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目的を理解した翻訳プロセスの確立

翻訳品質を安定させるために、翻訳支援ツールを導入したり、最近では機械翻訳(NMT)などを使用したりと、様々な方法があります。

また ISO 17100 のような翻訳に関する国際規格を取得し、運用するという方法もあるでしょう。

ISO17100:翻訳サービス提供者認証のご案内

https://shinsaweb.jsa.or.jp/MS/Service/ISO17100

Certification of service providers

https://www.jsa.or.jp/en/en_about11/

今回は、翻訳の品質そのものというよりはそれらを支える翻訳プロセスについて考察します。

基本の翻訳プロセスはシンプル

翻訳という業務では、例えば自動車メーカーのような複雑な工程は必要ありません。もちろん複雑にしようと思えばいくらでもできますが、それは単純に非効率ですので(何か特別な事情がある限り)誰もやらないでしょう。

例えば、あるマニュアルを翻訳する場合、作業工程は大きく分けると以下の2つになります。

  1. 翻訳作業
  2. Web やデザイン、DTP、字幕編集、ローカライズなど

 

この 2 つが大きな工程となります。翻訳というのは、原文を読んで訳文を作る作業、Web は構築から運用、またデザインはクリエイティブですし、DTP レイアウト作業というのは、訳した文章を、元データに流し込み、原文と同じような見た目にそろえることを言います。

ここから考えるとき、翻訳支援ツール SDL TRADOS などを使用すると、1 と2 をシームレスに連携させることができます。

TRADOS によるマニュアル翻訳

また機械翻訳などでもこれらが実現できるものもあります。

いずれにしても、この2つのシンプルな作業工程(翻訳作業と後工程)を理解していれば、大枠を外すということは無いでしょう。

あえて言うなら、翻訳の前工程として「原文を書く時には翻訳を意識しておく」というくらいでしょう。ただ今回はテーマとそれるため割愛します。

「翻訳作業前に原稿を読まないのか?」という質問

 

ドキュメントの種類によってプロセスは増減する

上記はマニュアル翻訳の場合ですが、例えば、Web サイトローカライズはもう少し工程が複雑ですし、アプリやソフトウェアのローカライズも同様に複雑になってきます。

ローカライズとは

翻訳して Web を構築するには、どんな環境なのか、ドメインはどうする、SEO はどうする、広告は、日々の更新は?というように細分化されていきます。

Webサイト ローカライズ

 

さらに、最近では Youtube を代表とする動画ファイルに字幕をつけるというケースでも作業プロセスは増えていきます。

https://www.trivector.co.jp/movie/

上記の弊社のプランの場合でも、

  • テープ起こし
  • 翻訳
  • 字幕編集

という3つのプロセスが含まれています(最小構成です)。

ドキュメントの量によってプロセスは増減する

また、ドキュメントの量によってもプロセスは複雑化していきます。

例えば、1冊のマニュアルなら問題ないですが、10冊のマニュアルを同時に翻訳しなければならないとしたらどうでしょうか?その場合、パッと浮かぶだけで以下のような検討項目があります。

上記はあくまで一例で、まだまだ検討項目はあります。

納品形式に合わせたり、複数のドキュメントを同時に進めるために必要な作業工程があり、それらをつなげていくことで翻訳プロセスは完成します。

もちろん、ただ単に「翻訳だけしてくれればいい、テキストファイルで納品してくれればいい」というケースももちろんありますが、お客様からすれば、「まとめてお願いしたい」というニーズは根強く、それには様々なメリットがあることもご存知でしょう。

プロセスはシンプルだが、シンプルだからこそ影響を受ける

このように、翻訳の作業プロセスは目的地によって増減があるのですが、シンプルな設計である分、どこかで仕様変更があった場合や条件などが変わった場合には、すべての工程で影響を受けやすいとも言えます。

例えば上記の検討項目で、「翻訳者の人数を3人としていたが、指定したツールが使用できない翻訳者がいたため、急きょ2名体制にせざるを得なかった」としたら、どうなるのでしょうか?

考えられるのは

  • リソース(この場合はツール対応可能な翻訳者)の再確保
  • チェックスケジュール、後工程のスケジュールの再調整
  • 既存リソースへの担当振り分けのやり直し
  • 諸々の作業にかかるコスト増加
  • TM のメンテナンス

あたりでしょう。プロジェクトが複雑になればなるほど「翻訳」という全体の中の再調整と、それに影響を受ける後工程での再調整が必要になります。シンプルなプロセスだからこそ、どれかひとつが変更になると、すぐに、直接的に後のプロセスに影響を与えてしまうと言えます。

テクノロジーで防げるものと防げないもの

また、SDL TRADOS や WordPress などのように IT ツールやテクノロジーで便利になった側面も無視することはできません。

従来は、すべて手作業で翻訳しなければならなかったことも、TM によって随分と楽になりましたし、HTML+CSS で構築していた Web サイトも、Wordpress のような CMS なら比較的簡単に Web を構築できるようになりました。

これは本当に素晴らしいことであり、今後も IT を駆使したプロジェクト推進はさらにバージョンアップして便利になっていくことでしょう。

しかし、一方でいつまでも変わらないものがあります。それは「原文の変更」です。

例えば、まだ何も着手していない(翻訳していない)状態であれば、問題ないですが、作業がある程度進んでから、実は文章そのものが変更になったり、追加・削除されたりすることがあります。

いわゆる最上流の部分が変わってしまうので、そのあとに続くプロセスがすべて影響を受けてしまうのです。

まとめ

このようなことが無いように、キックオフミーティングではしっかりと仕様を固めておくこと、またその仕様から変わってしまったものは、どういう扱いにするのかを事前に決めておくことが重要であり、もっと言えば「できるだけコストを抑えながらも良い訳文、良いコンテンツを作りたい」という目的をお持ちの場合には、仕様をしっかりと決めておくこと、またそれ以前にきちんと翻訳会社と話し合っておくことが重要だと言えるでしょう。

つまり品質とは、1つ1つの作業の精度を高めるだけでなく、それらを統括するプロセスのマネジメントも同時に考えていかなければならないということです。