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日本市場でリードの質を最大化する:外資系IT企業向けABM×ローカリゼーション実装ガイド

ABM×ローカリゼーション

外資系IT企業のマーケティング業務では、グローバルで設定されるKPIと、日本市場特有の現実との間で、常に難しい舵取りを要求されます。本社からはMQL(Marketing Qualified Lead)の「量」を問われ、一方で国内の営業チームからはリードの「質」に対する厳しいフィードバックを受けます。これは、多くのマーケティング担当者にとっても「あるある」であり、且つ今も直面する共通の課題です。

この状況を打開する鍵は、マーケティング戦略の抜本的な転換にあります。闇雲にMQLの量を追うのではなく、本当にアプローチすべき企業(アカウント)と担当者(キーパーソン)に狙いを定め、商談化への歩留まりを極限まで高めるアプローチです。すなわちそれこそが「アカウントベースド・マーケティング(ABM)」となります。

今回は、客観的なデータと実践的なフレームワークに基づき、日本市場で成果を出すための「アカウントベースド・マーケティング(ABM)」とそれを支える様々な「ローカリゼーション」の具体的な実装方法を解説します。これは、限られた予算内で費用対効果を最大化し、質の高いパイプラインを創出するための戦略でありロードマップとなります。

日本市場の「動かせない前提条件」を理解する

効果的な戦略を立案するためには、まずマーケティング活動自体が置かれている客観的な状況や環境を正確に把握する必要があります。以下のデータは、なぜ今、日本市場で「量より質」への転換が不可欠であるかの理由となりますが、これはまさに「動かすことのできない厳然たる事実、前提条件」となっている「定数」であるため、無条件で受け入れなければなりません。

世界的に引き締められるマーケティング予算

Gartner 社の調査によれば、グローバルでのマーケティング予算は 2024年時点で売上比の 7.7% と、コロナ以前の水準を下回る低位で推移しています。これは、マーケティング部門が「より少ない予算で、より大きな成果」を求められる「精度重視の戦い」を強いられていることを意味しています。

(出典: Gartner, “The Annual Gartner CMO Spend Survey, 2024”)

https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2024-05-13-gartner-cmo-survey-reveals-marketing-budgets-have-dropped-to-seven-point-seven-percent-of-overall-company-revenue-in-2024

日本市場特有のハードル

日本貿易振興機構(JETRO)の調査では、日本に拠点を置く外資系企業が直面する課題として、依然として人材の確保、言語の壁、煩雑な行政手続きが上位に挙げられています。これらは、日本の商習慣、特に「稟議」に代表される多段階の意思決定プロセスへの適合が、ビジネス成功の鍵であることを示唆しています。

(出典: JETRO, “2023年度 日本に進出する外資系企業の景況感に関するアンケート調査”)

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_News/releases/2024/fee004b83b66c3b4/202403.pdf

また、この点についてはより詳細の記事でご説明をしておりますのでそちらをご覧ください。

なぜ海外で成功したマーケティング施策が日本では失敗するのか?データで見る5つの要因

ABM に最適なチャネル LinkedIn

日本でのビジネスSNSの代表格といえば LinkedIn ですが、2025年初頭の時点で LinkedIn の日本国内の「会員」数は490万人と言われています。

この LinkedIn の広告リーチは成人人口の約4.6%(2025年1月時点)であり、他のSNSに比べて少ないいのですが、その最大の強みは企業名や役職でのターゲティング精度の高さと言われています。これは、まさにABMが求める「少数精鋭」へのアプローチに最適なチャネルと言えます。

(出典: DataReportal, “Digital 2025 Japan”)

https://datareportal.com/reports/digital-2025-japan

Cookieレス時代への移行と対策

Google Chrome におけるサードパーティCookieの段階的な廃止はもはや避けることができません。代替API(Privacy Sandbox)の導入は進んでいますが、不安定な外部データに依存するのではなく、今後は自社サイトで同意に基づいて取得するファーストパーティデータを軸とした計測こそが、最も確実で安全な戦略となるでしょう。

(出典: Google, “The Privacy Sandbox timeline for the web”)

https://privacysandbox.com/intl/eng/open-web/#the-privacy-sandbox-timeline

アカウントベースド・マーケティングで最短距離を

以上のように、上記の4つの「動かせない事実」から導き出される、日本市場における外資系ITマーケティングの最適解となるのは「ABM(誰に)」×「日本語への深い最適化(何をどう言うか)」×「ファーストパーティデータ計測(どう測る)」の三位一体のマーケティング戦略です。

この方程式こそが、限られた予算で費用対効果を最大化する“最短距離”となります。

成果の定義を“量”から“質”へ移行する

前述のように、グローバルで標準化された「量」中心の KPI から脱却し、日本でビジネスを成功させるために、「質」の指標を再構築することが急務であることは明白です。

次の表では、マーケティングを量から質へ転換する際の再定義と指標になります。

実践項目説明
KGIの再定義最終的なゴール(KGI)を「MQL件数」から「新規パイプライン創出金額」と「商談化率」に設定

※これらの数値は、マーケティング活動がビジネスの売上にどれだけ直接貢献したかを測る、最も重要な指標
KPIの再設計KGIを達成するための中間指標(KPI)は、以下のように、「質」を問うものへシフトさせる
ターゲットアカウント内MQL比率全MQLのうち、事前に定義したターゲット企業からのMQLが占める割合。

※マーケティング投資の効率性を示します。
MQA率(Marketing Qualified Account)ターゲットアカウント内で、複数のキーパーソンが意味のあるエンゲージメント(Webサイト訪問、資料DL等)を示した割合。

※アカウント単位での興味関心の高まりを計測
MQL→SQL転換率マーケティングが創出したリードが営業部門によって商談(SQL: Sales Qualified Lead)として認定された割合。

※営業との連携精度を示すことが可能
平均商談単価マーケティング経由で生まれた商談の平均金額。

※高価値案件の創出能力を示します。
日本独自の用語定義本社で使われるMQLの定義をそのまま適用するのではなく、「ターゲットアカウント内の部長職以上からの問い合わせのみを“質のMQL”として定義する」など、日本市場の現実に即した用語と閾値を再定義し、営業チームと公式に合意します。

この内容は、本社へのレポーティングにおいても有効な手段となります。グローバル共通の「量」のKPIと並記する形で、日本独自の「質」の KPI とその成果を示すことで、日本市場における戦略の妥当性をデータで証明できます。

「本社と日本のズレ」を仕組みで解消する

外資系企業のマーケティング活動において、本社が策定した「グローバルプレイブック」と日本市場の実態とのギャップを埋める作業は避けて通れません。この“ズレ”を放置したままでは、いかなる施策も効果を最大化することはできないからです。

