強化東南アジアで急成長、Uberとの差別化を図る
WeChat Pay / Alipay偽札問題解消、QRコード決済を普及中国国内外で急速に普及しておりシンガポールやタイにも拡大(シェア90%以上)
Mobike / Ofo都市短距離移動ニーズに特化したシェアサイクルの提供急速に利用者拡大、都市交通の新インフラに

このように、広義の意味でのローカリゼーションの実施により、企業の成長が押し上げられています。

日本企業が実践すべきローカリゼーションの 6ステップ

以下の図に示すようにローカリゼーションを成功させるためには、確実に押さえておくべきステップをご紹介します。

ローカリゼーションの6ステップ

ローカリゼーションの6ステップ

ローカリゼーションは投資だと捉える

「ローカリゼーションはコストがかかる」というイメージがありますが、それは違います。なぜなら、ローカリゼーションはコストではなく、海外市場での競争力を高める投資だからです。適切な現地語化ができなければ貴社ビジネスはうまくいきません。

逆にローカリゼーションがうまく機能すると顧客体験向上、口コミ拡大、売上増につながっていくと考えると、過大投資は避けつつ、最適な手段を選択し、投資していくというビジネスの基本は変わりません。

まとめ

いかがでしょうか。前述のようにアジア市場は将来性、成長性と多様性を兼ね備えています。その可能性を最大化するためには、戦略的なローカリゼーションが不可欠です。今回ご説明したステップを活用し、未来のユーザが「自分たちのためのブランド、自分のための商品である」と感じる体験を提供しましょう。

「品質と価格は比例する」と言い切ったお客様の話

ある外資系企業のお客様がおっしゃっていました。

「私は品質と価格は比例すると思っています。だから価格が上がるのは問題ありません」

という発言をされました。(それまでの文脈は割愛)

もちろんですが、その通りと感じましたが、こういったことをなかなか面と向かって言うことも少ないのではないでしょうか。

また、実際にはそれが分かっていても実行できないケースや状況が(残念ながら)存在するのも事実でしょう。「そんなことは綺麗ごとだ」という意見もあります。

それでもハッキリと断定したこのご担当者様には、ご自身のお仕事に対する非常に強いポリシーを感じましたし、弊社をパートナーとして見ていただいているのだという良い意味でのプレッシャーを受けました。とにかく安ければいいという風潮もある中で、実際には胸が熱くなるようなシーンもありました。このお客様の言葉をお借りして、品質が高ければ価格が高いのは当然であること、またその逆も然りであることを改めて考えてみたいと思います。

「品質」とは何か

価格が品質によって決まるとするならば、まず先に「品質の定義」が必要となります。

※すべての業界、すべての企業で品質の定義をしているでしょうから、その解釈には多くのパターンがあると考えられます。

弊社の場合、品質とは、お客様が「望んでいるとおりのものを得る」状態のことを指しており、以下のコンテンツでより詳細の説明(定義)をしておりますのでご確認ください。

翻訳、ローカライズの品質とは

さらに、これらの品質を確保するために弊社では「良い品質の翻訳とは」というページも作成、公開しておりますので合わせてご覧ください。

トライベクトルが考える「良い翻訳」とは|翻訳会社トライベクトル

※「品質」は訳文だけの話ではなく、対応品質なども含まれています。

※今回のご担当者様の発言は、この「ご担当者様がご希望のモノやサービス」通りに、または「希望以上のモノやサービス」をお届けしたあとのご感想です。

「価格」よりも「価値」を考える

品質が高ければ後から価格があがりますということを言いたい訳ではありません。またそういうケースはかなりレアでしょう(詳細は伏せますが、今回はそういうことが可能なお仕事だったというだけ)。

