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「分からない人が悪い」という傲慢

ビジネスにおける「コミュニケーション」の神髄はどこにあるかといえば、「分からない相手にも伝わるようにする」ということだろう。また一方で「分からない人には分からなくていい」「分かってくれる人だけ分かってくれればいい」という論調があるのも事実だ。

これはどちらが正しいのだろうか?果たしてどのような結論を出すべきだろうか。

ビジネスにおけるコミュニケーションの目的は何か

まず上記の問いを考える前に、ビジネスに必要なコミュニケーションは、そもそも何のために行っているのだろうか。

一般企業で考えてみれば、よく人間の体で例えられる血液とも言える利益(お金)を上げなければ長期的には存続できないし、存続できなければ、真に価値あるサービスを社会に対して提供できない。また非営利団体や公的機関であってもそれは何らかの価値のある公共サービスを提供しているわけで、それには(入口は色々あるとして)当然お金がかかる。

つまり、あらゆる組織は適正にお金を投資し、それを回収するという活動に抗うことはできない。

このルールに則る以上、自社のビジネス(という呼び方が嫌ならサービスでも価値でもいい)をきちんと買い手や利用者に説明して納得、了解の上で使用してもらわなければならない。

至極当たり前のことで繰り返しになるが「お金を儲ける」という表現よりも「適正に投資して回収し、さらに投資する」活動をし続けなければならない。

それが未来の社会への投資の源泉となるからだ。新規投資によって新しいサービスやイノベーティブなテクノロジーが生まれ、人々の生活が豊かになっていく。これは世に多く存在する企業の経営理念に(表現の違いがあれど)共通して見られることであるし、利益を出し、その中から投資に回し、社会に貢献するというサイクルは、あたかも渋沢栄一の謳う「論語と算盤」に通じるものがある。

お金が第一ではないが、お金はなければならない。そしてそのために「ビジネスコミュニケーション」があるべきだろう。

コミュニケーションが取りにくいのはなぜか

さて、誰もが一度は「この人とはコミュニケーションが取りにくいな」と感じた経験はあるだろう。これには様々な要因が考えられる。

  • 相手が理解していない/理解できない
  • テーマが共有されていない
  • テーマの定義がされていない
  • テーマのゴールが共有されていない
  • そもそも伝える気が無い
  • そもそも聞く気が無い
  • 伝え方が下手
  • 使用言語が違う
  • 手段がずれている

など多岐にわたる。これらのうちどれかひとつが邪魔をしているというよりも、現実には複数の要因が絡み合っている場合が多いだろう。

これらの要因によってミスコミュニケーションを誘発してしまい、最終的にはエラーを引き起こす。

一方、「コミュニケーションが取りやすい」と感じる時はこの逆のことが起きているはずだ。例えばこんな会話はどうだろう。

「この打ち合わせの目的は、弊社サービスの解約率を 5% から 3% に下げることです。そのためにどんな手段や改善が必要になるか、意見を出しあいたいと思います」

さらに「会議の前日までに、1人1つ以上の改善案を共有ページに投稿して下さい」と具体的にすることや「2% 改善されると、粗利率も3%ほど改善されるため、今期の予算達成に大きく前進します。それによって支給されるボーナスもアップします」といった「自分のメリット」まで明確になっていれば、さらにモチベーションは上がるかもしれない。(あくまで分かりやすい例として)

ビジネスにおけるコミュニケーションでは、具体的で明確なゴールがなくてはならないのだ。

わざと難解な用語で逃げる人たち

コミュニケーションが取りにくいと感じるときは、相手の狙いや目的が見えず、どう対処していいのかわからないケースが多いはずだ。「結局、何が言いたいのか分からない」というのは不安でしかない。

上述のような伝え方は当たり前のはずだが、まれにそうならないケースや人がいる。

それはわざと難しい言葉に言い換えたり、自分に都合のよい解釈をしたり、揚げ足をとったりする人たちだ。こういう人たちの中には、残念ながら初めからコミュニケーションをとろうとは思っていないケースもある。

また、難解な用語を使っていてもその意味が共有されていないので、相手には「何となく」の雰囲気やイメージしか伝わっていないケースさえある。

結果的に(本人が意図しなくても)知識自慢になってしまったり、(本人が意図して)煙に巻こうということもあるだろう。

本来の目的である「ビジネスをスムーズに進めていく」という部分はないがしろにされてしまう。また「分かる人だけ分かってくれればいい」というスタンスも透けて見えることもある。

本当に「分かる人にだけ分かればいい」のか

正直なところ、翻訳もその一面は否定できないし、過去に実際にそういう発言をする人がいたのも事実だ。しかしビジネスをするなら、すべての人が、自分や自社のことを完全に理解してくれるわけではないのだから、その前提でコミュニケーションをとらなくてはならないはずだ。

そういう人たちは(残念ながら)、「分かる人」を自分たちの物差しで判断、評価すること自体が傲慢だということに気づかない。

ビジネスを進めるには、他者/他社との関係は絶対に必要であり、そこを「分からないならいいです」というスタンスで仕事をすれば、間違いなく世界は狭く、小さくなる。それではせっかくの技術も専門性も限定された使い方になってしまうし、社会の役に立つという目的からもそれてしまう。「相手が分からない、分かってくれないのだから仕方ない」と嘆く声も聞こえてくるが、実は「分からない人」にも2種類あることをご存知だろうか。

  1. そのことに詳しくないが、前向きに知ろうとする人(知る意欲がある)
  2. 知らないことを笠に着て放棄をする人(知る意欲がない)

 

