品質」タグアーカイブ

その英語の資料が稟議を止めるー外資系 IT 企業が日本市場で売上を逃す本当の理由

ローカライズ

「英語で十分」という思い込みが、ビジネスチャンスを逃している

「うちのクライアントは英語が読めるから大丈夫」「まずは英語でローンチして、売れてから日本語化すればいい」―外資系IT企業が日本市場への参入時によくある話です。

しかし、データはまったく別のことを物語っています。例えば、英語に自信がある担当者でさえ、ローカライズされた製品を選ぶ確率は英語版の 4.5倍になっています。なんと、80%以上の人が「日本語の資料がなければ十分に検討しない」と答えています。これは感情論などではなく、購買行動の実際のデータです。

Survey of 8,709 Consumers in 29 Countries Finds that 76% Prefer Purchasing Products with Information in their Own Language

https://csa-research.com/Blogs-Events/CSA-in-the-Media/Press-Releases/Consumers-Prefer-their-Own-Language

More than Nine out of 10 Businesses Surveyed Across Eight Countries Prefer to Purchase Products That Have Been Adapted to Local Language and Market Needs

https://csa-research.com/Blogs-Events/CSA-in-the-Media/Press-Releases/businesses-prefer-local-language-purchasing

以前にも解説したように日本では、英語力の問題だけではなく組織としての稟議制度も関係しています。1つの B2B プロダクトを購入するかどうかという点では、平均13人ほどが関与し、86%の案件がどこかで停滞するという事実です。

つまり、経営層、IT 部門、法務、情報システムなど―全員が英語に対して同じ理解に達し、合意するのは想像以上に困難であるということです。本記事ではこれらの事実を踏まえ、「翻訳=コスト」ではなく、「翻訳=売上を生むための必要な投資」として日本語ローカライズを位置づけ、推進する必要があるということをご説明し、加えて海外本社を説得するための定量的な根拠もお伝えします。

※実は、本記事の内容に近しい記事を 2017年にも書いており、「なぜ翻訳するのか?」というシンプルな問いを立てたことがあり、その答えは今回とほぼ似たものになりますが、こちらもぜひご一読ください。

なぜ翻訳するのか?

ローカライズ費用は外資系企業にとってコストなのか、投資なのか

上記の記事化したのが 2017 年でしたが実際にはもっと昔(恐らく 20年、30 年単位)から日本市場での販売セオリーの中に「日本語化」は間違いなくあったはずで、綿々と続く課題ということは間違いなさそうです。

生成 AI 時代の購買プロセスとまったく変わらない合意形成

稟議書

生成 AI や SaaS の普及により、製品やサービスの比較は誰でも簡単にできる時代になりました。しかしながら「情報を集められる」ことと「社内で合意を取る」ことは、まったく別の話です。

日本企業においては、担当者レベルで情報を集め、比較検討をしたとしても最終的な決定権は担当者にはありません。自分で決められる自由度は(それこそ外資系企業と比較しても)まだまだ小さいと言えます。さらに関係者が増えれば増えるほど、全員が同じ理解に到達する確率は下がるため、冒頭のように 86% の案件が停滞したり保留になると言われています。

その原因が英語のドキュメントです。日本語化されていないドキュメントがあると、経営層・IT部門・法務・情報セキュリティ部門のすべてに対して説明をするのは極めて困難になります。

つまり、だからこそ日本語化を最優先事項として投資しなければならないのです。


エビデンス①:母国語による体験は購買の確率を圧倒的に押し上げる(B2C/B2B)

B2C における母国語の影響力は?

CSA Research が 29 か国 8,709 人を対象に実施した大規模調査では、76 %が母国語情報のある製品を選好し、40 % は他言語サイトでは「決して購入しない」と回答しています。オンライン比較が当たり前になった今も、実はこの傾向は変わっていません。

Survey of 8,709 Consumers in 29 Countries Finds that 76% Prefer Purchasing Products with Information in their Own Language

https://csa-research.com/Blogs-Events/CSA-in-the-Media/Press-Releases/Consumers-Prefer-their-Own-Language

B2B ソフトウェアでの圧倒的な差を把握する

ローカライズ

さらに注目すべきは、B2B ソフトウェアの購買に関する調査結果です。8 か国 351 名の購買担当者を対象にした調査では、英語に自信がある層であっても、ローカライズされた製品を購入する確率は英語版の 4.5 倍になるという結果が出ています。

それだけではありません。なんと 8 割超が「ローカライズ資料のない製品は十分に検討しない」と回答し、6 人に 1 人は「日本語化されていない製品は検討対象にすら入れない」と明言しているのです。この事実は決して無視できない数値です。

More than Nine out of 10 Businesses Surveyed Across Eight Countries Prefer to Purchase Products That Have Been Adapted to Local Language and Market Needs

https://csa-research.com/Blogs-Events/CSA-in-the-Media/Press-Releases/businesses-prefer-local-language-purchasing

日本に関するデータもなかなか衝撃的です。日本では「母国語以外の言語で購入する」と答えた回答者はわずか 5 %にとどまり、100 % が日本語版での購入を好んでいるという結果が示されています。この結果からも分かる通り、英語版の製品やドキュメントだけでは日本市場において致命的なハンディキャップになってしまうのです。当然、多くのビジネスチャンスを逃すことになるでしょう。

価格への影響は?