よく「価格」ではなく「価値」を考えなさいと言われます。価値とは何でしょうか。あまり難しく考えるよりも、自分がモノやサービスを購入することを想像してみます。

モノやサービスを購入する決断をするときには価格を見ます。しかし、価格を見る以上に見ているものがあります。

「価格に納得できるとき」というのは、「これを買ったら自分の課題や悩みが解決できるかも」と思うときです。価格の向こう側にある「自分が得られる価値」を想像するのです。

そして実際にそれが解決したら「ああ、良い買い物をした」と思うのです。逆に「期待外れ」だった場合には二度と購入されることはありません。

つまり、買い手にとっては「そのモノやサービスの価値を見出すことが大切」ということですし、売り手にとっては正しく価値を伝えることが大事になってきます。

「迷う理由が値段なら買え、買う理由が金額ならやめとけ」

という言葉もあります。つまり、値段(価格)を基準にして判断してはいけないという意味です。「安いから買う、高いから買わない」のではなく、「自社にとって価値があるかどうか=自社が課題解決できるかどうか」が基準であるべきということでしょう。

「品質=お客様にとっての価値が高い=課題解決できる」であるならそれは当然買うし、(仮に高かったとしても)買いますということです。これは誰しも経験があるでしょう。

価格を考えるのではなく価値を考えるというのはこういうことです。

「品質が高い」は「価値が高い」

このように考えると、「品質が高い」という言葉は「お客様にとっての価値が高い」という意味になります。例えば、これを無視して「自分が作ったものは最高だ」と言ったところで、それはビジネスではあまり意味がありません。

ビジネスにおけるプロフェッショナルは、お客さまの課題をしっかりとヒアリングし、それについての改善案を提案し、共に伴走する人のことです。

医者ならばきちんと患者さんの病状を把握し、できる限り相手に負担をかけず、時には激励したり、寄り添ったりしながら最適と思われる治療方針を出し、伴走していくのと同じでしょう。

腹痛を訴えている患者さんに何も確認せずに「この薬を飲みなさい」という医者はいません。しっかりと相手の話を聞き、かつプロとしての視点から改善方法を模索しつつ、提案を繰り返していくからこそ患者さんは安心して任せることができるのです。もちろん、病状からの回復が最大の価値であることは言うまでもありませんが、そこに価値があるのです。

今回の外資系企業の担当者様はこれらの基本的な、でもとても大切な構造をしっかりと理解した上で発言をされていらっしゃいました。だからこそ非常に納得感が強かったわけです。

「価値」はどういう人や企業と付き合うかの基準にもなる

一転して、数年前にこのような記事を書きました。

「翻訳なんて誰がやっても一緒」だが、誰もが「言葉に魂を込めている」ものを求めている

こちらのエピソードも大変驚いたのでよく覚えていますが、今回の担当者さんは、この記事に登場する部長さんとはまったく真逆の発想だと言えます。

ただ、よく考えると要求水準は今回のお客様のほうが高いのです。

なぜなら「私たちが要求する品質のものを出してください。それができれば価格が上がるのは問題ないが、逆にその品質が出せないのなら価格は下がりますよ」と言っているのと同じことだからです。またもっと言えば「価値がないなら取引自体がありませんよ」ということでしょう。

(もしかしたら、一見厳しそうに見えた以前のお客様の方が「翻訳なんて誰がやっても一緒」と思っている分、品質への評価基準がブレている可能性があるため、あまり細かいことを言わないのかもしれません)

いずれにせよ、弊社の提供する言語サービスについてある一定の価値を見出してくださっているお客様である以上、弊社も毎回真剣勝負でお仕事をしています。

重要なのは「価格優先なのか、価値優先なのか、それは担当者 個人としての考えなのか、企業としての考えなのか」といった様々な要素がある中で、「何を課題として持っていて、どういう解決策がお客様にとってベストなのだろうか」ということをもっと真剣に考え、提案しなければならないですし、こういった考え方を持つためには、そもそも自分たちが何を大切にしたいと思っているのか、どう有りたいと思っているのかといった根本の思想が問われているのだということです。

