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その英語の資料が稟議を止めるー外資系 IT 企業が日本市場で売上を逃す本当の理由

ローカライズ

「英語で十分」という思い込みが、ビジネスチャンスを逃している

「うちのクライアントは英語が読めるから大丈夫」「まずは英語でローンチして、売れてから日本語化すればいい」―外資系IT企業が日本市場への参入時によくある話です。

しかし、データはまったく別のことを物語っています。例えば、英語に自信がある担当者でさえ、ローカライズされた製品を選ぶ確率は英語版の 4.5倍になっています。なんと、80%以上の人が「日本語の資料がなければ十分に検討しない」と答えています。これは感情論などではなく、購買行動の実際のデータです。

Survey of 8,709 Consumers in 29 Countries Finds that 76% Prefer Purchasing Products with Information in their Own Language

https://csa-research.com/Blogs-Events/CSA-in-the-Media/Press-Releases/Consumers-Prefer-their-Own-Language

More than Nine out of 10 Businesses Surveyed Across Eight Countries Prefer to Purchase Products That Have Been Adapted to Local Language and Market Needs

https://csa-research.com/Blogs-Events/CSA-in-the-Media/Press-Releases/businesses-prefer-local-language-purchasing

以前にも解説したように日本では、英語力の問題だけではなく組織としての稟議制度も関係しています。1つの B2B プロダクトを購入するかどうかという点では、平均13人ほどが関与し、86%の案件がどこかで停滞するという事実です。

つまり、経営層、IT 部門、法務、情報システムなど―全員が英語に対して同じ理解に達し、合意するのは想像以上に困難であるということです。本記事ではこれらの事実を踏まえ、「翻訳=コスト」ではなく、「翻訳=売上を生むための必要な投資」として日本語ローカライズを位置づけ、推進する必要があるということをご説明し、加えて海外本社を説得するための定量的な根拠もお伝えします。

※実は、本記事の内容に近しい記事を 2017年にも書いており、「なぜ翻訳するのか?」というシンプルな問いを立てたことがあり、その答えは今回とほぼ似たものになりますが、こちらもぜひご一読ください。

なぜ翻訳するのか?

ローカライズ費用は外資系企業にとってコストなのか、投資なのか

上記の記事化したのが 2017 年でしたが実際にはもっと昔(恐らく 20年、30 年単位)から日本市場での販売セオリーの中に「日本語化」は間違いなくあったはずで、綿々と続く課題ということは間違いなさそうです。

生成 AI 時代の購買プロセスとまったく変わらない合意形成

稟議書

生成 AI や SaaS の普及により、製品やサービスの比較は誰でも簡単にできる時代になりました。しかしながら「情報を集められる」ことと「社内で合意を取る」ことは、まったく別の話です。

日本企業においては、担当者レベルで情報を集め、比較検討をしたとしても最終的な決定権は担当者にはありません。自分で決められる自由度は(それこそ外資系企業と比較しても)まだまだ小さいと言えます。さらに関係者が増えれば増えるほど、全員が同じ理解に到達する確率は下がるため、冒頭のように 86% の案件が停滞したり保留になると言われています。

その原因が英語のドキュメントです。日本語化されていないドキュメントがあると、経営層・IT部門・法務・情報セキュリティ部門のすべてに対して説明をするのは極めて困難になります。

つまり、だからこそ日本語化を最優先事項として投資しなければならないのです。


エビデンス①:母国語による体験は購買の確率を圧倒的に押し上げる(B2C/B2B)

B2C における母国語の影響力は?

CSA Research が 29 か国 8,709 人を対象に実施した大規模調査では、76 %が母国語情報のある製品を選好し、40 % は他言語サイトでは「決して購入しない」と回答しています。オンライン比較が当たり前になった今も、実はこの傾向は変わっていません。

Survey of 8,709 Consumers in 29 Countries Finds that 76% Prefer Purchasing Products with Information in their Own Language

https://csa-research.com/Blogs-Events/CSA-in-the-Media/Press-Releases/Consumers-Prefer-their-Own-Language

B2B ソフトウェアでの圧倒的な差を把握する

ローカライズ

さらに注目すべきは、B2B ソフトウェアの購買に関する調査結果です。8 か国 351 名の購買担当者を対象にした調査では、英語に自信がある層であっても、ローカライズされた製品を購入する確率は英語版の 4.5 倍になるという結果が出ています。

それだけではありません。なんと 8 割超が「ローカライズ資料のない製品は十分に検討しない」と回答し、6 人に 1 人は「日本語化されていない製品は検討対象にすら入れない」と明言しているのです。この事実は決して無視できない数値です。

More than Nine out of 10 Businesses Surveyed Across Eight Countries Prefer to Purchase Products That Have Been Adapted to Local Language and Market Needs

https://csa-research.com/Blogs-Events/CSA-in-the-Media/Press-Releases/businesses-prefer-local-language-purchasing

日本に関するデータもなかなか衝撃的です。日本では「母国語以外の言語で購入する」と答えた回答者はわずか 5 %にとどまり、100 % が日本語版での購入を好んでいるという結果が示されています。この結果からも分かる通り、英語版の製品やドキュメントだけでは日本市場において致命的なハンディキャップになってしまうのです。当然、多くのビジネスチャンスを逃すことになるでしょう。

価格への影響は?

冒頭からお伝えしていますが、日本語ローカライズは単なるコストではありません。B2B のユーザーの 66 %が、ローカライズされた製品には最大 30 %の価格上乗せを許容すると回答しているからです。つまり、日本語品質への投資は値引きというよりもむしろ価格を高める効果があるということです。

「翻訳≠コスト」

これらの数字が示すのは、「翻訳=コストである」という発想自体が、そもそも間違っているということです。

日本語化を行うことで「製品やサービスの価値が日本語で正しく伝わる」という、貴社ユーザにとっての当たり前の体験は、製品やサービスの検討対象に入る確率、その後の商談の勝率、そして販売価格を同時に押し上げる収益ドライバーになるのだということが分かります。

これからはますます翻訳=コストという視点を変えなければならない時代になっていくでしょう。


エビデンス②:日本の英語力の現実と、13人が止める購買プロセス

日本の英語力 水準レベルを考慮する

EF Education First が発表した英語能力指数(EF EPI 2024)において、日本は 116 か国中 92 位、スコアは 454 点で「Low(低い)」に分類されています。世界平均の 477 点を下回り、地方別スコアではさらに低い地域が目立ちます。

世界最大の英語能力指数 ランキング

https://www.efjapan.co.jp/epi/

日本人の英語力、非英語圏で92位に後退:スイスの教育機関2024年調査

https://www.nippon.com/ja/japan-data/h02199/

停滞する購買プロセス

また前述のとおり、Forrester の調査では B2B 企業での購入プロセスの 86 % が停滞しています。平均で 13 人ほどが関与する購買プロセスにおいて、英語版のままだとなかなか理解されません。つまり「日本語になっていない」説明はクライアントの意思決定を遅らせる、また最悪の場合には却下されるという決断すら導きかねないのです。