理想と実態のギャップと修正案

以下のような一覧を作成し、修正に着手します。また現場で散見される典型的な“ズレ”とその対策案はチームとして対応するようにしましょう。

プレイブック計画日本市場の実態課題改善策
コンセプト迅速な意思決定 / 短期でのクロージング稟議・多段階承認・関係部署との合意形成文化育成(ナーチャリング)期間が想定より長引き、失注と判断される段階的な合意形成をゴールに設定する

各部門のキーパーソンを説得するための材料を個別に用意する
プロセスMQLの大量獲得 → インサイドセールスへ自動配賦ターゲットアカウントを限定し、深く耕作することが有効量を追うあまり、ターゲット外のリードばかりが増え、営業の疲弊と歩留まりの悪化を招くABMを最優先とし、ターゲットアカウント内でのエンゲージメントを評価するKPI(MQAなど)を導入する
ツール英語版 LP+グローバル標準のMA(マーケティングオートメーション)日本語特有の同意文言 / 姓名の入力順 / 全角半角問題 / 厳格な個人情報保護への意識・フォームからの離脱率が高い
・データが文字化け・欠損する
・法的リスク
日本語に最適化された入力フォームを導入。

CMP(同意管理プラットフォーム)を実装し、ファーストパーティデータ計測を徹底

ちなみに、このギャップの根深さは、前述の JETROの調査でも「言語・コミュニケーションの壁」「日本独自のビジネス慣行への対応」が継続的な課題として指摘されていることからも明らかです。これは精神論ではなく、仕組みで解決しなければならない問題です。

理想的な顧客像(ICP)と「購買影響者マップ」を具体化する

ABMの成否は、アプローチ対象となる「誰に」の解像度で決定します。理想的な顧客像(ICP: Ideal Customer Profile)をデータに基づいて定義し、その組織内に存在するキーパーソンたちの役割と関心事を具体的にマッピングすることが大変重要です。

説明
ICPのスコアリング「従業員1,000名以上の製造業」といった曖昧な定義ではなく、より具体的な要素でスコア化を行います。業種 × 従業員規模 × 既存システムのレガシー度 × 規制対応の負荷 × 既存のクラウド利用状況(競合/協業)
日本のB2Bビジネスにおける「4つの関門」エンタープライズITの導入検討プロセスにおいて、特に次の4部門が重要な購買に関する影響者(あるいはブロッカー)となる傾向があります。
IT部門:・既存システムとの連携性
・運用負荷
情報セキュリティ部門・セキュリティポリシーへの準拠
・インシデント対応
事業部門(ユーザー)・業務課題の解決
・投資対効果(ROI)
調達部門・価格の妥当性
・契約条件
役割別のコンテンツの言い換え同一の製品・サービスであっても、訴求相手の役職やミッションに応じて、響くメッセージは全く異なります。一つのテーマに対し、複数の「切り口」のコンテンツを用意することが求められます。CIO/IT役員向け投資対効果(ROI)を金額で示すエグゼクティブサマリー
情報システム部長/担当者向け既存システムとのアーキテクチャの適合性を示す技術資料
法務/コンプライアンス担当向け個人情報保護法やデータの越境や移転に関する遵法性をまとめたドキュメント
調達担当向け競合製品との機能比較表や標準的な契約条件のひな形

これらの資料を事前に整備しておくことは、営業部門が各ステークホルダーとの折衝を円滑に進める上で強力なエンジンとなります。「真のローカライズをしなければ各ステークホルダーには届かない」というのは説明するまでもありません。

チャネル設計:最適な布陣でターゲットを囲い込む

ペルソナが明確化されたら、次はその対象者が存在する/閲覧するメディアを特定し、効果的なアプローチを行うためのチャネル設計を行います。各チャネルに明確な役割を分担させることが成功の鍵となります。

ツール役割戦術
LinkedIn【認知/興味】

ターゲットアカウント内のキーパーソンに対し、「〇〇といえば」の第一想起を獲得する。
ABMリストを活用し、「企業×役職×業界」で精密なターゲティング設定をします。

「課題提起型」と「解決策提示型」の広告クリエイティブのABテストを行い、エンゲージメントを最大化し継続
Eメール(比較検討の中層戦):【比較検討】

自社を認知した潜在顧客を、具体的な検討フェーズへと引き上げるための地上戦となります。
MAツールを用い、エンゲージメントレベルに応じてセグメント化されたメールを配信。

件名には目的・所要時間・得られる価値などを明記し、開封率アップを促進
イベント(ウェビナーや少人数ラウンドテーブル)【意思決定の最終戦】

最終的な疑問点を解消し、導入を後押しするクロージングの場を設定します。
認知獲得を目的とした大規模なウェビナーと、ターゲットアカウントの役職者限定のクローズドなラウンドテーブルを使い分けます。

参加者には「稟議書などの資料」や「費用対効果の試算シート」を提供し、社内での意思決定プロセスを支援。
自社サイト【全ての情報のハブ/信頼の砦】

全てのチャネルからの訪問者を受け止め、信頼性の高い一次情報を提供する本丸
CMPを導入してユーザーの同意を明確に取得し、Google Tag Manager 等を活用してサーバーサイド計測へ移行します。

これにより、ブラウザの制限に影響されにくい、正確なファーストパーティデータを蓄積する基盤を構築することができます。

これらのチャネル設計は、DataReportal 「LinkedIn の精密なターゲティング能力」と、Privacy Sandbox 公式「Cookie 移行期の技術要件」の両方を満たす、現実的かつ効果的なアプローチとなっています。

ローカリゼーションで「品質を成果に変換する」

クリエイティブでも広告でも、アプローチする際の広義のコンテンツは、どうしても本社から提供されるものが多くなるため、それらをいかに「日本の顧客に伝わりやすい」コンテンツに仕上げるかが大変重要です。

精緻に作り込まれたコンテンツの品質を、具体的なビジネス成果(=商談)に変換するための重要な「仕組み」として捉え、進めていく必要があります。

スキーム
事業KPIと連動した品質管理用語集やスタイルガイドの整備に留まらず、その品質評価をマーケティングの KPI と直接接続させます。

ローカライズしたホワイトペーパーの読了率(ヒートマップツール等で計測)、各種申請資料のダウンロード率、ウェビナー後のアポイント獲得率など
これらの数値が低い場合、翻訳の自然さや、日本の読者の関心事とのズレなど、品質に起因する問題が潜在している可能性を示唆します
翻訳支援ツールと人間の協業翻訳メモリ(TM)、用語ベース、生成AIといったテクノロジーは、翻訳のスピードと一貫性の向上に大きく貢献します。

しかし、最終的な品質、特にビジネスの文脈におけるニュアンスの判断は、市場を深く理解した人間の編集者・レビュアーによるレビューが不可欠です。これが「品質を成果に変換する」ための最後の砦となります。

