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マーケティング担当者に必須の「マーケティング翻訳」とは

近年、翻訳業界の大きなトレンドとして、「マーケティング翻訳」や「クリエイティブ翻訳」と呼ばれるサービスがあります。AIの登場により、ますます重要視される概念となってきました。

今回はこれらについて解説します。

「マーケティング翻訳」とは何か

まず初めに「マーケティング翻訳」という言葉の定義をする必要があります。

マーケティング翻訳とは、企業の Web サイトや SNS、パンフレットやカタログ、プレゼン資料などのマーケティングドキュメント類についてより洗練された翻訳をすることです。

これらのドキュメントは、概してメッセージ性が高く、読み手を強く意識したものと言えるため、それに適した翻訳をする必要があります。

マーケティング翻訳の目的

実は、「マーケティング翻訳」自体は昔から存在していましたが、ここ数年、急激にニーズが高まってきました。その理由として考えられるのは、「クライアントが要求する訳文レベルが徐々に高くなってきたから」であり、その背景には大規模LLM を代表とする AI の存在を無視することはできません。

また、コロナウィルスによる世界中がパニックに陥り、ビジネスが世界的に停滞するという状況下では DX に代表されるようにあらゆるビジネスのデジタルシフトやオンライン化が加速しました。そのため、ユーザに「読んでもらえるコンテンツ」「ユーザに刺さるコンテンツ」を提供しなければならなくなりました。

一例として、Web サイトの翻訳を行う場合には、Google の検索結果で上位表示させるために、様々な観点から「質の高い文章」を作らなければなりません。

いわゆる「EEAT」を意識した文章である必要があります。

E-E-A-T とは Google の「検索品質評価ガイドライン」に提示されているコンテンツの品質評価基準のことであり、正式名称は「Experience(経験)、Expertise(専門性)、Authoritativeness(権威性)、 Trustworthiness(信頼性)」を指します。

これらを意識した検索結果が直接集客に結びつき、ビジネスの業績に反映されるようになります。

またホワイトペーパーや導入事例などは Web サイトから申し込みを受け付け、良質のリードをとるためのツールですが、その目的達成のためには、まず第一に「読み手の役に立つコンテンツ」とそれを実現するための「訳文の読みやすさ」が重要視されるようになりました。

このように企業活動の中で利益の最大化を図るための要素のひとつとして、「マーケティング翻訳」というもの自体が非常に注目されるようになってきました。

仮に英語から日本語の翻訳の場合、産業翻訳のルールである「原文に忠実に翻訳する」から離れ、「より魅力的な文章(日本語)として翻訳する」という部分が大きな比重を占めるようになります。

繰り返しになりますが、これらが求められる理由としては、企業が提供するサービスや、製品などのアピールをするため、集客のためです。では実際にマーケティング翻訳のポイントを説明します。

マーケティング翻訳は大きく2つに分けられる

マーケティング翻訳は、大きく2つに分けることができます。

1. タイトルや見出しの翻訳

文字通り「タイトルや見出しの翻訳」ですが、短い文章のため言葉の選定が非常に難しくなります。

なぜなら、原文が制作されるプロセスにおいて非常に多くの背景情報や目的設定、ストーリーがあるはずでそれらをすべて包括しベストと思われる言葉を選択し作られているため、当然のごとく翻訳する際にもそれと同じプロセスを理解した上で訳文を作らなくてはなりません。原文の表面的な理解だけで翻訳したところで、薄っぺらな訳文になってしまうのは想像に難くありません。

大切なのは背景情報の理解です。「どんな意図でこのタイトルになっているのか」「なぜこの単語を選択したのか」などを把握して翻訳します。

2. コンテンツの翻訳

タイトルや見出しのあとにくる本文の翻訳では、正確で読みやすく、そして読者にしっかりと意図が伝わる文章でなければなりません。

例えば「間違ってないから問題ないでしょう」というスタンスで訳文を作ってしまうと、それはマーケティング翻訳とは呼べません。「誤解の生まれない表現」だけでなく「魅力的な表現」も必要となります。

マーケティング翻訳をしないと Web は効果が出ない

この2つのタイプの翻訳が求められる具体的な例として、Web サイトの翻訳が挙げられます。前述のように、仮に翻訳でなくとも、Google の検察結果で上位表示される文章というのはどれも非常に読みやすく、また役に立つ内容になっているのはご存知でしょう。(EEAT)