「英語を読める人が社内にいる」ことと、「英語資料で社内の合意を取る」ことは、まったく別物です。平均 13 人の購買に関わる人々は、経営層、IT部門、法務、情報セキュリティ、調達、エンドユーザ部門など多様なポジションや役割の人々が含まれており、何度も申し上げる通り、彼ら全員が英語に堪能とは限らないため、意思決定プロセスが前進しないということになります。

だからこそ、母国語の資料がある方が説明の手戻りが減り、稟議やレビューが圧倒的に前に進みやすい――これが日本市場の実務における真実でしょう。

言語の壁が1つでも残っていれば、誤読のリスクもありますし、説明コストや手間も増え、かつクライアントの意思決定の遅延が発生するのだということを知っておく必要があります。


エビデンス③:日本語は「翻訳」だけでは足りない―DTP 品質が信頼を左右する

DTP 組版という基礎体力

では「とにかく日本語になっていればいい」のでしょうか。実はそうではありません。日本語の品質は、意味の正確さだけでは測れないからです。W3C の JLREQ(Requirements for Japanese Text Layout)は、DTP に言及し、「句読点のぶら下がり、禁則処理、縦横書きの使い分け」など、日本語特有の DTP の要件を詳細に定めています。

Requirements for Japanese Text Layout
日本語組版処理の要件(日本語版)

https://www.w3.org/TR/jlreq/

仮に日本語に翻訳された内容が正しくても、レイアウトが崩れているだけで雑に見えますし、信頼を失う可能性があります。日本人読者はそういった「見た目」にも細かい方が多く、「神は細部に宿る」というくらいきっちりしたドキュメントや資料を求める傾向が高いのです。これが日本語の怖いところですが、当然と言えば当然でしょう。

高額となるエンタープライズ向け IT 製品だからこそ、カタログ、導入事例、ホワイトペーパー、セキュリティ白書や導入ガイドなどが読みにくい、見にくいということであれば、それだけで製品やサービスの品質自体も疑われることになるのです。

母国語の設計は使いやすいかどうか

これは翻訳業界でも近年大きなトレンドとして存在しますが、日本語の読みやすさを極限まで追い求めることで、各種ドキュメントの Readability や Usability 向上を目指すというものです。日本語に翻訳されていればユーザにとって使いやすさが高まります。

つまり、ただ英語から直訳するのではなく、英語の作成段階からローカライズを意識し、それに基づいて各言語(今回は日本語ですが)に展開するということです。

マーケティング担当者に必須の「マーケティング翻訳」とは

このように、様々なドキュメント類(カタログ、ホワイトペーパー、導入事例、価格表、FAQなど)がすべて「体験品質」で評価が変わってしまいます。意味の正確さと見やすいレイアウト両方を満たさないと、どんなに優れた貴社製品も「最後の一押し」が弱くなってしまいます。

繰り返しになりますが、英語→日本語の直訳、そしてレイアウトの崩れは、貴社製品の評価を毀損してしまう可能性があります。

日本語化とは、単なる言語変換ではなく、日本市場において「貴社がどう伝えるか/どう伝わるか」であり、それが「信頼できるかどうか」の再設計でなければなりません。

まとめ:「翻訳コスト」から「収益を生む日本語版の設計」へ

いかがでしょうか。翻訳はコストであるという見方では、ユーザニーズを見落としてしまう可能性があります。また日本の担当者は当然と考えていても、本社の理解がなかなか得られないというケースも何度も目の当たりにしてきました。ちなみに、日本企業が日本国内で行うビジネスでは、これらの課題は存在しないため、外資系 IT 企業特有のものと言えます。ただ、競合するのは日本企業の製品であるならば、やはり「真の日本語化」というのは避けて通ることができないのではないでしょうか。

重要項目解説
日本語版の価値母国語(日本語)の情報提供はクライアントの購買の確率を上げます(B2C では 76% が日本語情報を選好し、40% は他言語では買う気がない)
購入率向上B2B でも効果は同様。英語に自信のある層でさえ、母国語にローカライズされると購入確率は 4.5 倍に跳ね上がり、特に日本市場では 100% が母国語での購入を好むということです。
日本独自の稟議システム根拠の一つとして日本の英語力は 116 か国中 92 位に落ちており、さらに購買プロセスは平均 13 人もの関係者が存在し、86 %がどこかのプロセスで停滞してしまうと言われています。シンプルに伝わり、理解しやすい日本語をどのように設計するかは、稟議という合意形成プロセスで外すことができなくなっています。
ユーザビリティの向上さらに、日本語は「読みやすさ、見やすさ」まで問われています。デザインやレイアウトなどもそのまま製品自体の信頼につながるのです。

繰り返しになりますが、もはや英語だけで押し切る時代ではありません。日本語で「伝わるように設計された体験」こそが、クライアントの製品検討の土俵に上がり、受注率や販売価格を底上げするのではないでしょうか。海外本社へのレポートでは、「翻訳コストの承認」ではなく、「売上を生むための日本語版作成への投資」として、定量的なビジネスケースを示すのが有効かもしれません。

日本語版へのローカライズ業務は、決してコストセンターではありません。収益を生む、戦略的で重要な投資なのです。

外資系IT企業が日本語化を後回しにすると、商談の入口で機会を失い続けることになります。

ぜひそういった事態を避けるために、貴社のローカライズ戦略を見直してみてはいかがでしょうか。

IR 情報の日英同時開示への対応!海外投資家に応える IR 翻訳 実践ガイド

IR翻訳

なぜ今 IR 翻訳の「やり方」を見直すべきなのか?

2025年4月1日以降、東京証券取引所プライム市場の上場企業にとって大きな変化がありました。それは「決算情報」と「適時開示情報」の日英同時開示が原則となったということです。一部の企業には2026年3月31日までの猶予期間が認められていますが、この大きな変化は、これまでの IR 翻訳のプロセスを根本から見直す機会となります。

【プライム市場の英文開示(2025年4月以降)】英文開示の義務化の対象となる適時開示情報とは何ですか。

https://faq.jpx.co.jp/disclo/tse/web/knowledge8611.html

この制度改正は、単なるルール変更ということではありません。なぜなら、海外投資家が日本語の情報を待つことなく、迅速かつ正確に企業情報を把握できるようにすることで、「海外投資家との建設的な対話」を深化させ、ひいては企業価値を高めることがその真の目的だからです。

しかし、多くの IR 担当者が「現実問題としては、どうやって同時開示を実現すればよいのか?」「限られたリソースで翻訳の質を担保するにはどうすればいい?」といった現実的な課題に直面しています。海外投資家の株式売買金額は年々増大し、2023年には全取引の約6割を占める重要な投資主体となっており、さらにその情報源の約6割が「上場会社の開示資料(英語)」であるという調査結果もあります。

つまり、海外投資家にとっては「迅速で理解しやすい英語情報が不可欠」だと言えますし、企業からすればいかに「スピーディに海外投資家に自社の IR 情報を提供できるかが重要である」ということです。

本記事では、この IR 翻訳の課題を正面から受け止め、そして海外投資家からの信頼を勝ち取るための実践的な知識とノウハウをご紹介します。本制度の背景から具体的な翻訳プロセスの設計、さらには多くの企業が陥りがちな落とし穴とその回避策、そして費用対効果を高める戦略までを網羅し、IR 翻訳に関するあらゆる疑問が解消されることを目指し、貴社が自信を持って IR 翻訳体制を構築できるようにご説明します。

2025年 IR 翻訳ルール徹底解説:何が変わり、どう対応すべきか?