無料版の AI 翻訳を使ったら訳抜けだらけだったとか、AI 翻訳後、チェックせずにそのまま公開/発信してしまったという話はよくお聞きします。決して AI は万能ではないからこそ、その前後で品質を担保する必要があります。

「7.7%」時代のリアルな予算配分モデル

冒頭にあった Gartner 社が示す「売上比 7.7%」という厳しい予算環境の中で、質を最大化するための予算配分モデルの一例を以下に示します。(あくまで一例)

配分
40%(400万円)
ABM媒体費
主に LinkedIn 広告。

ターゲットアカウントリストへのリーチを最大化し、質の高いトラフィックを確保するための最優先投資項目
25%(250万円)
ローカリゼーション & 役割別コンテンツ制作費
ブログ、ホワイトペーパー、動画、導入事例、稟議書等の資料など、役割別に最適化されたコンテンツ群の制作費。

翻訳/DTP/デザインだけでなく、日本市場に合わせた企画・編集費用も含む。
20%(200万円)
イベント関連費
ウェビナープラットフォーム利用料、ラウンドテーブル運営費、顧客事例など登壇者への謝礼や関係構築費用など
15%(150万円)
計測/同意/データ基盤整備費
CMPライセンス料、サーバーサイド計測環境の構築・保守費、MA/CRMとのデータ連携費。

正確な効果測定とコンプライアンス遵守のための必須投資

この配分に基づき施策を実行し、四半期ごとにターゲット内 MQL 比率、MQA 率、SQL 化率、平均商談単価といった「質の KPI」で成果をレビューし、次期の予算配分を最適化するサイクルを確立します。(同時に本社へのレポーティングにも活用できる資料として作成します)

※弊社では年間でのローカライズ契約(翻訳、通訳、事例、映像制作、英会話など)やコンテンツ制作も承っております。

外資系IT企業専門コンテンツ制作

90日間での実装ロードマップ

ここまでの戦略を、具体的なアクションプランに落とし込んだ 90日間で構築するためのロードマップ案をご紹介します。これは、実行計画を策定する上での雛形となるでしょう。

Day 0–14戦略定義フェーズ1. 営業チームとのワークショップを通じ、既存の優良顧客(売上、利益率、LTV等)を特定

2. 優良顧客の共通項を分析し、ICP(Ideal Customer Profile)を言語化
※アプローチ対象外とする除外条件(競合、特定の技術環境など)も定義

3. 購買に関わる「四つの関門」(IT/情シス/事業部/調達)のペルソナと関心事をマッピング
Day 15–30コンテンツ準備フェーズ1. 各ペルソナ向けに複数の広告クリエイティブ(役職×メッセージ)を準備

2. 日本語に最適化された(ローカライズ)LP、入力フォーム、サンキューページを制作

3. 法務部門と連携し、同意取得文言を確定、CMPを設定。

4. ダウンロードコンテンツとして、「稟議書PDF」「機能比較表」などを整備
Day 31–60施策実行・改善フェーズ1. LinkedInにターゲットアカウントリストをアップロードし、ABM広告キャンペーンを開始

2. 週次で広告CTR、LPの CVR などをモニタリングし、パフォーマンスを最適化

3. 獲得したリードに対し、MAから育成プログラム(メール配信等)を開始
Day 61–90パイプライン化フェーズ1. エンゲージメントが高いアカウントを対象に、ウェビナーや少人数ラウンドテーブルを企画・実施

2. 営業チームとの週次レビュー会を設定し、MQL から SQL への転換におけるボトルネックを特定

3. 特定された課題(よくある質問、反対理由等)に基づき、FAQコンテンツや追加の説得資料を作成・展開

ケーススタディ:先進企業の取り組み

理論だけでなく、実際の企業による取り組み事例は、自社の戦略を検討する上で多くの示唆を与えます。ここで紹介するのは、全て企業やベンダーが公式に発表している一次情報です。

NEC × LinkedIn(グローバルでの運用統合)

NECは、グローバルでのブランド発信基盤としてLinkedInを統合的に活用。50万人以上のフォロワー基盤を活かし、見込み顧客の育成から顧客化へと繋げる体制を構築しています。企業としてチャネルを統合し、一貫したメッセージを発信することの重要性を示している事例となります。

(出典: LinkedIn Marketing Solutions 公式ケーススタディ)

https://business.linkedin.com/marketing-solutions/case-studies/nec-corporation

NTTPCコミュニケーションズ × HubSpot(営業・マーケティング統合)

同社はHubSpotを導入し、マーケティングと営業のデータを一元化。プロセスの標準化と歩留まりの改善により、施策コストを約2億円削減しつつ、売上は毎年200%成長に貢献したと公表されています。データ統合が具体的なビジネス成果に繋がることを示す、国内の優れたB2Bの成功事例です。

(出典: HubSpot Japan 公式導入事例)

https://www.hubspot.jp/case-studies/nttpc

実務用チェックリスト

日々の業務で活用できるチェックリストも合わせて活用してください。

項目補足説明
定義MQL/SQL/MQAの日本市場における定義を言語化し、営業部門と合意済みか
ABM対象ターゲットアカウントリストが作成され、除外条件まで確定しているか
同意・計測日本語の同意取得テキストは法務部の確認済みか

CMPのログは保全されているか

サーバーサイド計測は実装済みか
資料各役割別(IT/情シス/事業部/調達)の「稟議書等PDF」や「機能比較表」、「費用対効果試算シート」、「FAQ」などが用意されているか
チャネルLinkedIn(ABM)、メール(育成)、イベント(クロージング)の役割分担と、それらを横断する KPI が設計されているか
レビューターゲットアカウント内での KPI(MQA率、SQL化率等)がダッシュボードで可視化され、営業と週次でレビューする仕組みがあるか
法務連携:個人情報保護法やデータの越境移転に関する記述が、自社の公開ポリシー等に基づき、正確な表現になっているか

結論:日本市場を制する鍵は“三位一体”の同期にある

いかがでしたでしょうか。日本市場におけるマーケティングの「質の最適化」とは、

「ABM」×「ローカリゼーション」×「ファーストパーティ計測」

という 3つの要素を同期させることに他なりません。

日本の複雑な意思決定プロセスと、厳しい法務・セキュリティの関門を“障害”と捉えるのではなく、“攻略すべき市場のルール”と捉え直します。そして、その攻略に必要な役割別の説得材料と、稟議や上申に使えるデータや資料を、顧客が求める前に先回りして提案していきます。

このアプローチによって初めて、ターゲット外のノイズから解放され、本当に価値ある商談に集中することが可能です。本社からのプレッシャーや営業との軋轢といった課題は、多くのマーケティング担当者が体験するものですが、データとロジック、そして日本市場への深い理解に基づいた ABM 戦略によってその状況を打開することができるのではないでしょうか。