冒頭からお伝えしていますが、日本語ローカライズは単なるコストではありません。B2B のユーザーの 66 %が、ローカライズされた製品には最大 30 %の価格上乗せを許容すると回答しているからです。つまり、日本語品質への投資は値引きというよりもむしろ価格を高める効果があるということです。

「翻訳≠コスト」

これらの数字が示すのは、「翻訳=コストである」という発想自体が、そもそも間違っているということです。

日本語化を行うことで「製品やサービスの価値が日本語で正しく伝わる」という、貴社ユーザにとっての当たり前の体験は、製品やサービスの検討対象に入る確率、その後の商談の勝率、そして販売価格を同時に押し上げる収益ドライバーになるのだということが分かります。

これからはますます翻訳=コストという視点を変えなければならない時代になっていくでしょう。


エビデンス②:日本の英語力の現実と、13人が止める購買プロセス

日本の英語力 水準レベルを考慮する

EF Education First が発表した英語能力指数(EF EPI 2024)において、日本は 116 か国中 92 位、スコアは 454 点で「Low(低い)」に分類されています。世界平均の 477 点を下回り、地方別スコアではさらに低い地域が目立ちます。

世界最大の英語能力指数 ランキング

https://www.efjapan.co.jp/epi/

日本人の英語力、非英語圏で92位に後退:スイスの教育機関2024年調査

https://www.nippon.com/ja/japan-data/h02199/

停滞する購買プロセス

また前述のとおり、Forrester の調査では B2B 企業での購入プロセスの 86 % が停滞しています。平均で 13 人ほどが関与する購買プロセスにおいて、英語版のままだとなかなか理解されません。つまり「日本語になっていない」説明はクライアントの意思決定を遅らせる、また最悪の場合には却下されるという決断すら導きかねないのです。

「英語を読める人が社内にいる」ことと、「英語資料で社内の合意を取る」ことは、まったく別物です。平均 13 人の購買に関わる人々は、経営層、IT部門、法務、情報セキュリティ、調達、エンドユーザ部門など多様なポジションや役割の人々が含まれており、何度も申し上げる通り、彼ら全員が英語に堪能とは限らないため、意思決定プロセスが前進しないということになります。

だからこそ、母国語の資料がある方が説明の手戻りが減り、稟議やレビューが圧倒的に前に進みやすい――これが日本市場の実務における真実でしょう。

言語の壁が1つでも残っていれば、誤読のリスクもありますし、説明コストや手間も増え、かつクライアントの意思決定の遅延が発生するのだということを知っておく必要があります。


エビデンス③:日本語は「翻訳」だけでは足りない―DTP 品質が信頼を左右する

DTP 組版という基礎体力

では「とにかく日本語になっていればいい」のでしょうか。実はそうではありません。日本語の品質は、意味の正確さだけでは測れないからです。W3C の JLREQ(Requirements for Japanese Text Layout)は、DTP に言及し、「句読点のぶら下がり、禁則処理、縦横書きの使い分け」など、日本語特有の DTP の要件を詳細に定めています。

Requirements for Japanese Text Layout
日本語組版処理の要件(日本語版)

https://www.w3.org/TR/jlreq/

仮に日本語に翻訳された内容が正しくても、レイアウトが崩れているだけで雑に見えますし、信頼を失う可能性があります。日本人読者はそういった「見た目」にも細かい方が多く、「神は細部に宿る」というくらいきっちりしたドキュメントや資料を求める傾向が高いのです。これが日本語の怖いところですが、当然と言えば当然でしょう。

高額となるエンタープライズ向け IT 製品だからこそ、カタログ、導入事例、ホワイトペーパー、セキュリティ白書や導入ガイドなどが読みにくい、見にくいということであれば、それだけで製品やサービスの品質自体も疑われることになるのです。

母国語の設計は使いやすいかどうか

これは翻訳業界でも近年大きなトレンドとして存在しますが、日本語の読みやすさを極限まで追い求めることで、各種ドキュメントの Readability や Usability 向上を目指すというものです。日本語に翻訳されていればユーザにとって使いやすさが高まります。