まずは、IR 翻訳における最大の変更点である「2025年ルール」の概要を正確に理解しましょう。簡単にまとめると以下の表のようになりますが、まずはしっかり原則を理解することが重要です。

対象となる情報と開示の原則補足説明
対象決算短信などの「決算情報」と重要事実などの「適時開示情報」が主な対象
原則日本語版と英語版を同時に開示することが求められる
開示チャネル英語版も日本語版と同じく TDnet を通じて開示される。

TDnet に登録することにより、海外投資家が利用する情報ベンダー等にタイムリーに配信され、東証Webサイトの英語サイトにも掲載。これにより、海外投資家に対し公平で充実した情報提供が実現可能に。

なお、基本は「同時開示」が原則ですが、以下の例外も認められています。

※日本語の先行開示: 災害など緊急性が高い場合や、関係者との調整で開示直前まで日本語内容が定まらないなど、やむを得ない理由がある場合は、日本語版を先に開示することが可能です。ただし、その後速やかに英語版をTDnetで開示する必要があります。

※「全文翻訳」は必須ではない: 義務付けられている英語による開示については、重要な部分を抜粋、要約した英語版(サマリー英訳)も認められています。これにより、全ての文書を逐一翻訳するのではなく、海外投資家にとって特に重要な情報を優先的に英語で提供することができます。これは、実務上の負荷を軽減しつつ、海外投資家がスピーディーに情報を把握することを目的とするためです。

英文開示の目的と海外投資家のニーズ

この制度改正は、海外投資家が日本語の情報を待たず、すぐに内容を把握できることを目的としているため、重要なのは「スピーディーに投資家が理解しやすい英語情報を提供する」こととなります。

なお、東証のアンケート調査結果によると、海外投資家の58%が投資判断において「主に上場会社の開示資料(英語)を利用している」と回答しています。また新規投資においては90%が、既存投資先では82%が「四半期に1回以上」英文資料を利用していることが分かっています。

特に決算短信は「英文開示がない場合は投資しない」と回答した割合が最も高く、「必須資料」として最優先で IR 翻訳を進める必要があります。さらに次いで IR 説明会資料、有価証券報告書、適時開示資料も「必須」または「必要」とされており、これらの IR 翻訳も重要だと言えます。

開示タイミングとしては、決算短信と適時開示資料において、日本語との同時開示をしてほしいというニーズが最も高くなっています。

※なお、英文開示はあくまで日本語の開示の「参考訳」との位置付けであり、万が一内容が不正確であったとしても、それ自体は規則違反とはみなされません。一方で、英文の同時開示を実施しなかった場合は、その経緯・原因等に応じて、公表措置等の対象となる場合があります。

スタンダード市場・グロース市場の対応範囲

プライム市場以外の市場に上場している企業も、英文開示の推進が期待されています。

スタンダード市場: プライム市場のような英文開示の義務等はありませんが、海外投資家から投資を呼び込み、企業価値向上につなげる観点から英文開示が有用です。

グロース市場: 英文開示の義務やCGコードの原則の対象とはなりませんが、例えば、将来の成長の実現に向けて資金需要がある場合などは、海外投資家から投資を呼び込み、成長につなげるためにも英文開示が有用であると考えられます。

スタンダード市場・グロース市場の対応

英文開示実践ハンドブック(日本取引所グループ)から抜粋

https://www.jpx.co.jp/equities/listed-co/disclosure-gate/

英文開示実践ハンドブック: 英文開示に関する上場規則、計画立案、翻訳外注、機械翻訳活用など、詳細なノウハウが網羅されています。

https://faq.jpx.co.jp/disclo/tse/web/knowledge8463.html

優先順位付けが成功の鍵!IR 資料別の翻訳計画

さてこれまで見てきたように日英同時開示するための第一歩は、IR 翻訳が必要な資料を「必須」「推奨」に明確に区別し、優先順位をつけて翻訳計画を立てることです。

必須資料と推奨資料一覧

重要度資料の種類補足説明
必須資料決算情報
(決算短信)
サマリー情報東証より英文開示様式例が公表されており、主要な経営指標は金融庁の EDINET タクソノミ英文(以下「タクソノミ英文」)準拠となっています。

社名、代表者名、問い合わせ先、日付情報などの英語表記を事前に決めておくことで効率的に作成できます。
財務諸表XBRL の英文ラベル(タクソノミ英文準拠)が設定されています。

日本語開示書類の作成支援会社が提供する英文ラベル表示機能を活用することで作成が可能です。
定性的情報各社で記載内容が異なるため翻訳が必要ですが、使う可能性のある文言は前広に訳例を準備したり、単発的な非定型文言は外部委託を活用することが効率的です。

前年度分をあらかじめ英文化しておくことも、期間短縮や作業負荷低減に役立ちます。
財務諸表注記専門性が高いですが、定型文言は訳例を準備することで効率的に作成できます。

前回の記載内容を踏襲することが多いため、2回目以降は作成期間の短縮が可能です。
非定型文言は外部委託を検討することが考えられます。

また、初回の作成期間の短縮と作業負荷低減のため、前年度分を事前に英文化しておくことも一案です。
決算情報
(決算補足説明資料)
数値更新中心の定型範囲と、定性的情報が更新される非定型範囲に分類でき、図表が多いのが特徴です。

全文での日英同時開示が難しい場合の経過措置として、概要をまとめたページのみを英文の「サマリー版」として日本語と同時に開示し、全体版は翌日以降に開示する「2段階開示」ができる資料構成にしておくことが推奨されます。

また、レイアウト変更が発生するため、元のデータを修正しやすいフォーマットにしておくことが重要です。
適時開示資料東証の英文開示様式例をベースに作成できる定型的なものは、訳例を準備しておくことで効率的に IR 翻訳が可能です。

突発的な開示に備え、過去の同様の案件を事前に英文化しておくことも有効です。

日本語のボリュームが多い場合は、海外投資家が事案の概要を把握できる程度に要点を絞ったサマリー英訳も認められています。
推奨資料統合報告書これらの一連の資料は、投資家が企業の長期的な戦略や ESG への取り組みを深く理解するために不可欠であり、積極的な開示は企業価値向上に直結します。