なぜ海外で成功したマーケティング施策が日本では失敗するのか?データで見る5つの要因

日本市場のマーケティング施策

グローバル施策と日本市場での現実のギャップ

「本社では大成功だったのに、なぜ日本ではうまく行かないのか?」

これは多くの外資系IT企業のマーケティング担当者が直面する共通の悩みです。実際に、外資系IT企業のマーケティング担当者を対象とした調査では、73.6%が日本市場での課題に直面し、そのうちの半数以上が「日本市場に特化した戦略立案」を最重要の課題として挙げているという調査結果があります(以下参照)。さらにこの調査結果でより注目すべきは、75.5%の担当者の方が「日本のマーケティング戦略は、海外のマーケティング戦略と異なる」と回答している点です。

PR TIMES(株式会社 IDEATECH)

【外資系社員のマーケティング担当者106名に聞いた】73.6%が日本市場で課題に直面したことがあり、半数以上が「日本市場に特化した戦略立案」「日本市場のニーズ把握」に課題を実感

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000151.000045863.html

確かに弊社の肌感としても、これまで 20年余、翻訳やローカリゼーションというお仕事の中だけで振り返ると「日本は特殊な市場である」という話は何度も耳にする機会がありました。

では、具体的に何が違うのでしょうか。今回はデータと実例をもとに、海外で成功したマーケティング施策が日本で失敗する5つの構造的な要因を分析し、それぞれに対する実行可能な解決策を探りたいと思います。

【ギャップ1】日本企業の意思決定プロセスの構造的な違い

課題:「短期成果主義 vs 稟議制度」

最も見落としがちなのが、日本企業の意思決定プロセスでしょう。多くのグローバル標準では「決裁者にダイレクトにアプローチし、短期で成果を出す」ことが重視されますが、日本企業では稟議制度に基づく合意形成プロセスが根強く残っています。いわば日本式の意思決定プロセスです。

この違いは数字にも現れています。国内の公開調査では、選定に関与するメンバーは「4〜5名」、最終承認者は「2〜3名」が一般的で、検討期間は「1〜3ヶ月が最多」と報告されています(大規模案件ではさらに長期化)。これが一般的な意思決定プロセスとすれば、確かに「時間がかかる」わけです。

解決策:段階的な合意形成プロセス

効果的なアプローチは以下の3段階に分けてクライアントの合意を獲得する必要があります。逆にこのプロセスを辿ることで合意を得やすくなるとも言えます。

フェーズ期間内容
第1段階情報収集フェーズ数週間~数か月・現場担当者向けの詳細な技術資料、機能比較表、ROI計算ツール等を提供

・「上司への説明用資料」として、プレゼンテーション素材をセット

・競合比較や業界動向を含む、包括的な情報パッケージを準備
第2段階社内検討フェーズ数ヶ月〜四半期単位・各部門(IT、調達、法務、セキュリティ)向けの専門資料を個別に準備

・段階的な導入計画と予算分散などの提案

・他社の導入事例と失敗回避策を詳細に提示
第3段階最終決定フェーズ案件と稟議の層数に依存・経営層向けの戦略的な価値提案

・導入後のサポート体制とリスク管理計画

・段階的な成果測定指標の設定

成功事例:Salesforce の長期にわたる関係構築のアプローチ

Salesforce は日本市場への参入当初、アメリカ式の短期クロージングアプローチで苦戦していました。しかし、2010年以降、前述の日本企業の意思決定プロセスを理解し、以下の施策を実行しました。

  • Trailhead プラットフォーム:無料学習コンテンツを提供し、現場担当者の理解度向上を支援
  • 段階的な導入プログラム:小規模パイロットから始める低リスク導入モデルを確立
  • 業界特化型アプローチ:製造業、金融業などの業界ごとの特殊な状況や事情にも対応

これらのプロセス変更により、徐々に日本市場に受け入れられるようになり、Salesforceは日本を含むアジア太平洋地域においても、CRM市場シェア1位となるなど評価が上がっています。

Salesforce、12年連続で世界No.1 CRMプロバイダーに選出

【ギャップ2】コミュニケーション文脈の誤解

課題:ダイレクトメッセージング(ローコンテクスト) vs 間接的表現文化(ハイコンテクスト)

欧米のマーケティングでは「明確な価値提案」「ストレートなベネフィットの訴求」が非常に効果的ですが、日本ではこのまま適用すると「過度な売り込み感」「押しつけがましい」として敬遠される傾向があります。この文脈を理解しないまま、販売活動を続けても成果に結びつきにくくなります。

解決策:文脈を理解した日本的なコミュニケーション

日本では「売り込まれている」「押しが強い」といったスタンスではなく、「お客様のために」「お客様の役に立つ」といった効果的なコミュニケーション戦略をとる必要があり、これはセールス、マーケティング部門では必須の考え方となります。

コミュニケーション戦略具体的な施策
コンテンツのトーンの調整・「革命的」「画期的」などの過度な形容詞を避けたり、「改善」「効率化」などの現実的な表現を使用するようにする

・ベネフィットより先に、顧客の課題共感を示す

・具体的な数値データより、「お客様の声」を重視
情報提供スタイルの変更・セールス色を抑えた「情報提供セミナー」形式

・「業界の動向レポート」として価値のある情報を先に提供

・「相談対応」「課題解決サポート」としてのポジショニングをとる
フォローアップアプローチ・頻度の高いフォローより、タイミングを見計らった価値ある接触に重点

・季節の挨拶や業界イベントに合わせたごく自然なコミュニケーション

・一方的な情報提供より、双方向の意見交換を重視(対話)

成功事例:マイクロソフトの「お客様第一主義」ローカリゼーション

マイクロソフトは2014年の新CEO就任を機に、日本市場でのコミュニケーション戦略を大幅に見直しました。いわばローコンテクストからハイコンテクストへのシフトです。

コミュニケーション戦略

Azureは2015年時点で既に国内2位(AWS 1位、Azure 2位、Google 3位)との調査があり、2020年の利用率調査でも国内2位という結果が出ています。

https://business.ntt-east.co.jp/content/cloudsolution/column-374.html

【ギャップ3】競合環境の認識

課題:グローバル競合想定 vs 国内ベンダーとの競争

多くの外資系IT企業は、グローバル市場での競合他社(GAFA、Oracle、SAP等)を想定したポジショニングを行っています。しかし、実際の製品選定タイミングにおいて日本市場では国内ベンダーや日本独自のSaaSベンダーとの競争が重要な要素となることが隠れてしまうことがあります。

解決策:日本市場での独自の競合マッピングと差別化戦略

日本市場を理解するための様々な「競合」を把握することが重要ですが、日本市場に特化した競合分析フレームワークを用いて様々な角度から分析を行っていきます。

競合分析補足説明
技術的な競合相手・他社グローバルIT企業
※これが従来の競合分析
関係性の中での競合・既存の国内ベンダーや SIer
現状維持としての競合・自社開発で解決したり、既存システムをそのまま使用(延命措置)する
代替手段による競合・他部門での課題解決や外部への業務委託による投資による回避