つまり、ただ英語から直訳するのではなく、英語の作成段階からローカライズを意識し、それに基づいて各言語(今回は日本語ですが)に展開するということです。

マーケティング担当者に必須の「マーケティング翻訳」とは

このように、様々なドキュメント類(カタログ、ホワイトペーパー、導入事例、価格表、FAQなど)がすべて「体験品質」で評価が変わってしまいます。意味の正確さと見やすいレイアウト両方を満たさないと、どんなに優れた貴社製品も「最後の一押し」が弱くなってしまいます。

繰り返しになりますが、英語→日本語の直訳、そしてレイアウトの崩れは、貴社製品の評価を毀損してしまう可能性があります。

日本語化とは、単なる言語変換ではなく、日本市場において「貴社がどう伝えるか/どう伝わるか」であり、それが「信頼できるかどうか」の再設計でなければなりません。

まとめ:「翻訳コスト」から「収益を生む日本語版の設計」へ

いかがでしょうか。翻訳はコストであるという見方では、ユーザニーズを見落としてしまう可能性があります。また日本の担当者は当然と考えていても、本社の理解がなかなか得られないというケースも何度も目の当たりにしてきました。ちなみに、日本企業が日本国内で行うビジネスでは、これらの課題は存在しないため、外資系 IT 企業特有のものと言えます。ただ、競合するのは日本企業の製品であるならば、やはり「真の日本語化」というのは避けて通ることができないのではないでしょうか。

重要項目解説
日本語版の価値母国語(日本語)の情報提供はクライアントの購買の確率を上げます(B2C では 76% が日本語情報を選好し、40% は他言語では買う気がない)
購入率向上B2B でも効果は同様。英語に自信のある層でさえ、母国語にローカライズされると購入確率は 4.5 倍に跳ね上がり、特に日本市場では 100% が母国語での購入を好むということです。
日本独自の稟議システム根拠の一つとして日本の英語力は 116 か国中 92 位に落ちており、さらに購買プロセスは平均 13 人もの関係者が存在し、86 %がどこかのプロセスで停滞してしまうと言われています。シンプルに伝わり、理解しやすい日本語をどのように設計するかは、稟議という合意形成プロセスで外すことができなくなっています。
ユーザビリティの向上さらに、日本語は「読みやすさ、見やすさ」まで問われています。デザインやレイアウトなどもそのまま製品自体の信頼につながるのです。

繰り返しになりますが、もはや英語だけで押し切る時代ではありません。日本語で「伝わるように設計された体験」こそが、クライアントの製品検討の土俵に上がり、受注率や販売価格を底上げするのではないでしょうか。海外本社へのレポートでは、「翻訳コストの承認」ではなく、「売上を生むための日本語版作成への投資」として、定量的なビジネスケースを示すのが有効かもしれません。

日本語版へのローカライズ業務は、決してコストセンターではありません。収益を生む、戦略的で重要な投資なのです。

外資系IT企業が日本語化を後回しにすると、商談の入口で機会を失い続けることになります。

ぜひそういった事態を避けるために、貴社のローカライズ戦略を見直してみてはいかがでしょうか。

「品質と価格は比例する」と言い切ったお客様の話

ある外資系企業のお客様がおっしゃっていました。

「私は品質と価格は比例すると思っています。だから価格が上がるのは問題ありません」

という発言をされました。(それまでの文脈は割愛)

もちろんですが、その通りと感じましたが、こういったことをなかなか面と向かって言うことも少ないのではないでしょうか。

また、実際にはそれが分かっていても実行できないケースや状況が(残念ながら)存在するのも事実でしょう。「そんなことは綺麗ごとだ」という意見もあります。

それでもハッキリと断定したこのご担当者様には、ご自身のお仕事に対する非常に強いポリシーを感じましたし、弊社をパートナーとして見ていただいているのだという良い意味でのプレッシャーを受けました。とにかく安ければいいという風潮もある中で、実際には胸が熱くなるようなシーンもありました。このお客様の言葉をお借りして、品質が高ければ価格が高いのは当然であること、またその逆も然りであることを改めて考えてみたいと思います。

「品質」とは何か

価格が品質によって決まるとするならば、まず先に「品質の定義」が必要となります。

※すべての業界、すべての企業で品質の定義をしているでしょうから、その解釈には多くのパターンがあると考えられます。

弊社の場合、品質とは、お客様が「望んでいるとおりのものを得る」状態のことを指しており、以下のコンテンツでより詳細の説明(定義)をしておりますのでご確認ください。

翻訳、ローカライズの品質とは

さらに、これらの品質を確保するために弊社では「良い品質の翻訳とは」というページも作成、公開しておりますので合わせてご覧ください。

トライベクトルが考える「良い翻訳」とは|翻訳会社トライベクトル

※「品質」は訳文だけの話ではなく、対応品質なども含まれています。

※今回のご担当者様の発言は、この「ご担当者様がご希望のモノやサービス」通りに、または「希望以上のモノやサービス」をお届けしたあとのご感想です。

「価格」よりも「価値」を考える

品質が高ければ後から価格があがりますということを言いたい訳ではありません。またそういうケースはかなりレアでしょう(詳細は伏せますが、今回はそういうことが可能なお仕事だったというだけ)。