東証は、招集通知の英訳に努めること、開示書類のうち必要とされる情報を合理的な範囲で英語開示を進めることを CG コードで推奨しています。
有価証券報告書
株主総会招集通知
コーポレートガバナンス報告書
IR 説明会資料
ESG 報告書
サステナビリティレポート

まずは必須資料を優先的に準備しましょう。また、必須資料の同時開示体制が整ったら、次に以下のような資料の英語版を段階的に整備していくことをお勧めします。

IR翻訳の段階的ステップ

海外投資家に読まれる IR 翻訳の極意:Plain English の実践

これまでご説明した通り、IR 翻訳の重要性はますます高まっています。だからこそ、ただ IR 翻訳をするだけでなく、海外投資家がストレスなく読める情報を提供することが重要です。

その鍵を握るのが「Plain English(平易な英語)」の原則です。

これは、米国の証券取引委員会(SEC)が推奨している開示文書の書き方で、「誰にでも理解できる、シンプルで簡潔な表現」を徹底することを意味します。

A Plain English Handbook: How to Create Clear SEC Disclosure Documents

https://www.sec.gov/about/reports-publications/newsextrahandbook

Plain English を実践するための具体的なヒント

Plain English のポイント

Plain English で書かれた IR 資料は、海外投資家にとって非常に読みやすく、企業の透明性や誠実性を高めることにつながります。

一方で海外投資家は、多少訳質が悪くても、提供タイミングが遅れないことを好む場合もあるため、正確性が担保された上で、投資判断に影響のないレベルであれば厳格な表現の整合性よりもタイムリーな情報発信を優先する考え方も重要です。

安定した IR 翻訳を支える3つの土台

品質とスピードを両立させるためには、場当たり的な対応ではなく、しっかりとした体制を構築することが不可欠です。以下の3つの要素が、安定した IR 翻訳を支える土台となります。

1. 専門用語の統一:ブレない表現で信頼を築く

「会計」「ガバナンス」「ESG」といった重要なキーワードや、専門用語などを日英で統一し、専門用語集として管理します。これにより、担当者や外部ベンダーが変わっても、一貫した表現を維持することができます。

IR 翻訳において、固有名詞の調査や各ドキュメントでの用語の整合性の確認は多くの時間が必要となります。専門用語集には、固有名詞(氏名、部署名、役職名、商品名など)、業界用語・専門用語、会社独自のフレーズ・スローガン、勘定科目(タクソノミ英文にない独自の科目)などを優先的に登録し、定期的にアップデートすることが重要です。翻訳会社によっては用語集の構築自体を請け負っているケースもありますので事前準備としても依頼をしてもいいでしょう。

2. 効率的なプロセス設計:スムーズなワークフロー

IR 翻訳は単なる「文字の置き換え」ではありません。以下のような効率的なプロセス構築を行うことで、品質とスピードを両立することができます。

効率的なプロセス設計

スピードと品質を両立させる「IR翻訳」テクノロジーとテクニック

「日英同時開示」を実現するには何と言ってもスピードが命です。ここでは、IR 翻訳の効率を劇的に改善するツールとテクニックをご紹介します。

翻訳メモリシステム(TMS)の活用

Phrase などの翻訳メモリシステムは、過去に翻訳した文章のデータベースです。これにより、定型的な文章や一度翻訳した表現を再利用することができ、IR 翻訳の時間短縮と表記揺れ防止に役立ちます。前述の専門用語集と連携させることで、さらに効果を発揮します。CAT(Computer Assisted Translation)ツールと組み合わせて使用することで、過去訳の踏襲を促し、統一性を保つことができます。

AI 翻訳+ポストエディット(PE)の導入:AI+PE プロセス

AI 翻訳は精度が飛躍的に向上しており、特に定型的な表や注記、パターン化された説明文などの IR 翻訳に非常に有効です。

差分運用の徹底

前期の開示資料と当期の資料を比較し、変更された部分(数値、日付、固有名など)を特定して優先的にレビューしましょう。これにより、無駄なチェック作業を省き、ピーク時の工数を大幅に削減できます。日本語原稿が確定する前に IR 翻訳を開始し、差分を反映していくという進め方が、日英同時開示では必要不可欠となります。

機械翻訳活用の具体的なコツ

機械翻訳システム自体の精度はもちろんですが、より重要なのは原文の品質です。原文の曖昧性が高いと意味を取り違えてしまうケースもあります。日本語の原稿段階で、主語を明確にする、文を短くする、曖昧な表現を避けるなど、曖昧性をなくすような「翻訳の前処理作業」を行うことこそ、人力翻訳、機械翻訳のいずれにおいても品質を上げる確率を高めます。

IR 翻訳の年間スケジュールと回避すべき落とし穴

効率的な IR 翻訳のタイムライン(例)

開示希望日から逆算し、綿密なスケジュールを策定することが重要です。

ガントチャート

多くの企業が陥りがちな落とし穴と回避策

IR 翻訳において多くの企業が勘違いしてしまうケースをご紹介します。

誤解落とし穴
「全文翻訳が必須」という誤解制度上はサマリー英訳も認められているにもかかわらず、「全てを翻訳しなければならない」と誤解し、無駄な工数をかけてしまう。投資家が最も関心を持つ「要点」を絞り込み、サマリー英訳を戦略的に活用する。

東証もサマリー英訳を認めている。
翻訳会社にすべて丸投げして企業としての資産が残らないIR翻訳業務を外部委託する際、作成された用語集や翻訳メモリが自社の資産とならず、毎回ゼロからやり直すことになる。契約段階で「用語集や翻訳メモリの帰属と維持」を明確に定め、これらの資産を自社で管理し、継続的に活用できる体制を構築する。
レビューが「言い回し」の修正に偏るIR 翻訳のレビューが、数値や固有名詞といった客観的な情報のチェックよりも、個人的な「言い回し」の好みに終始してしまう。まず数値や日付などの機械的な突合作業を完了させ、レビュー担当者は「論旨が正確に伝わっているか」といった本質的な部分に集中できるようにする。

関係者で IR 翻訳の方針や「やらないこと」を事前にすり合わせ、認識を統一することが重要

開示前の最終チェックリスト

開示前に以下のポイントを確認することで、品質と確実性を高めることができます。

チェックリスト

翻訳の納品物の最終チェック項目

納品された IR 翻訳は、以下のポイントを重点的に確認しましょう。

チェック項目
数値の正確性投資家が最も重要視する部分です。

数値、マイナス表記、単位表記(円/yen、thousand/million/billion)、パーセント数値の変動表現、期間表記(累計期間VS会計期間、期間表記VS期末表記)、増減表記(キャッシュフローなど)、日本語原稿は変更ないが翻訳は更新が必要な数値(当年度/前年度)などを細かく確認します。
勘定科目、その他用語の正確性・統一性金融庁の EDINET タクソノミとの合致、利益・損失の確認、勘定科目間の単語統一(associate/affiliate、stock/shareなど)を行います。