このように、外資系IT企業だからこそ持ちうる様々なリソースと日本企業の特徴を掛け合わせることで、新しいマーケティング戦略を生み出すことができます。

戦略設計補足説明
グローバル標準の技術力 × 日本市場への理解度外資系IT企業が保持する高い技術力を武器に、日本市場や日本企業文化を理解した方法でのアプローチ設計が重要。
本社リソース × 現地サポート体制の充実外資系IT企業の潤沢なリソースを活用し、きめ細かい日本企業へのフォローやアフターサポート、フォローアップ。
コスト競争力 × 導入リスクの最小化強い資本力から生まれる価格競争力とクライアントにとっての導入リスク(価格、品質など)をカバーした戦略

成功事例:Salesforce の国内 SIerとの協業パートナー戦略

Salesforce は当初、直販モデルで日本市場に参入しましたが、国内ベンダーとの競合で苦戦していました。そのため、2012年以降、戦略を以下のように転換しました。

協業パートナー

これらの方針転換により、Salesforce は日本市場で大きくシェアを獲得することができました。また、IDCの経済効果分析では日本におけるパートナー収益率(Salesforce 1ドル当たり)が7.07倍と推計されています。

2019年から2024年の間に、日本で1,090億ドル以上の新規ビジネスと、 約20万人の新規雇用を「Salesforceエコノミー」が創出

【ギャップ4】購買影響者の見極めの失敗

課題:決裁者重視 vs 現場担当者の影響力

欧米では「Decision Maker(意思決定者)」へのダイレクトアプローチが効果的ですが、日本企業では現場担当者の意見が意思決定に大きな影響を与えることがあります。そのため、現場担当者の理解をどのように得られるかがポイントになります。

解決策:日本企業における購買影響者マッピングを行い、アプローチする

日本企業での意思決定プロセスにおいて現場の担当者の共感と理解を得ながら、経営までの意思決定をスムーズに運ぶためためのいくつかの階層を通過しなければなりません。それぞれのポジションにおける評価ポイントを確認しつつ、営業マーケティング活動を進めます。

階層影響度属性特徴や評価ポイント
エンドユーザー実際の利用者、現場担当者・日常業務への影響を最重視
・操作性、利便性および学習コストを評価
技術者、技術検証者中~高IT部門のシステム管理者やエンジニア・技術的な妥当性やセキュリティ面、運用負荷などを評価
・既存システムとの連携性を重視
業務の責任者部門長、マネージャー層・業務効率、コスト効果を評価
・導入による組織への影響を考慮
経営中~決定権役員、CIO等・戦略的価値、投資対効果、信頼度を評価
・最終的な予算承認権限を保有

段階的なエンゲージメント向上を狙う

以下のプロセスに則って、購買者に対しそれぞれの訴求ポイントを中心に、プレゼンテーションを重ねていかなければなりません。
成功事例:Adobe の現場主導型の導入支援

Adobe Creative Cloudの企業向けの展開では、従来のトップダウンのアプローチから、現場主導型に戦略を転換し成功を収めています。

現場担当者エンゲージメント

これらの施策により、Adobeは国内「グラフィックスソフト」部門でBCN AWARD(量販POSベース)最優秀賞を獲得し、同カテゴリでの強い地位が証明されています。

【ギャップ5】投資時間軸のミスマッチ

課題:四半期での成果 vs 長期関係構築の重要性

外資系IT企業の多くは四半期ベースでの短期の成果を求められますが、日本市場では長期的な関係構築が売上に大きく影響するため、それらを無視してのビジネス推進は長期的には拡大が難しくなります。

解決策:段階的なROI測定と長期投資のバランス

例えば、以下のように短期から長期のそれぞれの目標設定および、投資バランスなども設定しておくことで、短期的な目標を満たしつつ、長期の関係構築も進められるようになります。

短期成果指標(3-6ヶ月)中期成果指標(6-18ヶ月)長期成果指標(18ヶ月以上)投資配分の最適化(例)
・リード獲得数
・セミナー参加者数
・パイプライン金額
・検討段階進展率
・受注金額
・継続契約率
短期成果:40%(リードジェネレーション、イベント等)
・ホワイトペーパーダウンロード数・パートナー紹介案件数・顧客生涯価値(LTV)の向上中期成果:35%(関係構築、パートナー開拓等)
・初回商談 創出件数・既存顧客エンゲージメント向上率・口コミや紹介による新規開拓長期成果:25%(ブランディング、思想リーダーシップ等)

成功事例:Oracle の10年投資戦略

Oracle は1990年代の日本市場参入時、短期的な売上追求で苦戦しましたが、2000年以降、長期投資戦略に舵を切りました。

長期投資

日本企業は一度信頼関係をしっかり築いてしまえば、契約更新なども見込めるため「損して得取れ」という発想が必要になります。Oracle はそういう点では日本市場を深く理解したからこそ成功したと言えるでしょう。

実践のための5つのアクションプラン

前述のように日本市場に合わせた(ローカライズされた)マーケティング戦略が必須ですが、具体的に明日から実践可能なアクションプランをご紹介します。この順番で戦略設定からスタートすべきであり、最適なパートナーとともに進めていくことが求められます。

5つのアクションプラン

まとめ:日本市場での真の成功に向けて

いかがでしょうか。海外で成功しているマーケティング施策や手法が日本で失敗してしまう要因は、決して日本市場の「特殊性」や「閉鎖性」が理由ではありません。

むしろ、日本企業の合理的な意思決定プロセス、リスク管理重視の姿勢、長期的な関係性を大切にする企業文化を正しく理解し、それに適応したマーケティング戦略を構築することが重要だと言えます。

外資系企業にとって重要なのは、グローバル本社のリソースと日本市場の特性を組み合わせた「ハイブリッド戦略」の構築です。技術的優位性やグローバル実績という強みを活かしながら、日本企業の意思決定プロセスや購買行動に適応したアプローチを取ることで、将来を含めた持続的な成長を実現することができます。

今回ご紹介した5つの要因と解決策は、多くの外資系IT企業が実際に直面している課題への実践的なアプローチと言えます。まずは完璧を求めるより段階的に実装し、継続的な改善を通じて日本市場でのビジネスを加速しましょう。

日本市場は確かに独特ですが、それは同時に、適切にアプローチできれば長期的で安定した収益を生み出す魅力的な市場でもあるということです。外資系企業というポジションを上手に活用しながら、日本市場での存在感を増すためのマーケティング活動をお勧めいたします。

【徹底解説】日本企業のアジア市場進出の成功を導く鍵となるローカリゼーション6ステップ

アジア市場進出

成長が続くアジア市場の魅力

アジア市場は広大で多様性に富み、世界の成長市場の一つとなっています。その中でも特に東南アジアは人口約6億7,000万人と日本の約5.4倍の規模を誇り、またタイ、インドネシア、ベトナムでは若年層が人口の約半数を占め、高いGDP成長率を維持しています。

中小企業白書から見るアジア市場進出と多言語翻訳

デジタル面でもスマホの普及率やインターネット利用率もかなり高く、日本企業にとって大きなビジネスチャンスであることは間違いありません。そのチャンスを見逃さずに海外進出、アジア市場への進出をするための具体的なローカリゼーションのステップをご紹介します。

ローカリゼーションとは何か?翻訳との違いとは?