よく「価格」ではなく「価値」を考えなさいと言われます。価値とは何でしょうか。あまり難しく考えるよりも、自分がモノやサービスを購入することを想像してみます。

モノやサービスを購入する決断をするときには価格を見ます。しかし、価格を見る以上に見ているものがあります。

「価格に納得できるとき」というのは、「これを買ったら自分の課題や悩みが解決できるかも」と思うときです。価格の向こう側にある「自分が得られる価値」を想像するのです。

そして実際にそれが解決したら「ああ、良い買い物をした」と思うのです。逆に「期待外れ」だった場合には二度と購入されることはありません。

つまり、買い手にとっては「そのモノやサービスの価値を見出すことが大切」ということですし、売り手にとっては正しく価値を伝えることが大事になってきます。

「迷う理由が値段なら買え、買う理由が金額ならやめとけ」

という言葉もあります。つまり、値段(価格)を基準にして判断してはいけないという意味です。「安いから買う、高いから買わない」のではなく、「自社にとって価値があるかどうか=自社が課題解決できるかどうか」が基準であるべきということでしょう。

「品質=お客様にとっての価値が高い=課題解決できる」であるならそれは当然買うし、(仮に高かったとしても)買いますということです。これは誰しも経験があるでしょう。

価格を考えるのではなく価値を考えるというのはこういうことです。

「品質が高い」は「価値が高い」

このように考えると、「品質が高い」という言葉は「お客様にとっての価値が高い」という意味になります。例えば、これを無視して「自分が作ったものは最高だ」と言ったところで、それはビジネスではあまり意味がありません。

ビジネスにおけるプロフェッショナルは、お客さまの課題をしっかりとヒアリングし、それについての改善案を提案し、共に伴走する人のことです。

医者ならばきちんと患者さんの病状を把握し、できる限り相手に負担をかけず、時には激励したり、寄り添ったりしながら最適と思われる治療方針を出し、伴走していくのと同じでしょう。

腹痛を訴えている患者さんに何も確認せずに「この薬を飲みなさい」という医者はいません。しっかりと相手の話を聞き、かつプロとしての視点から改善方法を模索しつつ、提案を繰り返していくからこそ患者さんは安心して任せることができるのです。もちろん、病状からの回復が最大の価値であることは言うまでもありませんが、そこに価値があるのです。

今回の外資系企業の担当者様はこれらの基本的な、でもとても大切な構造をしっかりと理解した上で発言をされていらっしゃいました。だからこそ非常に納得感が強かったわけです。

「価値」はどういう人や企業と付き合うかの基準にもなる

一転して、数年前にこのような記事を書きました。

「翻訳なんて誰がやっても一緒」だが、誰もが「言葉に魂を込めている」ものを求めている

こちらのエピソードも大変驚いたのでよく覚えていますが、今回の担当者さんは、この記事に登場する部長さんとはまったく真逆の発想だと言えます。

ただ、よく考えると要求水準は今回のお客様のほうが高いのです。

なぜなら「私たちが要求する品質のものを出してください。それができれば価格が上がるのは問題ないが、逆にその品質が出せないのなら価格は下がりますよ」と言っているのと同じことだからです。またもっと言えば「価値がないなら取引自体がありませんよ」ということでしょう。

(もしかしたら、一見厳しそうに見えた以前のお客様の方が「翻訳なんて誰がやっても一緒」と思っている分、品質への評価基準がブレている可能性があるため、あまり細かいことを言わないのかもしれません)

いずれにせよ、弊社の提供する言語サービスについてある一定の価値を見出してくださっているお客様である以上、弊社も毎回真剣勝負でお仕事をしています。

重要なのは「価格優先なのか、価値優先なのか、それは担当者 個人としての考えなのか、企業としての考えなのか」といった様々な要素がある中で、「何を課題として持っていて、どういう解決策がお客様にとってベストなのだろうか」ということをもっと真剣に考え、提案しなければならないですし、こういった考え方を持つためには、そもそも自分たちが何を大切にしたいと思っているのか、どう有りたいと思っているのかといった根本の思想が問われているのだということです。

どういった企業と取引をするのか/付き合っていくのかは、まさにこの部分(価値基準)に根差すものであるべきです。そうでなければ「翻訳なんて、通訳なんて、英会話なんて、誰がやっても一緒でしょ」という言葉に流されてしまいます。

まとめ

お客様の要求水準を満たす/超えるために、様々な側面からサービス品質を上げてお客様の課題を解決しようとする(価値)という行動は、長期的に見てお客様との信頼関係をより強固なものにし、また仕事の拡大を促す大きなドライバーになります。

