そのフィードバックは大間違い?訳文の品質を向上させるためのフィードバックとは

スタッフSです。

翻訳の仕事では、お客様とのやり取りが複数回にわたることもありますが、それは訳文をお客様のご希望の形に合わせていくためであり、「お客様がご希望の訳文品質」を作ることにほかなりません。

翻訳の目的は、お客様のチェック作業が楽になり、最終的には翻訳業務をアウトソースするコストパフォーマンスが向上することでしょう。

翻訳は「手段」であって「目的」ではない

そのためにはこの一連の「フィードバック」をしっかり定義しておく必要があります。

今回は、納品後の「フィードバック」について、翻訳会社の視点とお客様の視点の両方から見ていきたいと思います。

そもそもフィードバックとは

フィードバック(FeedBack)とは、もともと制御工学で使われていた用語で、出力された結果を入力側に戻し、出力を調整することを指します。

派生して、あらゆる分野でフィードバックという言葉を使うようになりました。翻訳やローカライズにおいても、同様の意味でお客様からのご指摘やご指示というニュアンスで使用しています。

フィードバックは非常に重要なプロセスです。なぜなら、これは品質改善に直接影響するプロセスだからです。

一方、「アンケート」や「お客様の声」などがあります。作り手にとって第三者による使用感、感想といったものは製品やサービスの改善のヒントとなることが多く、あらゆる業界で「現場の声」「使用者の声」や「アンケート」などを重要視しているのは言うまでもありません。

お客様からの反応はどちらも大切なのですが、フィードバックの場合には、納品後に訳文を戻していただく時から活用することができます。

特に初めてのお取引となる場合にはとりわけフィードバックは不可欠な要素であり、フィードバックをもとにした品質改善を行うことで、次回以降の翻訳やローカライズの品質やサービスの向上に役立てることが可能になります。

つまり、「ここが悪かった」、「ここをこうした方が良いのではないか?」という点において、お客様から具体的な指示をいただければ、それらをすべて検証し、次回以降に生かすことができます。

間違ったフィードバックの方法

まずはじめに、間違ったフィードバックの具体的な例をあげてみましょう。

間違った形でフィードバックをしてしまうと、その内容によっては、かえってミスが発生する、混乱を招くなど、結果的にお客様にご迷惑をおかけしてしまうことも少なくありません。

もちろん、そういったことのないように翻訳会社側も努力していますが、どうしても確認事項が増えてしまったり、ご希望の形になるまでに時間がかかったり、またあまりご満足いただけないこともあります。

その典型的なフィードバックをご紹介します。

例1:手書きで原稿に赤入れする

翻訳会社から納品された原稿をプリントアウトし、赤ペンで修正箇所を記入した。それを翻訳会社へPDFで送った。

頻度としてはそれほど多くはないのですが、しかし未だゼロにならないのが手書きによるフィードバックです。紙の原稿のお仕事の場合、どうしても手書きになってしまいがちです。たしかに、校正やチェック作業というのは、印刷してから行う方が間違いを見つけやすかったりするのは事実ですし、修正箇所を手書きですぐに書き込めることは便利だと言えます。

しかし、実はこれをそのままPDF化してお送りいただくと、修正ミスや抜け漏れが発生しやすくなってしまうのです。

理由は3つあります。

ファイル内検索ができない

手書きの場合、ファイル内検索ができないため、似たような文章が多くあるときには、該当箇所の特定に時間がかかります。

手書きが読めない

これはなかなか申し上げにくい点ですが、修正指示が走り書きのような文字だったり、省略形で記入されていたり、修正範囲が曖昧な場合など、どこをどう直せばいいのかがハッキリしないものもあります。その場合、読めなかった箇所については再度お問い合わせすることになり、結果的にお客様にご迷惑をおかけすることも少なくありません。

修正指示をコピペではなく入力しないといけない

これもよくありますが、修正指示がデータであれば、いったんそれをコピペして確認することもできますが、入力しなければならない時にはタイプミスの可能性を発生させてしまいます。

これらは純粋に修正作業ということではなく、余計な時間がかかってしまうため、手書き原稿よりは、PDF等にコメント機能を使用してフィードバックしていただくほうがより効率的です。