どういった企業と取引をするのか/付き合っていくのかは、まさにこの部分(価値基準)に根差すものであるべきです。そうでなければ「翻訳なんて、通訳なんて、英会話なんて、誰がやっても一緒でしょ」という言葉に流されてしまいます。

まとめ

お客様の要求水準を満たす/超えるために、様々な側面からサービス品質を上げてお客様の課題を解決しようとする(価値)という行動は、長期的に見てお客様との信頼関係をより強固なものにし、また仕事の拡大を促す大きなドライバーになります。

このように(顧客にとって)価値があると感じるものにはそれなりの理由があるということです。そしてそれを無視して「誰がやっても一緒」なんてことはあり得ないということでしょう。

これまで以上にもっともっと努力しなければならない、身の引き締まる思いでした。

 

 

機械翻訳の問題点を解決するポストエディットとは

機械翻訳+ポストエディット

最近、弊社のお客様からもご相談が増えているのが機械翻訳(Machine Translation)サービスですが、そのまますぐに機械翻訳を導入しビジネスで使えるかというと、まだその段階ではないことが多いようです。残念ながら機械翻訳の問題点は残っているため、実際のビジネスで使用する際には「ポストエディット(Post Edit)」も含めた形でのご依頼になっているのが実情です。

今回は、機械翻訳が内包する問題点を解決する「ポストエディット」までをご説明します。

機械翻訳(Machine Translation)とは

機械翻訳(Machine Translation)とは、コンピュータによって自動で翻訳する技術のことを指します。Google 翻訳や DeepL などが有名です。ニューラルネットワーク処理されるため、訳文が読みやすくなり、翻訳品質が一気に向上しました。実際にご利用になっている方も多いのではないでしょうか。

なお、翻訳業界では機械翻訳のことを英語表記し、また省略して Machine Translation = MT と読んだり記述したりします。

なお、「機械翻訳」と似た言葉に「自動翻訳」という言葉がありますが、「自動翻訳」は翻訳プロセス全体を自動化するというニュアンスが強く、「機械翻訳」などの各ツールを使用して実現していくことを指しますので少し意味合いが異なります。

ポストエディット(Post Edit)とは

ポストエディットとは文字通り「Post(後で)」「Edit(編集する)」という意味です。機械翻訳で生成された訳文に対して、翻訳者(人間)が順次、訳文の修正や編集を行う作業のことを指します。

ちなみに「翻訳者」という人間が翻訳する場合は機械翻訳との対比で、一般的に「人力翻訳(Human Translation=HT)」と呼ばれます。

また、「ポストエディット」という作業はあくまで人間が行う作業であり、近年では「ポストエディター」と呼ばれる職業も新たに生まれています。

(参考)機械翻訳と翻訳支援(CAT)ツールの違い

よく誤解されてしまうのが「機械翻訳」と「翻訳支援ツール」です。

これらの位置づけの理解が難しい理由としては「翻訳支援(CAT)ツール」が似たような概念を持っているためでしょう。

CAT ツールとは、「翻訳者の作業をサポートする」ツールであるため、翻訳作業を行うのはあくまで人間(翻訳者)です。CAT ツールで最も著名なのは SDL TRADOS(トラドス)でしょう。TRADOS とは、大量のボリュームのマニュアルの翻訳時に、訳文を再利用できるようにデータベース化しておくことができる翻訳支援ツールのことです。一度翻訳した訳文は、次のバージョンアップ時に有効に利用することで訳文の統一を図ることが可能です。これらは特にマニュアル翻訳など繰り返しの多い文章がある際に有効です。

機械翻訳と人力翻訳

一方、機械翻訳はその名の通り、AI などが自動で翻訳を行うものであるため、人間が介在するプロセスが存在しません。

TRADOS によるマニュアル翻訳

またここ最近では「翻訳管理システム:Translation Management System(TMS)」と呼ばれるクラウドベースのローカライズツールも登場しています。これらもあくまで翻訳者を支援するシステムであり、機械翻訳とは異なります。