ローカリゼーションは単なる翻訳のことではなく、言語・文化・商習慣などを含めて「現地仕様」に最適化するプロセスのことを指します。またローカリゼーションの対象というのは文章だけでなく、例えば、色彩、デザイン、UX、決済方法、法規制まで幅広く含まれるのが一般的です。

ローカライズとは

アジア市場でローカリゼーションが不可欠な理由

アジアには48の国・地域があり、さらに数千の言語と多様な文化があるのは有名です。ターゲットとする国や地域に合わせた表現をしなければ現地の人には受け入れられることはありません。

例えば、言語面ではインドでは22の公用語、フィリピンでは170以上もあります。中国に至っては方言は多数ですし、消費行動なども日本では口コミが重視される一方、東南アジアでは家族・コミュニティ・インフルエンサーといった人たちの意見が尊重される傾向にあります。

要素欧米圏の例アジア圏の例
色の意味白=純粋白=喪(中国)
赤=幸運(中国)
ジェスチャーサムズアップ=好意的な意味一部地域ではサムズアップが侮辱的になることも
食文化・宗教食材制限なしイスラム圏ではハラール必須、豚肉・牛肉制限あり

ですから、こういった特徴を無視してただ翻訳すればいいというわけにはいかないことがお分かりになるでしょう。

ローカリゼーション成功のための4つの視点

1. 徹底した市場理解と市場調査

実は最も大切なのは「ローカリゼーションの準備段階」という人もいるくらい各国の市場理解と市場調査は重要です。ローカリゼーション前に、現地の価値観や嗜好、購買行動を詳細に把握できるかどうか(色、ユーモア、宗教的配慮など細部の違いなども含めて)は、貴社商品や製品が売れるかどうか、受け入れられるかどうかを判断するための非常に重要な要素です。「相手を知る」ことはマーケティングの基本ですが、ローカリゼーションはそこにも関係しています。

2. 翻訳ではなく「体験の最適化」を設計する

単に文章を翻訳するのではなく、トーン&マナー、ビジュアル、UXまで現地の仕様にする必要があります。それは例えばスマートフォンなどが顕著です。例えば、モバイルファーストの市場では、スマホ画面での操作性を最優先に設計しなければ、ユーザがあっという間に離脱してしまいます。自分自身での経験でも確かに簡単に画面を切り替えたり、閉じたりするわけですから、いかに UI/UX が大切かは直感的に理解できるはずです。

「サービスやプロダクトを体験する中で、ユーザにどのような価値を感じてもらいたいのか」をしっかり設計しなくてはなりません。

3. 過度な一般化を避ける

前項と重複しますが、「アジアを一つの市場」と見なすのではなく、国・地域ごとの特性に合わせましょう。

例えば、有名なペプシ社の「Come alive with the Pepsi generation」が、中国では「先祖を墓から呼び戻す」と誤訳された事例は、過度な一般化のリスクを象徴していると言えます。

しっかり市場調査をし、背景を押さえておくことがこういったリスクを最小化するもっとも有効な手段だと言えます。

4. テクノロジーと人の融合

翻訳メモリやCATツール、AIPE などを使って効率化しつつ、文化的な背景を理解するネイティブ翻訳者が品質を確保していくことで、より信頼のおけるコンテンツを提供することができます。

成功企業に学ぶ!ローカリゼーション事例

アジア市場においてローカリゼーションの力によってビジネスが急速に拡大した例は以下になります。

企業名施策成果
Alibaba統合決済、グループ購入、WeChatとの互換性など現地の商習慣に柔軟に対応中国B2B市場で圧倒的シェアを誇る
Grab現地ドライバーとの契約・面接などで安全性を強化東南アジアで急成長、Uberとの差別化を図る
WeChat Pay / Alipay偽札問題解消、QRコード決済を普及中国国内外で急速に普及しておりシンガポールやタイにも拡大(シェア90%以上)
Mobike / Ofo都市短距離移動ニーズに特化したシェアサイクルの提供急速に利用者拡大、都市交通の新インフラに

このように、広義の意味でのローカリゼーションの実施により、企業の成長が押し上げられています。

日本企業が実践すべきローカリゼーションの 6ステップ

以下の図に示すようにローカリゼーションを成功させるためには、確実に押さえておくべきステップをご紹介します。

ローカリゼーションの6ステップ

ローカリゼーションの6ステップ

ローカリゼーションは投資だと捉える

「ローカリゼーションはコストがかかる」というイメージがありますが、それは違います。なぜなら、ローカリゼーションはコストではなく、海外市場での競争力を高める投資だからです。適切な現地語化ができなければ貴社ビジネスはうまくいきません。

逆にローカリゼーションがうまく機能すると顧客体験向上、口コミ拡大、売上増につながっていくと考えると、過大投資は避けつつ、最適な手段を選択し、投資していくというビジネスの基本は変わりません。

まとめ

いかがでしょうか。前述のようにアジア市場は将来性、成長性と多様性を兼ね備えています。その可能性を最大化するためには、戦略的なローカリゼーションが不可欠です。今回ご説明したステップを活用し、未来のユーザが「自分たちのためのブランド、自分のための商品である」と感じる体験を提供しましょう。

ローカライズ費用は外資系企業にとってコストなのか、投資なのか

ローカライズ費用

「本当は翻訳したいのに予算が下りないんです」

外資系のお客様とお話ししているとよくこのようなご相談を受けます。予算次第、というのはどんな仕事でもよくある話ですが、少なくともグローバル企業の日本支社であるにもかかわらず、ある程度の予算が下りないというのはなかなか解せません。そこには、何らかの理由があると考えるのが妥当です。

一方で企業には仕事の優先順位があります。例えば日本に進出してきたばかりであればむしろ投資すると考えるのが普通でしょう。

しかし、お客様に色々とお話を聞いているとどうやら物事はそんなに簡単ではないということが分かってきます。

そもそもなぜ外資系企業はローカライズをするのか

今さら何を、という話ですが、「ローカライズを行うのはなぜなのか」を理解しておかなければなりません。この答えは簡単です。

「日本人ユーザは日本語を読みたい」からです。

もっと言えば、日本語版のドキュメンテーション等がないと、日本ではなかなか受け入れられにくいという側面すらあります。

※これは弊社が翻訳会社として仕事してきた18年以上もの間、何も変わっていません。(変わっていないからこそ翻訳というニーズが拡大している訳ですが)以下の記事は5年以上前に書いたものですが、本質はいまだ変わっていないことを痛感します。

なぜ翻訳するのか?