例2:修正意図がわからず、充分な確認が取れない

納品された訳文(英語)を読んでいたら変更したい単語があったので、訳文を消して(上書きして)入力しなおしたファイルを翻訳会社へ送った。

お客様の社内で、英語の堪能な方やネイティブの方にチェックして頂くこともあります。当たり前の話ですが、ネイティブがチェックを行う方が精度は格段に上がりますし、修正したい単語があれば、単語を直接修正したほうが効率的です。

しかし、納品原稿を上書きしてしまうことはお勧めしておりません。

その理由は、弊社側では「なぜこの単語の方が良かったのか」、「どういう意図があって修正されているのか」が読み取れないためです。そうなると私たちが出来ることと言えば、「英語としておかしくないか」という観点でのチェックになってしまい、内容への理解は及ばないことになります。

以下の例をご覧ください。

正しい修正指示の入れ方の場合、「どんな意図をもって修正しようとしているのか」が明確なため、翻訳会社側にもその修正の妥当性が判断しやすくなります。

そうでない場合には、翻訳者は原稿から読み取れる情報や調査を行い、内容理解を深めた状態で翻訳作業を行いますが、お客様側で修正した箇所が、どのような意図で修正されたのか、どんな基準で修正されたのかが分からないと、どうしても「英語として不自然でないかどうか」という表面的な確認になりがちです。

例3:ファイルを上書きする

お客様側で上書きされたファイルをお戻しいただくと、「どの部分が修正されたのか」が分からないため、まずは場所の特定から進めなければなりません。これは非常に非効率で、例えば 100ページにわたるマニュアルの場合、100ページ分を納品時のファイルと比較しなければならないからです。

「どこを変更したのか」がはっきり分かる状態でお戻しいただく必要があります。

例4:仕様が変更になってしまう

原稿作成者とチェッカーが別で、仕様の共有が行われておらず、修正箇所が全文に及んでしまい、翻訳しなおすことになった。

チェッカーがプロジェクトの概要を理解せず(または知らずに)訳文をチェックする場合、どうしても主観性が大きく入り込んでしまいます。

仮にチェッカーから「納品された訳文が全く使えない」というコメントが入っても、実はそれには理由があったりすることも少なくありません。コスト削減のため過去の訳文を流用するような指示があったとか、また、産業翻訳の大前提である、「原文に忠実に」という作業許可を頂いていたのに、原文から大きく乖離した訳文に修正してしまったり、といったケースは枚挙にいとまがありません。

こういった事態の場合、最初の仕様の共有をするところから始まり、その上で、訳文をどう修正するのかの方針を改めてお客様と決めなくてはなりません。

プロジェクト中の仕様の変更は、品質だけでなく金額や納期に大きな影響を与えるため、極力避けるべきですが、チェッカーの方のご意向などが強い場合には修正箇所が全文に渡り、使う単語や表現などを大きく方向転換しなくてはならないため再度翻訳作業を行わざるを得なくなります。

これでは、作業時間もコストも大きく無駄になってしまいます。

翻訳では、使用用途や完成イメージを共有するということはとても重要なポイントです。例えば、日本語だけで考えてみても「見出し」と「本文」では役割が違います。

「見出し」は一目見て内容がわかる事を「本文」は情報を正確に伝える事を目的としています。

目的が違えば、言葉選びや表現が変わってくるのは当然ですが、こういった(ある種細かいことですが)仕様の変更は、訳文全体に大きな影響を与えることになりますので注意が必要です。また、これはどの言語でも共通の注意点です。

スムーズなフィードバックのための3つのポイント

ではどうすればスムーズなフィードバックができるのでしょうか。ポイントは 3つあります。

ポイント1:コメント機能を使用する

Word、Excel、PDFなどの納品したファイルには「コメント機能」または「変更履歴機能」を使い修正箇所を指摘する

正しい修正指示の方法

 

ポイント2:修正意図を記載する

修正意図(なぜ修正したいのか等)が明確にわかるように元の言語で記載いただき、その上で使いたい単語がすでにある場合は「元の言語+修正したい単語」とセットで記載する

ポイント3:仕様を共有する

複数名による作業(執筆者:日本人、チェック担当者:ネイティブスピーカーなど)になる場合は、完成イメージや目的を必ず社内でも共有する(同じ方針でチェックする)

あらかじめ決められるものはしっかりと決めておく(特にプロジェクトの根幹にかかわるもの)ことが重要です。

フィードバックはその重要要素のひとつでもありますので、以下の記事等もご覧いただき、フィードバックを送っていただく際の参考にしていただければと思います。

翻訳、ローカライズのフィードバックの重要性