後者の場合には、聞き手に問題がありそういう人はいずれ周囲が気づくし、自然と離れていくのでやがて自然淘汰される。そもそもこのタイプは自分のビジネスに対してコミットしていないので、上手く行っても行かなくても構わないと考えている。

そうではなく、私たちが懸命に伝える努力をしなければならないのは、前者の人間だ。

彼らに対して「分からない人には伝わらなくていい」というスタンスをとるのはいただけない。どうやったら分かるのかを考えていかなくてはならない。

ではどうすればいいのだろうか。

相手に伝える具体的な方法

相手にこちらの意図を伝えなければならない時、いくつかの具体的な方法があるのでそれをご紹介しよう。

相手の知識、経験レベルにかみ砕いて話をする

まず初めに専門用語は使わない。これ自体が実はとても難しいのだが、「中学生がわかる言葉で」とか「できるだけ平易な単語で」という部分に相当する。

業界用語や専門用語のオンパレードは、話している方は気持ちがいいが、同レベルの知識がない場合、相手には苦痛でしかない。例えば、お医者さんが患者さんに専門用語を使ってまくし立てて説明し、「だから明日手術しましょう」と言われてもまるで納得できないのと同じことだ。

そうではなく「親指程度のデキモノがあるので、それを切除します」といった言葉に置き換えてもらった方が(その手術が正当かどうかは別として)、患者は理解しやすい。

同意が得られなければ手術ができないように、ビジネスの世界でも契約を結んでもらうことはできない。「私に任せておけば安心だからとにかくサインして」というお医者さんは、自分自身は安心でも、患者側は良く分からないので不安になるし、結果として別の先生や別の病院に移ってしまうかもしれない。

※ただし 1点注意するとすれば、かみ砕いて伝えることの弊害は、情報がそぎ落とされる可能性を孕む。そのためしっかりとした補足説明が必要になるケースもある。しかし、現時点ではそれよりも全く伝わらないという事態が良くない。ビジネスにならないからだ。

例え話をする

相手が分かる例え話をすると理解を得やすい。相手が営業職なら、彼らの日々の業務に近い例えをすべきだし、相手の業種やビジネスモデルに当てはめて伝えたりすることが有効だ。特に無形のサービスなどは「具現化」してあげると伝わりやすい。

例え話は、「相手の知っているもの」とリンクさせることが重要なので、当然相手のことを知らなければならないし、自分自身のビジネスモデルなども抽象度を高めておかなければならない。そういう意味でも初見の場合にはハードルが上がるが、ある程度相手のことが分かってくれば「○○のようなものです」というのは伝わりやすくなる。

ストーリー(物語)にする

読んで字のごとくではあるが、これは非常に有効な手段のひとつ。「プロジェクトX」が受けるのも、そこには「ストーリー」があり、共感しやすいからだ。「専門的なことは良く分からないけど、とにかく伝わってきた」ということは十分に有り得る。

数字で話す

ふわっとした、感覚を表現する言葉は沢山あるが、それらを多用すると話自体がぼんやり、ふわっとしてしまい、何だかわからないので数字を入れて話をするとグッと内容が引き締まる。例えば、部下からの報告で以下の2パターンがあるとする。

A:「今月は10件のお問い合わせがありました」

B:「今月の問い合わせは結構多かったです」

(実はどちらも同じ件数だったとしても)どちらが分かりやすいか、また報告の形をなしているかは一目瞭然だ。上司の安心感が違う。

コミュニケーションは「言語」だけではない

このように伝える手段はいくつかあるが、コミュニケーションにおいては言語だけがすべてではないということも知っておくべきだろう。

ノンバーバル コミュニケーション(Non-Verbal Communication)という言葉をご存知だろうか。これは、言語以外の部分=非言語によるコミュニケーションであり、たとえば仕草や態度、声などが相当する。いわゆるボディランゲージに近い。

商談などはノンバーバルな部分が重要なのは言うまでもない。その証拠として、身だしなみや態度、立ち居振る舞いの研修や講座が存在している。

伝えるというのは、相当に奥深いことが分かるだろう。


【コラム】

弊社の業務(翻訳や通訳)でも、「分からない人は分からないで良い」というスタンスをとるシーンを目撃するが、実はこれ自体に非常に矛盾を感じる。

何故なら翻訳や通訳というのは異なる言語間を「伝える」仕事だからだ。伝えることが目的のサービスにも関わらず、伝わらないと「分かる人だけ分かればよい」というのは本末転倒だろう。

極論だがたとえ話として、生まれたばかりの赤ちゃんに契約書の内容を伝えるのは不可能に近いが、大人同士、海外との取引であっても、ビジネスの作法や商習慣に多少の違いはあれど正確に翻訳すること、必要であれば申し送りをつけたり(クライアント側で)補足説明やたとえ話を含めたりということはできる。

それによって文意が伝わり、ビジネスが推進されることが大切なはずなので、「分からない人が悪い」では仕事が進まなくなってしまう。

翻訳は「手段」であって「目的」ではない

 

コミュニケーションの根底にあるもの

これはビジネスに限った話ではないかもしれないが、コミュニケーションで最も重要なのは「共感」だといわれる。例えば、犬や猫などのペットと話がしてみたいと思ったり、海外旅行にポケトークを持っていくのも、多くの SNS の存在もすべて人間同士、人間と動物、人間とAI などの「つながり」、そして「共感」を得るためだといえる。

コミュニケーションに「共感」があるからこそ、その「関係性」自体が自身の人生を豊かにしてくれる。それはビジネスでも同様だろう。社会に役に立つサービスや商品はひとりでは作れないのだから。

だからこそ、「分からないのが悪い」「分かる人だけ分かればいい」となるのではなく、「共感」を得るべくコミュニケーションに対して努力しなければならないのだろう。