このように(顧客にとって)価値があると感じるものにはそれなりの理由があるということです。そしてそれを無視して「誰がやっても一緒」なんてことはあり得ないということでしょう。

これまで以上にもっともっと努力しなければならない、身の引き締まる思いでした。

 

 

「翻訳トライアル」は翻訳会社選定に本当に必要なのか

多くの翻訳会社が翻訳の品質をお客様に確認してもらうために、「無料翻訳トライアル」を実施しています(実施していない会社もあります)。

特に新規での取引の場合には、翻訳トライアルは重要だと言われています。しかし、そもそも翻訳トライアルは絶対に必要なものなのでしょうか。トライアルをしないといけないのは何故なのでしょうか。

翻訳の必要性とその活用方法

ご存知のように、現代のグローバル社会では、「翻訳の品質」がビジネスの成果に直結することが多いと言えます。例えば日常生活で使う家電製品の取扱説明書や、ビジネスで必ず締結する様々な契約書など、ありとあらゆる場面でドキュメントの翻訳やローカライズが必要とされています。

間違いがあってはいけない内容であればあるほど、それをターゲット国で展開するためには、絶対に正確な翻訳がなければなりません。

だからこそ(当然ですが)「正確な翻訳サービス」を支える「翻訳品質」が重要になるのです。

つまりお客様から見れば、「それだけ重要な翻訳品質をどのように確実に確保すればいいのか」は大変重要なテーマとなります。

すでに付き合いのある翻訳会社に丸投げすればすべて解決するのかと言えばそんなことはありません。なぜなら、1社だけではキャパシティの問題や得意/不得意の分野などの問題があるからです。

だからこそ、いくつかの翻訳会社との取引を常時持っておく必要があります。

そこで必須項目となってくるのが今回のテーマである「翻訳トライアル」なのです。

無料翻訳トライアルとは

弊社でも翻訳トライアルについてのご案内をしています。

無料翻訳トライアル

翻訳会社の選択時の判断基準を間違えたために、後悔するような結果を招いてしまうと、もはや目も当てられません。弊社でもお客様からこれまで何度も同様のご相談を受けてきました。

このような事態が起きないように、弊社では「無料翻訳トライアルサービス」をご活用されることを積極的にご提案しております。

トライアルをすれば、翻訳・ローカライズそのものの品質が分かります。具体的には自分たちの好みに合った訳文かどうかが分かりますし、実際に翻訳を発注した際のイメージもより鮮明になりますので、不安は少しずつ解消できます。

このトライアルを通じ、貴社は以下の点を確認することができます。

「翻訳の品質」だけでなく「翻訳会社としての品質」を確認できる

翻訳の品質を確認することが第一の目的ですが、それ以外にも「実際のお仕事をお願いした時にどのようなスピード感で、どんな対応をされるのか」という点を見ることもできます。

これは意外と見落としがちですが、コミュニケーションサービスを提供している企業にも関わらず、雑なコミュニケーションや一方的なコミュニケーションになることも多いのです。その場合、お客様の余計なストレスはビジネスに少なからず影響を与えることがあるというのは、社会人経験があれば誰でも理解できるでしょう。

翻訳の品質以外で確認できるのは以下になります。

  • 文法や表現、専門用語の正確性など
  • 翻訳スピード: 納期の守りやすさや、急なリクエストにどれだけ柔軟に対応できるかなど
  • コミュニケーションのスムーズさ:質問や要望にどれだけ迅速に、適切に回答してもらえるかなど

つまり、発注前の翻訳トライアルはやはり必須だと言えます。

翻訳トライアルをしなかった場合のリスクやデメリットは?

前述のように、翻訳トライアルは発注前に踏むべき重要なステップとなります。

このように、翻訳は単純に文字だけでなく、文化や背景、ニュアンスを正確に伝える技術でもあります。にもかかわらず、翻訳の品質は翻訳者や翻訳会社、また企業ごとにバラツキが出てしまいますのでそれらを発注前に最小限にする必要があるのです。翻訳トライアルを省略してしまうといくつかのリスクが(納品後に)表面化することになります。

予定していた品質の翻訳ではなかった場合

期待と異なる翻訳が届いた場合、再度の修正ややり直しが必要となり、余計なコストと時間が発生します。これはビジネスではかなり致命的だと言えます。

ビジネスで最も重要な信頼(ブランド)の毀損

また、ビジネスにおける信頼という点でも誤訳や不適切な表現、間違った情報が含まれることで、貴社のブランドや信用が傷つけられる可能性すらあるのです。

これはつまり取引先や顧客との関係に悪影響が出る可能性もあり、結果として企業ブランドの毀損にも影響します。

こういった見えないリスクを最初から顕在化して把握し、事前に対処しておくためにもトライアルがいかに重要かということがお分かりになるでしょう。

適切なトライアルの活用方法

上手に使えば貴社が安心して発注できる翻訳会社を適切に選択することができます。翻訳品質だけでなく、対応もしっかり見定めるためにも、翻訳トライアルを最大限に活用するためのポイントをお伝えします。