TMS の場合には、DeepL などの機械翻訳システムと連携させて使用することもできます。

例えば、TMS のひとつである Memsource の場合には、DeepL のほか、いくつかの機械翻訳サービスと連携し使用することができるため、本テーマである「機械翻訳+ポストエディット」を管理することができます。

また、以下は Webサイトローカライズプロジェクトなどで特に顕著な TMS について説明しています。

Webサイト ローカライズ

機械翻訳の問題点

このように機械翻訳の技術は目覚ましいものがありますが、発展途上のためいくつか課題があるのもまた事実です。

1. 訳文の表現力が豊かになっている分、誤訳に気づかないケースがある

仮に原文とはまったく逆の意味で翻訳されていても(ある意味で流ちょうに訳されているため)、そのまま OK にしてしまうケースもあります。しっかりチェックしないと気づかずにスルーしてしまい、結果的に誤訳になってしまうことがあります。

これは機械翻訳が優秀だからこその課題と言えるでしょう。

2. 全体の訳文品質が及第点に達していない

日々精度が高まる機械翻訳ですが、分野やドキュメントの種類によってはまだ意味が通じない文章を作ってしまうケースもあります。

例えば、マーケットに向かって発信するプレスリリースや財務情報のようなドキュメントでは、誤訳が 1か所でもあるとマーケットの評価が180度変わってしまうので慎重にチェックしなければなりません。そしてその可能性があるのであれば全文をチェックしなければならないということになりかねません。

3. マーケティング向けのドキュメントでは人力(翻訳者)のほうが品質は高い

機械翻訳ではその文章の持つメッセージ性や背景情報などを理解して訳出されるわけではないため、抽象度の高い文章、アートやエンターテインメント、コマーシャル系などの文章では人力(翻訳者)による翻訳が勝っていると言えます。人力翻訳の場合には原文の背景、経緯などの意味をくみ取りつつ翻訳することができるためです。

特にマーケティング向けの翻訳は「マーケティング翻訳」と呼ばれています。

マーケティング担当者に必須の「マーケティング翻訳」とは

これらの課題は将来的には解決される可能性もありますが、現時点では大きな課題として残っているのも事実です。

解決策としての「ポストエディットサービス」

機械翻訳自体の精度が上がったため、上記のように「どこに問題が隠れているか分からない」、または「どこも間違ってないかもしれないが、もしかしたら、どこかの一文が間違っているかもしれないので念のためチェックしなければならない」というケースもあります。

結局のところ、ドキュメント内に不安要素がひとつでもあれば、やはり全体をチェックしなければなりません。

だからこそポストエディットサービスが必要になりますし、ポストエディットというプロセスを後ろに置くことで、(現在では)品質の安定を図ることが可能になります。

機械翻訳+ポストエディット

「機械翻訳なのか人力翻訳なのか」の判断基準を持つことの重要性

「機械翻訳+ポストエディット」と翻訳者による「人力翻訳」のどちらが良いのかを判断するには、上記の内容をしっかり理解して抑えておく必要があります。

コストを下げるためだけに、あらゆるドキュメントを闇雲に機械翻訳で作業すると品質が担保されずに、結局人力でやり直しといったエピソードはいまだによく聞く話です。

貴社にとって今回のプロジェクトが機械翻訳が良いのか、それとも人力翻訳が良いのかといった判断基準を決めておく必要があります。

機械翻訳+ポストエディットと人力翻訳の比較

以下の表は、機械翻訳と人力翻訳の比較です。ドキュメントの特性を理解した上で利用しないと期待するほどの効果を得られないケースもありますのでご注意ください。

翻訳品質価格スピード補足説明お薦めドキュメント
機械翻訳・間違えていても気づかないほど流ちょうな文章もある
・マーケティング翻訳のようなものは向いていない
・契約書
・マニュアル取(扱説明書)