会社名、氏名、組織名、役職名、標語、セグメント名、商品名などの固有名詞の統一性も重要です。
誤訳・訳抜け原稿にある内容が翻訳されていない、または原稿の意図と異なる翻訳になっていないかを確認します。
最終レイアウトレイアウトなどを含め全体的に確認します。

翻訳会社を賢く活用する IR 翻訳のポイント

日英同時開示に向けては、社内のリソースだけでは対応が難しい場合が多く、外部の翻訳会社を賢く活用することが不可欠です。

翻訳会社の選定

IR 翻訳を依頼時の Translation Kit の準備

IR翻訳の品質と納期を確保するために、依頼時には以下の点(Translation Kit)を準備し、明確に伝えましょう。

項目詳細
翻訳原稿と範囲の明確化文字認識できる電子データ(Microsoft WordやPPT推奨)で原稿を準備します。

部分的な翻訳を依頼する場合は対象化をハイライトやコメントで範囲を明確にします。
翻訳方針・参照資料の共有専門用語集、スタイルガイド、過去の翻訳(前年度版など)、その他の開示書類などを事前に提供し、参照の優先順位も伝えます。
翻訳スケジュールの提示開示希望日から逆算し、日本語原稿の確定時期、IR翻訳開始時期、レビュー期間、納品希望日などを綿密に策定し、翻訳会社と共有します。

特に、決算短信や招集通知のIR翻訳作業がピークを迎える時期は、直前の依頼では希望どおりの対応ができない可能性も出てくるため、年明け前から相談するなども必要になります。

リスクヘッジのための IR 翻訳の免責文

なお、IR 翻訳の正確性を100%保証することは難しく、誤訳による訴訟リスクなどを懸念する企業も少なくありません。こうしたリスクをヘッジするために、免責文言(disclaimer)をIR 資料に記載することも有効です。

特に、対象の英文開示は参照用に準備していること、仮に英文と日本語で開示内容に相違がある場合は日本語原文が情報として正しいこと、IR 翻訳に伴うエラーが発生する可能性があるため完全な正確性を保証できないこと、といった内容を明記することは、海外投資家の注意を喚起する上で重要です。機械翻訳を使用している場合は、その旨を明示することで特有の誤訳やエラーの可能性を伝えることができます。

免責文言の文例は、JPX English Disclosure GATE 等でも公開されています。免責をつけることで、海外投資家の手間を軽減しつつ、企業の開示意欲を示すことにもつながります。

IR 翻訳は「制度対応」と「信頼の文体」の両輪で対応

いかがでしたでしょうか。IR 翻訳のゴールは、単に「期日までに英語の資料を出すこと」ではありません。その先の、「海外投資家との強固な信頼関係を築くこと」にあります。

2025年ルールという制度の一次情報を踏まえて、まずは確実に同時開示できる体制を構築する。そして、「Plain English」の原則で読み手の負担を減らし、安定したプロセスで「再現性のある運用」を継続する。さらに、機械翻訳などの最新技術を賢く活用し、日本語原稿の作成段階から IR 翻訳を意識した工夫を凝らすことで、スピードと品質を両立させることができます。これこそが、投資家と企業の対話力を高め、ひいては中長期的な企業価値の向上につながるのです。

今回ご紹介した情報が、貴社の IR 翻訳体制構築の一助となり、海外投資家との建設的な対話がさらに深まることを期待しております。また IR 翻訳に関する疑問が解消され、貴社が自信を持ってグローバル市場での情報発信に臨めるよう、今後も継続的な情報提供に努めてまいります。

もし、貴社の IR 翻訳体制について、より具体的なご相談や個別課題への対応をご希望でしたら、お気軽に弊社にご相談ください。貴社の状況に応じた最適なソリューションをご提案し、IR 翻訳の成功をサポートいたします。

財務諸表の翻訳(英訳)サービス

【徹底解説】日本企業のアジア市場進出の成功を導く鍵となるローカリゼーション6ステップ

アジア市場進出

成長が続くアジア市場の魅力

アジア市場は広大で多様性に富み、世界の成長市場の一つとなっています。その中でも特に東南アジアは人口約6億7,000万人と日本の約5.4倍の規模を誇り、またタイ、インドネシア、ベトナムでは若年層が人口の約半数を占め、高いGDP成長率を維持しています。

中小企業白書から見るアジア市場進出と多言語翻訳

デジタル面でもスマホの普及率やインターネット利用率もかなり高く、日本企業にとって大きなビジネスチャンスであることは間違いありません。そのチャンスを見逃さずに海外進出、アジア市場への進出をするための具体的なローカリゼーションのステップをご紹介します。

ローカリゼーションとは何か?翻訳との違いとは?

ローカリゼーションは単なる翻訳のことではなく、言語・文化・商習慣などを含めて「現地仕様」に最適化するプロセスのことを指します。またローカリゼーションの対象というのは文章だけでなく、例えば、色彩、デザイン、UX、決済方法、法規制まで幅広く含まれるのが一般的です。

ローカライズとは

アジア市場でローカリゼーションが不可欠な理由

アジアには48の国・地域があり、さらに数千の言語と多様な文化があるのは有名です。ターゲットとする国や地域に合わせた表現をしなければ現地の人には受け入れられることはありません。

例えば、言語面ではインドでは22の公用語、フィリピンでは170以上もあります。中国に至っては方言は多数ですし、消費行動なども日本では口コミが重視される一方、東南アジアでは家族・コミュニティ・インフルエンサーといった人たちの意見が尊重される傾向にあります。

要素欧米圏の例アジア圏の例
色の意味白=純粋白=喪(中国)
赤=幸運(中国)
ジェスチャーサムズアップ=好意的な意味一部地域ではサムズアップが侮辱的になることも
食文化・宗教食材制限なしイスラム圏ではハラール必須、豚肉・牛肉制限あり

ですから、こういった特徴を無視してただ翻訳すればいいというわけにはいかないことがお分かりになるでしょう。

ローカリゼーション成功のための4つの視点

1. 徹底した市場理解と市場調査

実は最も大切なのは「ローカリゼーションの準備段階」という人もいるくらい各国の市場理解と市場調査は重要です。ローカリゼーション前に、現地の価値観や嗜好、購買行動を詳細に把握できるかどうか(色、ユーモア、宗教的配慮など細部の違いなども含めて)は、貴社商品や製品が売れるかどうか、受け入れられるかどうかを判断するための非常に重要な要素です。「相手を知る」ことはマーケティングの基本ですが、ローカリゼーションはそこにも関係しています。

2. 翻訳ではなく「体験の最適化」を設計する

単に文章を翻訳するのではなく、トーン&マナー、ビジュアル、UXまで現地の仕様にする必要があります。それは例えばスマートフォンなどが顕著です。例えば、モバイルファーストの市場では、スマホ画面での操作性を最優先に設計しなければ、ユーザがあっという間に離脱してしまいます。自分自身での経験でも確かに簡単に画面を切り替えたり、閉じたりするわけですから、いかに UI/UX が大切かは直感的に理解できるはずです。