トライアルとして選択する内容(原稿)の選び方

トライアルに出す文章は、実際のビジネスでの使用を想定したものが望ましいと言えます。業界特有の用語や表現が多い文章を選ぶことで、翻訳会社/翻訳者の専門知識を確認することができます。「この言葉はこんな言い方しないよ」という感想をお持ちになったことがあるかもしれません。そういったことが無いように原稿を選びましょう。

トライアルについてのフィードバック

トライアルの結果、疑問や不明点があれば積極的に翻訳会社にフィードバックをしてみましょう。これにより、翻訳会社は「何が良かったのか」「何がいけなかったのか」が具体的に理解できますし、お客様としても明確に意図が伝わりやすくなります。最終的な翻訳品質の向上やコミュニケーションが円滑になることで、その後の本番での業務もスムーズになるでしょう。

複数社の比較

一つの文章を複数の翻訳会社に翻訳トライアルとして依頼することで、品質やスタイルの違いを比較検討することができ、自社に合った会社を選定することができます。

弊社の翻訳トライアルへの取り組み

弊社では「大切な想いをつなぐ」という経営理念を元に「品質と信頼」を最優先としています。

また弊社では「良い翻訳とは何か」という大きなテーマに真正面から取り組んでいます。

トライベクトルが考える「良い翻訳」とは|翻訳会社トライベクトル

このように、弊社では翻訳トライアル前からのご相談も対応しており、貴社のご要望を最大限に反映した言語サービスを提供することを心がけています。

翻訳のニュアンスや専門用語の選択、スケジュールなどの要望にも柔軟に対応しておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。

まとめ

翻訳やローカライズ業務は、企業のブランドや取引先との関係、さらにはビジネスの成功そのものに影響を与える重要な要素だといえます。そのため「翻訳トライアル」を積極的に活用して、最適な翻訳会社を選定することが非常に重要です。品質の確保と業務の円滑な進行のため、翻訳トライアルの利用をぜひご検討ください。

無料翻訳トライアル

 

目的を理解した翻訳プロセスの確立

翻訳品質を安定させるために、翻訳支援ツールを導入したり、最近では機械翻訳(NMT)などを使用したりと、様々な方法があります。

また ISO 17100 のような翻訳に関する国際規格を取得し、運用するという方法もあるでしょう。

ISO17100:翻訳サービス提供者認証のご案内

https://shinsaweb.jsa.or.jp/MS/Service/ISO17100

Certification of service providers

https://www.jsa.or.jp/en/en_about11/

今回は、翻訳の品質そのものというよりはそれらを支える翻訳プロセスについて考察します。

基本の翻訳プロセスはシンプル

翻訳という業務では、例えば自動車メーカーのような複雑な工程は必要ありません。もちろん複雑にしようと思えばいくらでもできますが、それは単純に非効率ですので(何か特別な事情がある限り)誰もやらないでしょう。

例えば、あるマニュアルを翻訳する場合、作業工程は大きく分けると以下の2つになります。

  1. 翻訳作業
  2. Web やデザイン、DTP、字幕編集、ローカライズなど

 

この 2 つが大きな工程となります。翻訳というのは、原文を読んで訳文を作る作業、Web は構築から運用、またデザインはクリエイティブですし、DTP レイアウト作業というのは、訳した文章を、元データに流し込み、原文と同じような見た目にそろえることを言います。

ここから考えるとき、翻訳支援ツール SDL TRADOS などを使用すると、1 と2 をシームレスに連携させることができます。

TRADOS によるマニュアル翻訳

また機械翻訳などでもこれらが実現できるものもあります。

いずれにしても、この2つのシンプルな作業工程(翻訳作業と後工程)を理解していれば、大枠を外すということは無いでしょう。

あえて言うなら、翻訳の前工程として「原文を書く時には翻訳を意識しておく」というくらいでしょう。ただ今回はテーマとそれるため割愛します。

「翻訳作業前に原稿を読まないのか?」という質問

 

ドキュメントの種類によってプロセスは増減する

上記はマニュアル翻訳の場合ですが、例えば、Web サイトローカライズはもう少し工程が複雑ですし、アプリやソフトウェアのローカライズも同様に複雑になってきます。

ローカライズとは

翻訳して Web を構築するには、どんな環境なのか、ドメインはどうする、SEO はどうする、広告は、日々の更新は?というように細分化されていきます。

Webサイト ローカライズ

 