※直訳的で大量のドキュメント
ポストエディット・どの機械翻訳を使って生成された訳文かによって品質にばらつきがあるため、ポストエディットだけの場合は負荷が変わる・契約書
・マニュアル取(扱説明書)

※直訳的で大量のドキュメント
機械翻訳+ポストエディット・MTPE と呼ばれるプロセスで品質を確保しつつ価格も押さえることができる
・マーケティング翻訳のようなものは向いていない
・契約書
・マニュアル取(扱説明書)

※直訳的で大量のドキュメント
人力翻訳・プロの翻訳者による翻訳作業
・原文の意味をしっかり理解して翻訳するのでニュアンスなども含めて翻訳可能
・マーケティング文書
・広告文
・契約書
・マニュアル取(扱説明書)

※抽象度の高いものや専門性の高いドキュメント

「選ぶ基準」を持っていないと逆に損をすることもある

このように、機械翻訳なのか、人力翻訳なのかという選択肢をもっているのは貴社にとって良い状態だと言えます。ドキュメントやニーズに合わせて「機械翻訳+ポストエディット」で対応したほうが良い時もあるでしょうし、逆に「このドキュメントは超重要な内容を含んでいるのでニュアンスをしっかりとらえて翻訳してほしいからこそ、プロの翻訳者に頼む」ということもあるでしょう。

これらはすべて「ドキュメントの使用目的」「対象読者」「品質」「予算」「納期」などの項目を検討して導き出されるべきものです。

選択するための判断基準があれば、ポストエディットでの対応もできるでしょうし、よりニーズにマッチした翻訳サービスを享受することができます。最低限の判断のためのチェック項目をご紹介します。

チェックリスト

(参考)機械翻訳の精度を高める「プリエディット」

機械翻訳+ポストエディットを行っても納得できない訳文品質の場合では、原文の品質を向上させるという方法もあります。ポストエディットに対して「プリエディット(Pre Edit)」と呼ばれるものです。原文の表現を整理することによって機械翻訳が理解しやすい形に変えることで、機械翻訳の精度を向上させることができます。

「翻訳作業前に原稿を読まないのか?」という質問

まとめ

「機械翻訳+ポストエディット」は確かにビジネスでのトレンドであり、大変便利なツールです。しかし闇雲に利用するのではなく、自社に合ったサービスかどうかを含め、賢い使い方を身に着けたいものです。

  • 機械翻訳の精度は年々高まっているが間違え方も巧妙になっているため、まだ人間のチェックが欠かせない
  • そのためにポストエディットは必須
  • 現代は機械翻訳か人力翻訳かを選択できる時代に
  • ますます重要になるのは選ぶときの判断基準の構築

弊社では人力翻訳のほか、機械翻訳+ポストエディットサービスも対応可能です。お気軽にご相談ください。

機械翻訳+ポストエディット

【徹底解説】Web サイト翻訳の見積もり依頼の方法

スタッフ N です。

昨年来、コロナ禍で Web からのリード獲得やコンバージョンに注力される企業様が増えており、弊社にもコロナ前と比べ 3 倍近くの Web サイト翻訳のご相談依頼が続いております。

様々なご相談をいただいておりますが、その中でも特に最近になって Web に力を入れ始めたお客様の場合、翻訳やローカライズのお見積りを作るにあたり、必要な情報が不足してしまい、やりとりにお手間をかけてしまう上、正確なお見積りをお伝えできなかったというケースもあります。

一方で、Web サイトの翻訳についての相談ポイントを正しく知っておかないと、発注後に齟齬が起きてトラブルになってしまう可能性があります。

そこで今回は、発注後のトラブルを防ぎ、お見積段階から納品まで、正しくスムーズにプロジェクトを実行していただくための方法をご紹介します。

翻訳の見積もりに必要な6つのポイント

外資系企業のための CMS を活用した Web サイトローカライズ

Webサイトの翻訳で最も多い見積依頼の4パターンとは

翻訳のお見積り依頼をいただく際に、ほとんどのお客様が以下の 4パターンのいずれかでご相談いただくことが多くなっています。

  • 翻訳対象の Web サイトの URL を送る(トップページの URL のみ)
  • 翻訳対象ページの URL だけを送る
  • 翻訳対象の Web サイトの URL と文字数を伝える
  • 翻訳対象となるテキストを Word か Excel で送る