もしあなたが外資系企業の日本支社長であれば、日本でのプロダクトの拡販は当然ながらミッションに含まれているでしょうし、設定した売上を立てることは当然の必達目標でしょう。

それをどうやって実現するか=つまりどのように認知してもらい、さらに購入して使ってもらえるかを考えたとき真っ先に浮かぶのは「ローカライズ」ではないでしょうか。

ローカライズ費用は企業にとってコストなのか、投資なのか

外資系企業の場合、予算の獲得にはいくつかの傾向があります。

ローカライズのコスパをシビアに求める外資系企業の本社

コストパフォーマンス

これは各外資系企業によりますが「〇〇円投資するなら、〇〇〇〇円のコストパフォーマンスがなければならない」という本社から指示される会社もあります。

この場合、日本の支社長や担当者は予算を出してもらうためにこの根拠を作らなければなりません。これはなかなか骨の折れる作業です。もちろん適当に回答することはできませんし、かといって誇張することもできません。

初めてのローカライズでは前例が無いため、そもそも「読み」ができません。そのため正確にコストパフォーマンスを出すのが難しい状態です。

しかし本社からその精度を求められると、緻密な設計が難しいため、なかなか前向きにローカライズしましょうという結論は出にくいのは容易に想像できます。

結果をシビアに求められてしまうと(達成できるかどうかは分からないため)ローカライズは見送りになり、英語版のままユーザに提供されたり、営業ツールやマーケティングマテリアルも英語のままになります。

そして(それらも原因の一つと言えますが)日本人ユーザに英語は敬遠されるため、売り上げがなかなか立ちません。

グローバルマーケティングを行う外資系企業

またコスパというよりは「グローバルマーケティング」を行う外資系企業も多く存在します。グローバルマーケティングとは、全世界を市場として捉えるため、ローカライズに比べて各国の自由度は低くなります。

外資系企業では「中央集権化されたマーケティング」とも呼べるため、ブランド統一などには強く作用しますが、各国個別の事情にマッチするかどうかはかなり微妙なケースもあります。

ローカライズを「投資」と考える外資系企業

投資としてのローカライズ

一方で、ローカライズを行うことを投資と考える企業も多く存在します。彼らの場合にはローカライズをすることで認知されやすくなり日本市場で受け入れられやすく、営業もしやすくなるので購入にもつながると考えているわけです。

また投資と考える企業は、プロダクトそのもののローカライズだけではなくドキュメンテーションのローカライズもきっちりと行い、その国のユーザに寄り添った形でビジネスを展開していきます。

※ただしそれに伴った売り上げが達成できない場合には、ローカライズそのものが中止になったり、最悪の場合には日本市場からの撤退もあります(これは事前にサンクコストを算出しておき、撤退ラインを決めておくことで対応します)

※一般的に、日本企業が海外展開する際なども共通して言えるのはその国をしっかり調査し、ターゲットを定め、自社のプロダクトやサービスをまとめてローカライズしています。やはり「郷に入りては郷に従え」という点は無視することができません。ユーザニーズにマッチしないプロダクトやサービスは売れませんし、強引に売ったとしても長期的にはブランドが失墜するだけです。

ローカライズにかかる費用はそのマーケットに対する、本社の明確な意思表示

このように、結局のところは「本社が日本市場をローカライズ対象地域として捉えているかどうか」という価値観が如実に表れていると言えます。

日本の担当者や支社長は日本市場が魅力的であること、だから投資としてのローカライズ費用を出してほしいというアピールや交渉を粘り強く継続していく必要があります。

中には年単位でアピールをし、予算を獲得しているという担当者も存在しますが、本社側から見れば「売れてない市場なら投資しない=コストは押さえたい」という点に帰着してしまうこともあります。

まさに「卵が先か、鶏が先か」状態なのです。

つまり「売り上げるために投資する」と「売上がないから投資しない」は表裏一体であり、各社がどちらにフォーカスしてビジネスを展開すべきかの姿勢が出ているということでしょう。

ローカライズ費用を抑えつつ効果を出すために日本支社としてできること

前述のように、ローカライズにかかる費用を本社から獲得した後、それを使って最大の効果を出すためにには一体どうすればいいのでしょうか。弊社のこれまでの経験上、いくつかのパターンに分けることができます。

必要な個所を厳選してローカライズする

必要な個所をローカライズ

限りある予算の中で日本のユーザにとって本当に必要なものだけを翻訳していきます。リーンスタート、スモールスタートという観点からも理にかなっていますので、まずはここから小さな実績を作ることを目指しましょう。

販売代理店と契約して「テコの原理」を使う

販売代理店と契約

外資系企業が複数の販売代理店と契約することで、彼らに提供する販促ツールやマーケティングマテリアルと厳選し同じものを提供しますが、販売代理店が営業活動を行うことでテコの原理を軸に、1社で行うよりも早くリードを獲得することができます。

自社で直販するためのローカライズよりも、スピーディにマーケットになげかけることができるため効率的です。

オリジナルコンテンツを作る

オリジナルコンテンツ

ローカライズの一環として日本独自のコンテンツを作ることもできます。プロダクトに絶対に必要な UI の日本語、ドキュメンテーションの日本語、また営業ツールとしてにコンテンツ制作(日本での導入事例やインタビュー)などです。

まとめ

このように、外資系企業のローカライズ業務というのは、翻訳の仕方などのローカライズ作業そのもののポイントもさることながら、予算獲得にまつわる動きが重要であり、優秀な日本支社の担当者は「本社から予算を引っ張ってこれる人物かどうか」というのもポイントになります。(まるで政治家のようですが)

それを適切な個所に配分、投資することによって日本語版を提供し、売上を作っていくことができるわけです。

ビジネスを展開しスケールさせるにはやはり投資が必要であり、それは中長期、短期と両方の視点がありますが、どちらも継続しなければならないと感じています。実はこれは海外から日本進出だけではなく、日本から海外展開という場合も同様です。