「サービスやプロダクトを体験する中で、ユーザにどのような価値を感じてもらいたいのか」をしっかり設計しなくてはなりません。

3. 過度な一般化を避ける

前項と重複しますが、「アジアを一つの市場」と見なすのではなく、国・地域ごとの特性に合わせましょう。

例えば、有名なペプシ社の「Come alive with the Pepsi generation」が、中国では「先祖を墓から呼び戻す」と誤訳された事例は、過度な一般化のリスクを象徴していると言えます。

しっかり市場調査をし、背景を押さえておくことがこういったリスクを最小化するもっとも有効な手段だと言えます。

4. テクノロジーと人の融合

翻訳メモリやCATツール、AIPE などを使って効率化しつつ、文化的な背景を理解するネイティブ翻訳者が品質を確保していくことで、より信頼のおけるコンテンツを提供することができます。

成功企業に学ぶ!ローカリゼーション事例

アジア市場においてローカリゼーションの力によってビジネスが急速に拡大した例は以下になります。

企業名施策成果
Alibaba統合決済、グループ購入、WeChatとの互換性など現地の商習慣に柔軟に対応中国B2B市場で圧倒的シェアを誇る
Grab現地ドライバーとの契約・面接などで安全性を強化東南アジアで急成長、Uberとの差別化を図る
WeChat Pay / Alipay偽札問題解消、QRコード決済を普及中国国内外で急速に普及しておりシンガポールやタイにも拡大(シェア90%以上)
Mobike / Ofo都市短距離移動ニーズに特化したシェアサイクルの提供急速に利用者拡大、都市交通の新インフラに

このように、広義の意味でのローカリゼーションの実施により、企業の成長が押し上げられています。

日本企業が実践すべきローカリゼーションの 6ステップ

以下の図に示すようにローカリゼーションを成功させるためには、確実に押さえておくべきステップをご紹介します。

ローカリゼーションの6ステップ

ローカリゼーションの6ステップ

ローカリゼーションは投資だと捉える

「ローカリゼーションはコストがかかる」というイメージがありますが、それは違います。なぜなら、ローカリゼーションはコストではなく、海外市場での競争力を高める投資だからです。適切な現地語化ができなければ貴社ビジネスはうまくいきません。

逆にローカリゼーションがうまく機能すると顧客体験向上、口コミ拡大、売上増につながっていくと考えると、過大投資は避けつつ、最適な手段を選択し、投資していくというビジネスの基本は変わりません。

まとめ

いかがでしょうか。前述のようにアジア市場は将来性、成長性と多様性を兼ね備えています。その可能性を最大化するためには、戦略的なローカリゼーションが不可欠です。今回ご説明したステップを活用し、未来のユーザが「自分たちのためのブランド、自分のための商品である」と感じる体験を提供しましょう。

インバウンド市場における多言語翻訳 実践ガイド

今、なぜ多言語翻訳が重要なのか

2024年の訪日外国人観光客数は 3,600万人を突破し、コロナ禍以前を上回るペースで回復しています。しかし、多くのインバウンド/観光事業者が直面している現実は「翻訳はしたが業務負荷はなかなか減らない」という状況です。

これは、単なる翻訳から、質の高いコミュニケーションへの転換が求められている証拠です。

「もうひとつの言葉の壁」とは

「とにかく多言語対応をしておけば大丈夫」と考えていた時代から、現在は「質も伴なった多言語対応」をしなければならない時代に変わっています。「とにかく多言語」という状態だと以下のような問題が起きていました。

  • 多言語翻訳したが、誤訳があって余計に質問や問い合わせが増えてしまった
  • AIで翻訳したのにまったく違った情報が提示されてしまった
  • 導入した AI 翻訳システムが動作しない
  • スタッフのための言語研修をしたがマインドが変わらないので効果がない

これではまったく意味がありません。超えたはずの「言葉の壁」ですが、実は「もうひとつの言葉の壁」があったということです。

上記と関連しますが、多言語対応がうまくいかない理由はいくつかあります。

  • そもそもスタッフが外国語対応に不安を感じる(マインドセット)
  • 情報を正確に伝えられず、クレームに発展する
  • できる人とできない人の対応の質にばらつきがあり、業務効率が低下

このように「多言語対応」といっても企業や組織、団体ごとにかなりバラつきがあるのが実情です。こういった事態を避けるためには表面的な多言語対応ではなく、戦略的な多言語対応を計画しなければなりません。

  • 多言語対応そのものができていない(黎明期)
  • 翻訳はあるが正確に伝わらない/伝わっていない(現在)

実践的な多言語対応の進め方

対象言語の戦略的な選択と具体的なステップ

前述の通り、外国人観光客が満足する多言語対応というのは、実は通り一遍の「すべての言語に対応する」ということではなく、しっかりと自分たちのターゲットに合わせて選択する必要があるということです。では、そのためには何をしなければならないのでしょうか。

戦略設計のための準備(現状分析と計画策定)

これはどの事業でも同じですが、インバウンド市場においてもきちんと戦略を立てるべきでしょう。考えなしに闇雲に行動してもうまくいきません。

自分たちのお客様は誰なのか、その人たちにはどうアプローチすればいいのかを具体的に落とし込む必要があります。

作業項目補足説明
1現在の来場者データを分析特に外国人観光客の全体に対しての割合など
2今後誘致したいターゲット層を明確化
ペルソナ設定は必須
3戦略、施策決定予算と効果のバランスを検討
4競合施設の対応状況を調査
3C分析
5戦術決定、PDCA 運用PDCA を高速で回していく

言語を選択する(自社にとって優先度の高い言語は何か?)

そして次にどの言語から翻訳するのか(その理由)、どの言語に翻訳するのか(その理由)を決める必要があり、全体戦略に沿った決定をします。

言語補足説明
1英語世界共通の言語
2中国語(簡体字、繁体字)アジア市場では欠かせない
3韓国語リピーター率も高い
4その他言語自分たちの特性と来館者属性にあった言語

AI翻訳の効果的な活用法

次に、戦略に沿ってどのようなツールを使用するかを決定します。代表的な AI 翻訳テクノロジーはいくつかに分けることができます。使用用途に応じて、最適なツールやシステムを選択します。

  • 生成AI翻訳:ChatGPT、Gemini、Claude など
  • リアルタイム音声翻訳:ポケトーク、VoiceBiz® Remote など
  • マルチモーダル翻訳:画像認識とAR翻訳の組み合わせなど

成功事例

成功事例として多言語対応が進んでいる企業様をご紹介します。

  • 京阪電鉄:ポケトーク導入により駅員の多言語案内が強化され、駅構内の案内がスムーズになった結果、外国人観光客の満足度が向上しました。
  • 食べログ:生成AIの導入で92.3%の正解率と73%のコスト削減(参考 URL)