上記のパターンにはメリットデメリットがあります。以下に解説します。

1. 翻訳対象の Web サイトの URL を送る(トップページ URL)

お見積り依頼時に翻訳対象の Webサイトのトップページの URLだけを送るパターンです。

問い合わせ例:

https://www.trivector.co.jp/

「上記サイトのお見積りをお願いします」

一番多いのがこのパターンでのお見積り依頼です。確かに、URL をコピペして、メールに張り付けて送信するだけなので非常にスピーディで楽です。しかしお見積もりの精度としては、これがもっとも精度が低くなってしまいます。

  • 翻訳対象となるページが正確ではないため、対象ページに見落としや抜けが出る可能性がある
  • 画像や動画などが含まれる場合の確認をしたり、その分、抜けや漏れが出る可能性がある
  • 基本的に Web サイト内のテキストをコピペして分量を算出するが、コピペ防止の Web サイトの場合は取得できない
  • 逆に翻訳対象外にもかかわらず、不要な個所を含めてしまい見積もり金額が上がってしまう
  • 見積もり前の確認作業が増えるため、見積もりを出すまでに時間がかかる(翻訳会社によっては対応不可、もしくは別途作業費がかかるケースも)
  • 翻訳対象に抜けがあった場合、追加費用が発生し、ローンチスケジュールに間に合わない
  • Web サイトを元に見積もりした時から内容が更新されることもあり、見積もりの精度が落ちる

2. 翻訳対象ページの URL だけを送る

問い合わせ例

https://www.trivector.co.jp/

https://www.trivector.co.jp/service/

https://www.trivector.co.jp/service/beforeorder/

https://www.trivector.co.jp/feature/

https://www.trivector.co.jp/brandoftranslation/

「上記のURLのお見積りをお願いします」

これは 1 番とほぼ同じですが、最初の「翻訳対象となるページが正確ではないため、対象ページに見落としや抜けが出る可能性がある」という点は防ぐことができます。しかし、それ以外については同様の理由により不明確な点が多くなります。

3. 翻訳対象のWebサイトのURLと文字数を伝える

問い合わせ例

https://www.trivector.co.jp/  (200文字)

https://www.trivector.co.jp/service/(300文字)

https://www.trivector.co.jp/service/beforeorder/(180文字)

https://www.trivector.co.jp/feature/ (2,000文字)

https://www.trivector.co.jp/brandoftranslation/  (780文字)

合計:3460 文字です。上記の URL のお見積りをお願いします。

あらかじめ分量と内容がわかるため、お見積りは比較的早く提出できますが、いくつか注意点があります。

  • お客様による分量の算出方法に誤りがないか、実際の原稿を Word か Excel でお借り次第、再度見積もり
  • 実際の作業時は Word か Excel で支給してもらう必要がある(これができなければ、1 および 2 と同じリスクが発生する)

1 番や 2番よりはリスクは減りますが、最も安全とまでは言えません。最後にお勧めする方法がもっとも安全で正確な見積もりを作ることができます。

4. 翻訳対象となるテキストを Word か Excel で送る

問い合わせ例

添付のエクセルに、翻訳対象のテキストを URL ごとに記載してあります。こちらのファイルを元に、お見積りをお願いいたします。

この方法が一番安全かつ、正確にお見積り作ることができますし、以下のメリットを享受することができます。

  • 見積もりをすぐに作ることができる
  • 対象箇所に誤りが出にくい
  • ファイルに上書き、または併記にして納品できるためお客様側で最終確認をしやすい
  • 多くの翻訳会社の見積もりの基本算出方法である「分量×単価」の「分量」を正確に出しやすい
  • 明らかな不要箇所(重複しているヘッダー、フッターのメニュー、URL・電話番号など)を特定できるため、コストを抑えられる

それぞれの特徴(まとめ)

上記の内容を表にまとめるとこのようになります。

それでもスピーディで楽な方法が良い?