「検索結果画面の一覧でも、惹きつけられるタイトルであること、また meta description 部分で内容が簡潔に書いてある」という状況こそユーザのクリック率が上がります。

繰り返しになりますが、そういった点で「Web サイトをどう翻訳するのか?」というのは、企業の戦略上、非常に重要な部分を占めており、AI全盛の場合であってもその比重はますます大きくなります。

「翻訳」という範疇の中での創造性(クリエイティビティ)

しかし「翻訳」という範囲でどこまでクリエイティブに訴求力のある訳文を作るのか、原文から離れる必要がある場合、どこまで離れても許されるのか、といった線引きはかなり難易度が高いテーマであるのも事実です。実際、翻訳業界の中でも「これは普通の翻訳だ」「これはマーケティング翻訳ではない」という明確な線引きがあるわけではありません。

そもそも言葉は生き物であること、読者の背景知識や文化、価値観、習慣など様々な要素によって、同じ文章でも評価が割れてしまうことは往々にして起きるからです。

原文を横に置かないと理解できない訳文は、あまりにも逐語訳的なのかもしれませんし、とはいえ「そんな所まで言い切っていいのか」という訳文や、「もはや翻訳ではないのではないか」といったような原文の意図を本当に踏襲しているのか分からないということもあるでしょう。

この線引き、さじ加減のバランスを取りながら、クリエイティブに翻訳することでマーケティング向けの翻訳が生まれるのです。こう考えていくと言語特有の「あいまいさ」の残る範疇の中でマーケティング翻訳を行う難しさというのが想像しやすいかと思います。

クリエイティブ翻訳との違い

「マーケティング翻訳」と似た言葉に「クリエイティブ翻訳」という言葉がありますが、これはほぼ同義語です。翻訳業界では「クリエイティブ翻訳」「TransCreation」で通じます。

ちなみに、弊社では「マーケティング翻訳」を以下のように定義しています。

読み物など広告系の原文の翻訳の際に、原文にとらわれず、魅力的な訴求力の強い訳文を訳出すること

としています。弊社ではコンテンツ向けのマーケティング翻訳と X(旧Twitter)や Meta(旧 Facebook)などの SNS 向けのマーケティング翻訳を多く手掛けています。

コンテンツ向けクリエイティブ翻訳プラン

 

SNS 向けクリエイティブ翻訳プラン

従来の翻訳との違い

お客様からはマーケティング翻訳は従来の翻訳とはどう違うのか、という質問を受けることもありますが、一言でいえば「翻訳以上、ライティング未満」と言えるでしょう。

これは以下の図で説明することができます。

 

この図は、弊社のクリエイティブ翻訳プランのページでも使用しているものですが、これまでの翻訳は、ドキュメントの種類によって多少の訳し方の違いはあれ、基本的に「原文に忠実に翻訳する」ことが重要視されていました。

※以下の「翻訳ドキュメントマップ」ではドキュメントによって訳し方が違う(求められる方向性が違う)という点を可視化したものです。

翻訳ドキュメントマップ

このように、従来の翻訳とマーケティング翻訳の違いはどこまで表現するか=どこまでの訴求力を持たせるかという点でしょう。

翻訳業界の 4つの勢力

このように、マーケティング翻訳やクリエイティブ翻訳は、従来の翻訳とは違う訳ですが、業界構造そのものが大きく変化していることも原因の一つと言えます。

また、ChatGPT、Claude、Gemini、DeepL のようなAI翻訳の台頭により「簡単な翻訳は AI や機械翻訳に取って代わる。人間にしかできない翻訳とは何か」という点もより重要になってきています。

現在、様々なプレイヤーによって翻訳業界は変革の中にありますがその理由は「お客様のニーズの変化が起きたため、翻訳会社が変化に対応する」というのが本質だと言えます。

AI 翻訳や機械翻訳との違い

繰り返しになりますが、AI 翻訳や機械翻訳技術はここ数年でかなり発達してきました。大規模言語モデル(LLM)をはじめ、新しい技術が日々生み出され、どんどん翻訳の精度が上がっています。

しかし、「専門性の高いドキュメント」「読み物としてのドキュメント」の場合には、まだまだ改善の余地があります。

そのため、「AI 翻訳+ポストエディット」や「機械翻訳+ポストエディット」という組み合わせのサービスが増えています。

機械翻訳+ポストエディット

機械翻訳の問題点を解決するポストエディットとは

ご存じの通り、AI 翻訳や機械翻訳自体は原文の意味を理解しているわけではないので翻訳者の優位性は変わらないと言えますし、今回のテーマであるマーケティング翻訳との違いはさらに明確になるでしょう。「文章の質」を細分化していくことによって棲み分けがなされる可能性もあります。