なお、これ以外でも AI 翻訳の上手に利用するとコストや業務改善につながる例は多くあります。

翻訳品質を高める4つのポイント

しかしながら、翻訳会社の立場から見解を述べると、上記のように AI 翻訳でうまくいケースとそうでないケースがあるのも事実です。前述の企業様も含め、実際は「AI に全部お任せ」というわけではありません自分たちにあった適切なプロンプトを書くためにも、以下のポイントをしっかり押さえる必要があります。

ポイント1:専門用語、固有名詞、表記スタイルの管理

翻訳の品質が高いというのは「正しく伝える力が強い」ということですが、それを支える要素のひとつに「専門用語や固有名詞の統一」があります。

例えば、地名や施設名、個人名、作品名など固有名詞はいたるところに存在します。

また、どのような表記ルールにするかも同時に決めなくてはなりません。

例えば、最近話題になった「ローマ字表記を約70年ぶり見直しの検討をする」というニュースですが、これらは翻訳時にも影響を与える重要なルールとなります。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/roman/roman_08/pdf/94182101_01.pdf

また観光庁や文化庁などが発行しているインバウンド関連の各種ガイドラインなどの内容にも準拠する必要があります。

文化庁:文化財の多言語化ハンドブック

https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/shuppanbutsu/handbook/index.html

観光庁:観光立国実現に向けた多言語対応の改善・強化のためのガイドライン

https://www.mlit.go.jp/kankocho/seisaku_seido/kihonkeikaku/inbound_kaifuku/ukeire/kankochi/annaihyoji.html

ポイント2:文化的な背景を説明する

また、これは意外と見落としがちなのですが、ただ単に翻訳するだけだと外国人観光客には理解できない内容のものがあります。特に伝統工芸など文化や歴史の共通認識がテーマだとそれがより顕著になります。

例:「江戸時代」という言葉を英語に翻訳する場合

  • ❌ 「江戸時代」→「Edo Period」
  • ✅ 「江戸時代」→「Edo Period(1603-1868)」

※単に、Edo Period だけでは伝わらないため、西暦での表記も入れなくてはなりません

アート翻訳×インバウンドサービスのご案内|トライベクトル株式会社

このように、日本特有の概念には何らかの説明を付与しなければならず、これは外国人視点で内容を調整しなければならないということです。また飲食店などの場合には「宗教・文化的配慮(食材表示など)」がマストになります。(ハラール、ハラームなど)

ポイント3:自然で分かりやすい表現を心がける

これはインバウンドに限った話ではありませんが、言語の品質としてどの言語への翻訳であっても以下のポイントは押さえなくてはならない重要なポイントです。

  • 直訳ではなく、自然な表現を心がけるようにする
  • 専門用語や業界用語はできるだけ平易な言葉に翻訳する
  • 文化的ニュアンスを考慮した「カルチャライズ」を意識する

逆に言うと、こういった点ができていないからこそせっかく翻訳したのに業務負荷が減らなかったり、むしろクレームになってしまうということが発生します。

ポイント4:人間によるチェック、ポストエディットは必須

そしてここが非常に重要になりますが、現時点で「AI翻訳」は完璧ではありません。これまでのポイントを全て押さえ、プロンプトを駆使しても限界があります。ハルシネーションを起こしてしまったり、そもそも欲しい結果を得られなかったりということがあります。

そのため、現時点では AI 翻訳後の「ポストエディット」という人間によるチェック作業が欠かせません。誤訳や訳抜けがないかはもちろん、固有名詞は正しく翻訳されているか、また文章自体のもつ文脈は適切か(誤解を招かないか)、前述の文化的な配慮はされているかなど多岐にわたりチェックし修正をする必要があります。

多言語対応の投資対効果を最大化するコツ

これまで述べてきたように、インバウンドが盛り上がっているからといっても闇雲にビジネスを進めるのではなくしっかりマーケティング戦略をもって取り組むべきだというのはお分かりいただけたと思います。

さらにワンランク上の多言語翻訳やインバウンド対応を行うためには、改めて以下のポイントを押さえておきましょう。

  • 段階的なシステムやツールの導入:優先度の高いポイントから順次対応する
  • 既存システムとの連携:WebサイトやPOSシステムとの統合
  • スタッフ教育:マインドセット、AI翻訳ツールの効果的な使い方をマスターする

また同時に、それがうまくいっているかどうかを評価しなくてはなりませんが、評価軸を事前に決めておく必要があります。例えば、以下のような指標です。

  • 外国人観光客の増減
  • 外国人観光客の満足度向上
  • クレーム件数の減少
  • 売上・客単価の向上
  • スタッフの業務効率の改善率

これらの指標をチェックしながら、多言語翻訳を進めていきましょう。

まとめ:言葉の壁を越えた「おもてなし」の実現

インバウンドにおける多言語翻訳は、単なる言語変換ではないことは言うまでもありません。

直接のコミュニケーションで最もパワーを発揮する多言語翻訳は、訪日外国人に日本の魅力を深く理解してもらい、感動を与える重要なツールです。

AI技術の進化により、以前より効率的で高品質な多言語対応が可能になりました。しかし、最終的に重要なのは「相手に伝えたい」「相手を理解しよう」という姿勢と、人間らしい温かさであることは変わりません。

適切なマーケティング戦略と実行により、言葉の壁を越えたワンランク上の質の高い「おもてなし」を提供し、インバウンドにおける多言語対応を実現しましょう。

「AI翻訳」を超えた「マーケティング翻訳」が良質なリードを生む理由

AI翻訳の爆発的な普及と消えない「伝わらない」壁

デジタル化とグローバル化が加速する現代において、翻訳の在り方も変わってきています。特に外資系IT企業を筆頭とするグローバル企業では、海外本社からの膨大なコンテンツ(ブログ、Web サイト、ホワイトペーパー、プレスリリースなど)をスピーディに日本市場に展開しなければならず、翻訳プロセスは常に改善の余地があると言えます。

その点において AI翻訳は、翻訳プロセスに革命をもたらしたと言えるでしょう。

「瞬時に日本語化できる」スピードとコスト効率は、従来の翻訳ワークフローを大きく変え、多くの企業で導入が進んでいるのは周知の事実です。

しかし、その一方で最近では新しいタイプのご相談が増えています。

  • 「確かに手間は減ったけれど日本のユーザには響く日本語になっていない」
  • 「ブランドイメージと合わない」
  • 「結局、期待する結果が出ていない」

(あえてこう表現しますが)これらの「伝わらない」コンテンツではどんなにスピーディに、どんなに広範囲に展開しても、貴社の期待する効果を生み出すことができないということです。

AI翻訳の導入で作業効率は上がっても、肝心のマーケティング効果、とりわけ「良質なリード獲得」が伸び悩んでいるとしたら、それは本質的な課題を見過ごしてしまっていると言えるのではないでしょうか。