前述のように実際に多いお見積り依頼はスピーディで楽な 1 番のパターンです。パッと URL をコピーしてメール送るだけですから、急いでいるときは特にそうしたくなると思います。

ただこれまでお伝えしてきた通り、結局、その後、翻訳会社から翻訳対象箇所の確認の連絡があったり、どこまで作業するかといった条件の確認があるので、それらのやり取りの時間を考慮しトータルで考えると、むしろこちらのほうが時間がかかってしまったというケースもあります。

つまり、1 番~3番目までの方法は実際には「楽」ではなく、「楽」に見えるだけで、最終的にはお客様側のご負担が大きくなってしまいます。

ましてや、もし貴社が、その先のお客様から Web の翻訳相談を受けていれば、貴社だけではなく貴社のお客様にもやり取りのご負担がかかってしまう可能性があります。

そういったことを防ぐために、ぜひ 4 番目の方法をご検討いただきたいのですが、そうは言っても「実際にやるかどうかわからないのにそこまでは準備できない」というご意見もあるでしょう。その場合には以下の条件で、概算お見積りをお渡しすることが可能です。

概算見積もりについて

お問い合わせいただく際に、よくあるのは以下のようなご意見です。

「まだやるかどうかもわからないから、Word や Excel の準備はできない」

とりあえずどのくらいの金額と作業期間がかかるのか目安が知りたいだけ

確かにこのような場合には、Word や Excel をわざわざ見積もり時点で準備するのは難しいと思いますし、弊社でもそのような場合は、「何が何でも Word や Excel で支給してください」とは申し上げません。

ここまでにお伝えした URL 等でのお見積りの精度のご説明を差し上げ、あくまで概算見積であり、正式なお見積りは諸条件がはっきりした時点で作り直すという前提で概算見積もりを準備しますのでご安心ください。

翻訳会社にはこの順番で問い合わせよう

上記の優先度に応じて翻訳会社に問い合わせると概算見積もりとはいえ、それなりの精度の高いお見積りを取ることができます。

TRADOS などの翻訳支援ツールではだめなのか

また Web サイトの翻訳を行う上で、翻訳支援ツールを使用してお見積りを作るというケースもあります。

※Web サイトコンテンツのようなマーケティングマテリアルについて、TRADOS を代表とする翻訳支援ツールを使用すること自体の信頼性がどうなのか、という点は今回は割愛します。

あくまでお見積りを作成するという点において考えると、結局のところこれも同じことです。

お見積金額や納期に関わってくるのは、ツール使用の有無でなく、「翻訳対象箇所を具体的に指定できるかどうか」だからです。

「なんとなくこのあたりを見積もって」ということであれば、TRADOS を使っても正確にはカウントできません。そのため、こちらも概算お見積りとして使用することはできても、対象範囲をはっきりさせることがより重要だと言えます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。翻訳の見積もりをとるに限らないのですが、結局のところ、「最初に手間をかけるか、後で手間をかけるか」という点が重要だということです。

確認作業を減らし、正確で安全なお見積りを翻訳会社からとることを目的にしますと、「仕事は準備が7割」と言うくらいですから、やはり事前にファイルを整理していたただくのが最も効率が良いと言えます。

今後もコロナウイルスの影響はまだまだ続きそうですので、Webサイトに注力される企業様は増えていくでしょう。そういったお客様のために、弊社で少しでもお役に立つことができれば何よりです。今回の記事には書いていないようなケースもあるかと思いますので、こういう場合は?これはどうなるの?これもできる?などなど、ご質問等ありましたら、遠慮なくお気軽にお問い合わせください。