翻訳支援ツールとの相性は

機械翻訳や自動翻訳に似た概念として「翻訳支援ツール(CAT)」があります。翻訳支援ツールは、あくまで「翻訳者がメインであり翻訳作業をサポートする」という立ち位置です。

Translation Memory というデータベースを構築し、精度を高めていくわけです。

TM の精度について

基本コンセプトは、「n対n」で原文と訳文をペアにしてデータベースに格納していくわけですが、マーケティング翻訳との相性という点から考えると、正直、ツールの使用自体がなかなか難しいケースもあると言えます。

それは何故でしょうか?これは原稿のバージョンアップのケースを考えるとイメージしやすいかもしれません。

データベースに格納された訳文は、センテンス単位で保管されます。最初に翻訳した際にはその訳し方で問題なかったとしても、ドキュメントが変更になったときに、果たして「データベース内の訳文をそのまま使えるのか」という疑問が残ります。

例えば「you」という単語ひとつとっても、最初は「あなた」で良かった場合でも、文脈によっては「お前」と訳さないといけないかもしれません。

これは結局のところ、マーケティング翻訳ではデータベースよりも「文脈(コンテクスト)」や「リズム」がより重視されるため、データベース内の訳文をそのまま使用できないということです。

ところがデータベース優先になれば、登録済みの、ぎこちない「あなた」を使わなければなりません。結果として読み手は(本来、「お前」のほうが分かりやすいのにも関わらず)「読みにくい文章」と感じるわけです。

こういった理由から、ツールを使えば再利用率は高くなるかもしれませんが、マーケティング翻訳やクリエイティブ翻訳には向いていないと言えます(弊社もマーケティングマテリアルでのツール使用は限定的です)

※読みやすさなどは二の次で徹底的にコストを抑えるという目的の場合には、ツールの使用は目的に適っていると言えます。

コピーライトやライティングをすればいい?

マーケティング翻訳やクリエイティブ翻訳サービスをお客様にご紹介すると、「通常の翻訳とも違う、AI翻訳や機械翻訳とも違う、翻訳支援ツールも使わないのは理解したが、結局翻訳作業であることは変わらないのだから、それならライティングの方がいいのではないか?」というご質問をいただくこともあります。

このご質問への回答としては「その通りです」とお伝えしています。

プロのライターによる取材を重ね、サービスや商品への理解度を深め、訴求力のあるワードをゼロから選び構成していくという点では、圧倒的にライターに軍配が上がりますし、読みやすいと言えます。

しかし、それは当たり前の話であり、むしろそうでなくてはならないとも言えます。

弊社でご提供するマーケティング翻訳は「翻訳以上、ライティング未満」であることは前述の通りであり、あくまで「翻訳」の範疇で行われるものです。

一方でライティングには「原文」の制約はありません。つまり誤解を恐れずに言えば自由度が非常に高いわけです。(もちろん、完全に自由な仕事はありませんが)

その代わり、かかるコストと時間については、翻訳とは比べ物にならない位大きくなるでしょう。

つまり、ライティングとマーケティング翻訳では、作業範囲や内容が異なるため比較自体に意味がありません。マーケティング翻訳で大切なのは「コストもできるだけ抑えつつ、できるだけ魅力的な文章を作りたい」というお客様のためのサービスだということです。

文書の読みやすさコスト
機械翻訳
翻訳支援ツール
マーケティング翻訳
クリエイティブ翻訳
ライティング×

AI 等の発達によりこれからさらにグローバル化が進み、今後世界の翻訳市場は大きくなると言われていますが、これは言い換えれば、翻訳をするドキュメントが増えているということです。しかしそのすべてにライティングをすることは現実的に難しいでしょう。

となれば、現実的な部分で「できるだけライティングに近い形で翻訳したい」というニーズが高まるのは自然な流れです。

まとめ

簡単にまとめると以下のようになります。自社に合った翻訳サービスを利用するようにしましょう。

  • マーケティング翻訳の目的は、読み手にしっかり伝わる訳文を作ること(ツールやシステムはその次=コンテキストやリズムが重要)
  • マーケティング翻訳の定義は「翻訳以上、ライティング未満」であること
  • AI翻訳、機械翻訳、翻訳支援ツールも、ライティングもすべて使用目的によって柔軟に変えるべき

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