これらは翻訳会社という見地からだけではなく、すべての企業が考えなくてはならないテーマなのではないかと思います。

外資系企業での翻訳、ローカライズ業務の進め方

弊社ではWebサイトをはじめ、外資系企業様の日本進出の足掛かりとなるローカライズサービスをご提供しております。

ご興味がございましたらお気軽にお問い合わせください。

UI を翻訳・ローカライズする時に注意したい 3 つのポイント

ui

UI とは何か

UI は「User Interface:ユーザーインタフェース」の略称です。具体的には、ソフトウェアなどでは頻繁に出現する画面のことを指します。(メニューやエラーメッセージなど)

ui3

この UI の翻訳やローカライズを行うにあたっては、通常のドキュメントの翻訳とは異なった注意が必要になります。今回は、その主な注意点をご紹介します。

UI 翻訳、ローカライズの準備

まず、作業にあたって準備が必要です。

  1. 翻訳対象原稿(ファイル形式)
  2. 専門用語集
  3. 表記スタイルガイド
  4. (必要であれば)スクリーンショットや実機インストール

 

それぞれについて見ていきましょう。

翻訳対象原稿について

これは読んで字のごとく、翻訳する対象のファイルのことです。しかしながら、UI の場合にはドキュメントとは異なり、様々なファイル形式があります。例えば、以下のような拡張子のファイルがあり、これらが対象となります。

  • .txt :テキスト形式のファイル
  • .resource:リソースファイル
  • .rc:リソースファイル
  • .xls/.xlsx:エクセルに抽出されたファイル

これらは、そのまま開いて作業することができないものもあるため、SDL TRADOS(トラドス) を代表とする翻訳支援ツールなどを使用して翻訳することもあります。

 

SDL TRADOS(トラドス)の解析アルゴリズム

 

またリソースファイルでは翻訳対象文章以外のプログラムコードが記述されているため、それらを誤って削除したりしないように注意する必要があります。

UI の翻訳やローカライズには、TRADOS だけでなく Passolo や Catalyst といった翻訳支援ツールを使用することで一貫性を保つことができます。なおこれらのツールは、上記のようなマニュアル等のドキュメントの翻訳でも効果を発揮します。

ローカライズとは

 

どんなファイル形式で原稿をお借りするかによって、使用ツールや納品形式も変わってしまいますので、翻訳会社への連絡時には、原稿のファイル形式を合わせて伝えた方が良いでしょう。

専門用語集について

用語集は、UI の翻訳やローカライズに関わらず大切です。弊社では、用語集をお持ちでないお客様向けに「用語集構築プラン」をご提供しています。

用語集構築・運用

 

専門性が高くなればなるほど用語集は重要になります。専門用語は、その用語が持っている意味が重要だからです。用語集がなければ、統一が難しくなってしまうシーンもあるため、できるだけ用意しましょう。

表記スタイルについて

用語集と同様に、表記スタイルも大変重要です。例えば、このような場合は何が正解なのかはお客様にしかわかりません。

表記の例ルール
ユーザ インタフェースユーザ、インタ、フェース
ユーザ インターフェースユーザ、インター、フェース
ユーザ インターフェイスユーザ、インター、フェイス
ユーザ インタフェイスユーザ、インタ、フェイス
ユーザー インタフェースユーザー、インタ、フェース
ユーザー インターフェースユーザー、インター、フェース
ユーザー インターフェイスユーザー、インター、フェイス
ユーザー インタフェイスユーザー、インタ、フェイス

どれも ” User Interface” という言葉の訳語であり、意味も変わりません。違うのは表記スタイルだけです。

これは、どれも意味は同じなのに、表記方法が異なっているというほんの一例です。UI の場合、特にこの表記方法が異なると、画面として表示させたときに、かなりバラバラな印象が強く、使いにくいソフトウェアと思われてしまうかもしれません。

スクリーンショットや実機インストール

UI はそのソフトウェアのスクリーンショットがあればより翻訳しやすくなります。これは完成形をイメージできるからです。また、場合によっては翻訳時に作業環境を構築し、実際のソフトウェアをインストール、操作しながら翻訳するケースもあります。

これらはどちらも、実際の画面に表示される状況を想像して翻訳することができるために、品質が高くなるということを意味します。

まず作業前に確認すべき点を洗い出し、準備することで実際の翻訳作業をスムースにすることができるため、より翻訳作業そのものに集中することができ、結果としてお客様が望む品質に近くなるのです。

これらを踏まえ、UI の翻訳時に、特に重要な 3 つの注意点をご説明しましょう。

注意点1:限定された文字数

ドキュメントの翻訳と異なり、UI の翻訳やローカライズではその使用される場所が画面やメニュー画面ということもあり、ダラダラと長い文章で翻訳することができません。

スクリーンショットの幅に収まるように訳文を調整しなければ、どんなに上手な翻訳でも使い物になりません。このため、翻訳後には訳文を実装し表示させ、訳文の微調整などを行わなければならないケースもあります。

例えば、英語から日本語からの翻訳の場合には、英語はシングルバイト、日本語はダブルバイトという前提を踏まえて最大の文字数をあらかじめ決めておいて翻訳する必要があります。

文字数制限のある翻訳では、創意工夫が必要になりますし、上述の用語集や表記スタイルが重要になってくるのです。

注意点2:文脈(コンテキスト)がない

通常、ドキュメントは読み物としての要素を持っているため、「話の流れ」、つまり文脈(コンテキスト)が存在しますが、UI には文脈がありません。そのため、この文章がいったいどういうシーンで使用されているのかが想像できないため、どのように訳せばいいのかがとりわけ困難になります。

文脈は非常に重要です。読み手だけでなく翻訳者にとっても、流れるような、リズムのある文章は、読み手の頭にスッと入っていきますが、逆に、読みにくい文章の場合にはそれがかなり難しくなります。

文脈(コンテキスト)がない分、周辺資料がより一層重要な位置を占めるのがご理解いただけるかと思います。

注意点3:ファイル形式

UI  ファイルには、様々なファイル形式があるのは上述のとおりですが、UI ストリングス内にある文字列では翻訳する必要のないものが多くあります。もっとも一般的なものとして、例のような記述がある場合、以下のように処理します。

example

この際、翻訳対象個所以外を誤って触ったり、変更してしまったりすることがあります。

これについてはツールを使用して回避するか、もしくはエクセル等に翻訳対象個所を抽出していただき、そのエクセルファイルを翻訳するという方法があります。これであれば、余計な文字列を気にすることなく翻訳作業に専念することができるためです。

まとめ

UI はソフトウェア内においてユーザとの接点となる大変重要なコンタクトポイントです。インターフェースとしての機能を果たすためには、適切な訳語である必要があります。

弊社のこれまでの経験でも、ドキュメントは翻訳してもソフトウェアはローカライズしなかったり、UI が英語のままの製品がありました。これは、下手な翻訳をするくらいなら英語のままのほうがユーザに親切だという判断です。UI をはじめとした翻訳・ローカライズ作業は確かにコストのかかるものですが、それは顧客満足度を引きあげるための必要な投資ですから、翻訳の品質をきちんと担保すべきではないでしょうか。

だからこそ今回お伝えした3つのポイントに注意していただき、納得のいく品質で翻訳し、ご利用いただければと思います。

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