さらに、最近では Youtube を代表とする動画ファイルに字幕をつけるというケースでも作業プロセスは増えていきます。

https://www.trivector.co.jp/movie/

上記の弊社のプランの場合でも、

  • テープ起こし
  • 翻訳
  • 字幕編集

という3つのプロセスが含まれています(最小構成です)。

ドキュメントの量によってプロセスは増減する

また、ドキュメントの量によってもプロセスは複雑化していきます。

例えば、1冊のマニュアルなら問題ないですが、10冊のマニュアルを同時に翻訳しなければならないとしたらどうでしょうか?その場合、パッと浮かぶだけで以下のような検討項目があります。

上記はあくまで一例で、まだまだ検討項目はあります。

納品形式に合わせたり、複数のドキュメントを同時に進めるために必要な作業工程があり、それらをつなげていくことで翻訳プロセスは完成します。

もちろん、ただ単に「翻訳だけしてくれればいい、テキストファイルで納品してくれればいい」というケースももちろんありますが、お客様からすれば、「まとめてお願いしたい」というニーズは根強く、それには様々なメリットがあることもご存知でしょう。

プロセスはシンプルだが、シンプルだからこそ影響を受ける

このように、翻訳の作業プロセスは目的地によって増減があるのですが、シンプルな設計である分、どこかで仕様変更があった場合や条件などが変わった場合には、すべての工程で影響を受けやすいとも言えます。

例えば上記の検討項目で、「翻訳者の人数を3人としていたが、指定したツールが使用できない翻訳者がいたため、急きょ2名体制にせざるを得なかった」としたら、どうなるのでしょうか?

考えられるのは

  • リソース(この場合はツール対応可能な翻訳者)の再確保
  • チェックスケジュール、後工程のスケジュールの再調整
  • 既存リソースへの担当振り分けのやり直し
  • 諸々の作業にかかるコスト増加
  • TM のメンテナンス

あたりでしょう。プロジェクトが複雑になればなるほど「翻訳」という全体の中の再調整と、それに影響を受ける後工程での再調整が必要になります。シンプルなプロセスだからこそ、どれかひとつが変更になると、すぐに、直接的に後のプロセスに影響を与えてしまうと言えます。

テクノロジーで防げるものと防げないもの

また、SDL TRADOS や WordPress などのように IT ツールやテクノロジーで便利になった側面も無視することはできません。

従来は、すべて手作業で翻訳しなければならなかったことも、TM によって随分と楽になりましたし、HTML+CSS で構築していた Web サイトも、Wordpress のような CMS なら比較的簡単に Web を構築できるようになりました。

これは本当に素晴らしいことであり、今後も IT を駆使したプロジェクト推進はさらにバージョンアップして便利になっていくことでしょう。

しかし、一方でいつまでも変わらないものがあります。それは「原文の変更」です。

例えば、まだ何も着手していない(翻訳していない)状態であれば、問題ないですが、作業がある程度進んでから、実は文章そのものが変更になったり、追加・削除されたりすることがあります。

いわゆる最上流の部分が変わってしまうので、そのあとに続くプロセスがすべて影響を受けてしまうのです。

まとめ

このようなことが無いように、キックオフミーティングではしっかりと仕様を固めておくこと、またその仕様から変わってしまったものは、どういう扱いにするのかを事前に決めておくことが重要であり、もっと言えば「できるだけコストを抑えながらも良い訳文、良いコンテンツを作りたい」という目的をお持ちの場合には、仕様をしっかりと決めておくこと、またそれ以前にきちんと翻訳会社と話し合っておくことが重要だと言えるでしょう。

つまり品質とは、1つ1つの作業の精度を高めるだけでなく、それらを統括するプロセスのマネジメントも同時に考えていかなければならないということです。

「翻訳作業前に原稿を読まないのか?」という質問

「原稿を読まないの?」という質問

以前、あるお客様に「翻訳する前に原稿読まないんですか?」と聞かれたことがあります。(実際にご発注いただく前のタイミングです)

最初はよく意味が分からなかったのですが、「翻訳する前に原稿を全部読んで、その時点で不明な点をつぶしておけば訳文の質も上がるだろう」という意図のようでした。

このコメントをいただいたとき、正直申し上げて大変驚きました。確かにこのお客様のおっしゃっていることは(品質を向上させるという点では)理解できるのですが、現実的にこれは難しいと言わざるを得ません。

そもそも、いったいどこからどこまでの作業を「翻訳」と呼べばいいのでしょうか。

翻訳作業とは何か

これはなかなか難しいのですが、そもそも、翻訳作業とはどんな作業なのでしょうか?あまりにも根本的過ぎますが、産業翻訳で言えば「原文にそって忠実に別の言語に置き換えていくこと」です。