目的は良質なリードを獲得すること

これもよくお聞きしますが、翻訳やデザインの仕事では「日本語としての特殊性を本社が理解してくれない」という話です。

(これはある意味で仕方ないのかもしれませんが)マーケティング担当者として直面する課題の1つは、本社の方々(上司)に「日本語の難しさ」ひいては「日本市場の特殊性を理解してもらえない」という側面も大きいのではないかと思います。

なぜなら彼らにとって翻訳作業は単なる「言語の置き換え」であり、「AI翻訳で十分な品質が出せるのだから、日本も同じようにやればいい」と考えられてしまうからです。

しかし日本市場で働く私たちはそうではありません。日本語は「ただの言語」ではないのです。また「本社側がグローバルで導入したシステムに則って AI翻訳をするように」という指示が降りてくることも珍しくありませんし、それにそって「単に翻訳すればいい」ということではありません。

なぜなら、翻訳そのものは貴社の目的ではないからです。

重要なのは「良質な日本語に翻訳しそのコンテンツを通して、日本市場での顧客と接点を持ち、最終的に顧客からの良質な問い合わせ(リード)を増やすこと」にあります。

これが分かっているからこそ、担当者としては「日本語の質」にこだわるのではないでしょうか。

AI翻訳が(まだ)越えられないマーケティングの「壁」

AI翻訳は、正確性も高く、またそれなりの表現力にも優れています。

しかし、良質なリード獲得に不可欠なマーケティング要素においては致命的な弱点があります。それは意味を理解して翻訳しているわけではないため、コンテンツの「パーソナリティ」や「ブランド」、そして「ニュアンス」「温度感」までは再現できないということです。

数年前の弊社記事「マーケティング翻訳」でも挙げたように、例えば「キャッチーな見出し」「洗練された言葉遣い」「ターゲットユーザーの行動を促すための表現」は、残念ながら AI翻訳だけで完結しません。

マーケティング担当者に必須の「マーケティング翻訳」とは

例えば英語のユーモアや比喩、特定の文化圏に根ざした表現は、AI翻訳では味気ない直訳になってしまったり、そもそも意図が伝わらなかったりします。
また、IT分野の専門用語が羅列されるだけの文章では、日本のユーザの心を動かすことはできません。AIは「情報の伝達」は得意でも、「価値」や「魅力」を伝え、顧客に行動を促すのは苦手なのです。(心、というとちょっと大げさですが・・・)

そして、この「伝わらない」コンテンツでは、いくら多くの人に届けた/届いたとしても、残念ながら良質なリードにはつながりにくくなります。外資系 IT 企業としては日本市場での成果を最大化するためには、どうにかしてこの「伝わらない壁」を乗り越えなればならないのです。

マーケッターが意識すべき「マーケティング翻訳」の重要性

ではいったいどうすればいいのでしょうか?

実は最近ではこれらの状況を危惧しているマーケティング担当者の方も増えており、弊社にも同様のご相談が増えているのですが、皆さん口をそろえておっしゃるのは

「従来の翻訳ではなく、「伝わる」マーケティング翻訳をしなければならない」

ということです。

「AI翻訳では不十分であり、単なる言葉の置き換えではダメ」ということが明確である以上、原文の意図や貴社ブランドのトーン、そして日本の市場の文化的な背景を深く理解した上で、最も効果的にメッセージが伝わる翻訳をしなければなりません。それこそがユーザの関心を引き、最終的に貴社へのお問い合わせや購買行動に結びつくようになるからです。

これからは「マーケティング翻訳」をして良質のリードを獲得することを強く意識しなければならないのです。

ちなみに、この「マーケティング翻訳」をひとことで説明すると「翻訳以上、ライティング未満」と言えます。

つまり「ライティング要素を盛り込む」翻訳となりますが、IT分野のコンテンツの専門性を保持しつつ、日本のユーザが共感し行動を起こすような魅力的な表現へと昇華させることになります。それは、まるでオリジナルの日本語コンテンツであるかのように、自然で力強い響きを持っているのです。

成功事例に学ぶ:マーケティング翻訳がもたらす具体的な「成果」と本社へのレポート

マーケティング翻訳は、以下のような形で貴社のミッション達成に貢献し、その効果は本社への具体的なレポートなどにも利用することができます。

①エンゲージメントの向上

日本のユーザが「自分ごと」として感じる言葉で語りかけることで、Web サイトの滞在時間や記事の閲覧率を向上させます。「単なるアクセス数ではなく、滞在時間や再訪率といったエンゲージメント指標が改善し、リードに繋がる顧客の興味関心が高まった」という報告ができるようになります。

②ブランド価値の構築

マーケティング翻訳では、AI翻訳で失われがちな貴社ブランド独自のトーンなどを守り、日本市場でのブランドイメージを強化します。

一貫性のあるメッセージは、ブランドへの信頼感を高め、長期的な顧客育成(ナーチャリング)につながります。
「マーケティング翻訳により、日本の顧客からのブランド認知度や好感度が向上し、それが良質なリードへと結びついた」といった形で示すことができるでしょう。

③コンバージョン改善と良質なリード獲得

貴社製品の魅力がより伝わるコピーに翻訳することで、問い合わせや資料請求といったコンバージョンにつながりやすくなります。

これもデジタルであれば明確なKPIとして設定可能ですので、本社への報告が可能になります。
「Web サイトからのリード獲得数や、セミナーへの申込数が増加しただけでなく、それらのリードの質が向上し、商談化率が高まった」といった形で報告できます。

このように、マーケティング翻訳は、単なる翻訳作業ではなく、貴社のコンテンツを強力な「マーケティング資産」に変える投資であり、技術であると言えるでしょう。

また、海外本社に対しては、「AI翻訳では得られない具体的なビジネス成果、とりわけ良質なリード獲得への貢献」を数値や事例で示すことが、予算を獲得する本質的な理由にもなり、日本市場での成功を確実にするポイントとなります。

一方で良質なコンテンツは「SEO効果の向上」や「読了率の向上」といった具体的なメリットも合わせて提示することができるのでより一層説得力が増すでしょう。

ローカライズ費用は外資系企業にとってコストなのか、投資なのか

まとめ:AI翻訳とマーケティング翻訳の最適な組み合わせで、日本市場の「良質なリード」を

AI翻訳は効率化のツールとして今後も不可欠なのは言うまでもありませんが、一方でユーザの心に響き、最終的に良質なリード獲得という成果につながるコンテンツを生み出すためには、マーケティング翻訳という作業が欠かせません。

プレスリリースやブログ記事、社内文書など、目的に応じてAI翻訳とマーケティング翻訳を戦略的に使い分けることが、限られた予算と時間の中で最大の効果を生み出す方法だといえます。またそれらは将来の貴社のマーケティング資産になるということも改めてお伝えします。

日本市場の特殊性を考慮した「伝わる翻訳」がいかに良質なリード獲得に直結するかを具体的に示すこと、さらに貴社コンテンツを資産として構築し、より一層良質なリードを増やすための方法として「マーケティング翻訳」をお勧めいたします。