Wikipedia:翻訳

翻訳(ほんやく)とは、Aの形で記録・表現されているものから、その意味するところに対応するBの形に翻案することである。

とあります。

ちなみに、弊社の「翻訳」という言葉の定義は以下のように定めています。

原文に忠実に、かつ原文の文意を正確および自然にターゲット言語に訳出すること

いずれにしても、翻訳という作業行為は「もともと存在する原文を使って、異なる言語に変換する作業」のことを指します。

この定義が共有されていれば、冒頭の「原稿を全部作業前に読まないのか?」という質問は現実的にかなり無理があることが理解できるでしょう。しかし共有されていない場合には、こういった発言が出てしまうのかもしれません。(実際今回は起きてしまったので定義の共有ができていなかった弊社にも落ち度はある)

翻訳作業前に原文を読むことができない、いくつかの理由

確かにこのお客様のおっしゃるとおり、「翻訳作業前にすべての原稿に目を通して疑問点を潰して質問し、説明を受けて作業を進める」ことができれば翻訳作業はスムースになると思われます。

ただ残念ながら現実的には難しいと言わざるを得ません。理由はいくつかあります。

理由①:原文自体の信頼性はお客様が確保するもの

この「原文すべてに目を通してほしい」という意図の中には、「原文が間違っているかもしれないからそれを読んで見つけてほしい」ということも含まれているようです。

そもそも原文の精度はお客様側で担保するものですから、そのミスを発見することを弊社で対応することは実質不可能でしょう。

理由②:原文を読む時間、質疑応答の時間とコストは誰が負担するのか

またコストと時間という点からも、非現実的と言わざるを得ません。弊社では信頼できる翻訳者さんをはじめとしたパートナーとともに仕事をしているため、すべてタダで作業することはできませんし、それを強制することもできません。そもそも売れっ子の翻訳者さんにはそんな時間はどこにもありません。また弊社内でもそのための作業をする時間はありません。

理由③:原文の分量が多い場合には、それだけで莫大な時間とコストがかかる

翻訳会社は、少量のものも大量のものも扱っています。そして、どんなドキュメントを翻訳するのかは実際の翻訳対象原稿を受け取ってみないと分かりません。

分量も内容も分からず、かつご発注すらいただいていないドキュメントを確認する必要性はありません。

このように、いくつもの理由が考えられますが、産業翻訳というジャンルで、納期も予算も制限されている中で「原文を全部読む」というのは現実的には不可能です。

その分のコストも、時間もお客様側で保証していただけるなら可能だと思いますが、それこそおかしな話で、お客様側でそこにコストをかけることはあり得ないでしょう。

それよりも、次にご紹介するように原文のレベルを上げてしまうのが最も簡単です。そしてそれはお客様ご自身でできることでもあるのです。

原文の質を向上させる方法

原文の品質を向上させる場合、以下のような方法があります。

方法①:原文をブラッシュアップさせる方法を最初から盛り込んでおく(ライターなどに依頼するのも手)

きちんとプロのテクニカルライターやコピーライター、編集者などをアサインし、翻訳も想定に入れて制作されることをお薦めします。

例えば、日本語原稿で考えるなら、日本語の場合の言い回しは多様ですのでそのドキュメントの持つ性質や目的、対象読者を想定して作成することで、すっきりとした原文を作ることができます。

文章校正や文法などがクリアな文章は、翻訳しやすいため品質も安定します。

方法②:用語やスタイル、TMなど、(信頼性の高い)流用できるものを準備する

参考資料がバラバラに沢山存在するのは困りますが、たったひとつでも信頼できる参考資料があれば翻訳作業時に大変助かります。

翻訳に役に立つ参考資料とは

方法③:誤解を与えるような文章をはじめから作らない

完成度の低い原文を使って翻訳しなければならない場合、品質向上はあり得ません。翻訳はあくまで翻訳であり、原文とは主従関係にあるため、訳文は原文以上の品質にはなりません。

仮に原文を飛び越えて翻訳してしまった場合、それらが合っている保証はないため、「誤訳、訳抜け」と言われてしまう可能性も高いでしょう。

まとめ

このように「原文の品質」をしっかり高めておくことが、読者への最大の配慮であり、ユーザビリティの向上であり、Web なら検索上位に表示される分かりやすい文章であり、翻訳しても誤解を招くことのない文章になるのではないでしょうか。

何でも「準備が7割」と言われますが、翻訳作業をはじめから想定しているなら、原文の準備(レベルやトーン&マナー、表記統一など)は、お客様側で行うのが最も効率が良くなります。

少なくとも「作業前に原文を全部読んでほしい」というリクエストにならないのは確かでしょう。

ぜひ原文のレベルを引き上げ、翻訳会社への依頼をしていただければ、翻訳会社としても良い意味でのプレッシャーになりますし、翻訳者としても真剣に取り組むベき原稿になると思います。