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マーケティング担当者に必須の「マーケティング翻訳」とは

近年、翻訳業界の大きなトレンドとして、「マーケティング翻訳」や「クリエイティブ翻訳」と呼ばれるサービスがあります。

今回はこれらについて解説します。

「マーケティング翻訳」とは何か

まず初めに「マーケティング翻訳」という言葉の定義をする必要があります。

マーケティング翻訳とは、企業の Web サイトや SNS、パンフレットやカタログ、プレゼン資料などのマーケティングドキュメント類についての翻訳のことです。

これらのドキュメントは、概してメッセージ性が高く、読み手を強く意識したものと言えるため、それに適した翻訳をする必要があります。

マーケティング翻訳の目的

実は、「マーケティング翻訳」自体は昔から存在していましたが、ここ数年、急激にニーズが高まってきました。その理由として考えられるのは、「クライアントが要求する訳文レベルが徐々に高くなってきたから」と言えるでしょう。

またコロナウィルスの蔓延により、DX に代表されるようなあらゆるビジネスでのデジタルシフトやオンライン化が加速しています。そのためユーザに「読んでもらえるコンテンツ」を提供しなければならないという強いニーズが多くなっていると考えられます。

一例として、Web サイトの翻訳を行う場合には、Google の検索結果で上位表示させるために、様々な観点から質の高い文章を作らなければなりません。

なぜならその検索結果が直接集客に結びつき、ビジネスの業績に反映されるからです。

またホワイトペーパーや導入事例などは Web サイトから申し込みを受け付け良質のリードをとるためのツールですが、その目的達成のためには、まず第一に読み手の役に立つコンテンツと、それを実現するための訳文の読みやすさが重要視されるようになりました。

このように企業活動の中で利益の最大化を図るための要素のひとつとして、「マーケティング翻訳」というものが注目されるようになってきました。

仮に英語から日本語の翻訳の場合、これまでの「原文に忠実に翻訳する」という産業翻訳のルールから離れ、「より魅力的な文章(日本語)として翻訳する」という部分が大きな比重を占めるようになります。

繰り返しになりますが、これらが求められる理由としては、企業が提供するサービスや、製品などのアピールをするため、集客のためです。では実際にマーケティング翻訳のポイントを説明します。

マーケティング翻訳は大きく2つに分けられる

マーケティング翻訳は、大きく2つに分けることができます。

1. タイトルや見出しの翻訳

文字通り、タイトルや見出しの翻訳ですが、短い文章のため言葉の選定が非常に難しくなります。

なぜなら、原文が制作されるプロセスにおいて非常に多くの背景情報や目的設定、ストーリーがあるはずでそれらをすべて包括してベストと思われる言葉を選択し、作られているため、当然のごとく翻訳する際にもそれと同じプロセスを理解して訳文を作らなくてはなりません。原文の表面的な部分だけを捕まえて翻訳したところで、薄っぺらな訳文になってしまいます。背景情報の理解が大切になります。「どんな意図でこのタイトルになっているのか」「なぜこの単語を選択したのか」などを把握して翻訳します。

2. コンテンツの翻訳

タイトルや見出しのあとにくる本文の翻訳では、正確で読みやすく、そして読者にしっかりと意図が伝わる文章でなければなりません。

例えば「間違ってないから問題ないでしょう」というスタンスで訳文を作ってしまうと、それはマーケティング翻訳とは呼べません。「誤解の生まれない表現」だけでなく「魅力的な表現」も必要となります。

マーケティング翻訳をしないと Web は効果が出ない

この2つのタイプの翻訳が求められる具体的な例としては、Web サイトの翻訳が挙げられます。前述のように、仮に翻訳でなくとも、Google の検察結果で上位表示される文章というのはどれも非常に読みやすく、また役に立つ内容になっているのはご存知でしょう。

「検索結果画面で惹きつけられるタイトルで、meta description 部分で内容が簡潔に書いてある」という状況があれば、ユーザはクリックして読もうと思います。

繰り返しになりますが、そういった点で「Web サイトをどう翻訳するのか?」というのは、企業の戦略上、非常に重要な部分を占めていると言えますし、これからもその比重はますます大きくなります。

「翻訳」という範疇の中での創造性

しかし「翻訳」という範囲でどこまでクリエイティブに訴求力のある訳文を作るのか、原文から離れる必要がある場合、どこまで離れても許されるのか、といった線引きはかなり難易度が高いテーマです。実際、翻訳業界の中でも「これは普通の翻訳だ」「これはマーケティング翻訳ではない」という明確な線引きがあるわけではありません。

そもそも言葉は生き物であること、読者の背景知識や文化、価値観、習慣など様々な要素によって、同じ文章で評価が割れてしまうことは往々にして起きるからです。

原文を横に置かないと理解できない訳文は、あまりにも逐語訳的なのかもしれませんし、とはいえ「そんな所まで言い切っていいのか」という訳文では、原文の意図を本当に踏襲しているのか分からないということもあるでしょう。

この線引き、さじ加減のバランスを取りながら、クリエイティブに翻訳することでマーケティング向けの翻訳が生まれるのです。こう考えていくと言語の曖昧さの残る範疇の中でマーケティング翻訳を行う難しさというのが想像しやすいかと思います。

クリエイティブ翻訳との違い

「マーケティング翻訳」と似た言葉に「クリエイティブ翻訳」という言葉がありますが、ほぼ同義語です。翻訳業界では「クリエイティブ翻訳」「TransCreation」で通じます。

ちなみに、弊社では「マーケティング翻訳」を以下のように定義しています。

読み物など広告系の原文の翻訳の際に、原文にとらわれず、魅力的な訴求力の強い訳文を訳出すること

としています。弊社ではコンテンツ向けのマーケティング翻訳と Twitter や Facebook などの SNS 向けのマーケティング翻訳を多く手掛けています。

コンテンツ向けクリエイティブ翻訳プラン

 

SNS 向けクリエイティブ翻訳プラン

従来の翻訳との違い

お客様からはマーケティング翻訳は従来の翻訳とはどう違うのか、という質問を受けることもありますが、一言でいえば「翻訳以上、ライティング未満」と言えるでしょう。

これは以下の図で説明することができます。

 

この図は、弊社のクリエイティブ翻訳プランのページで使用しているものですが、これまでの翻訳は、ドキュメントの種類によって多少の訳し方の違いはあれ、基本的に「原文に忠実に翻訳する」ことが重要視されていました。

※以下の「翻訳ドキュメントマップ」ではドキュメントによって訳し方が違う(求められる方向性が違う)という点を可視化したものです。

翻訳ドキュメントマップ

このように、従来の翻訳とマーケティング翻訳の違いはどこまで表現するか=どこまでの訴求力を持たせるかという点でしょう。

翻訳業界の 4つの勢力

このように、マーケティング翻訳やクリエイティブ翻訳は、従来の翻訳とは違う訳ですが、冒頭のようにあらゆるビジネスがオンラインへシフトしているように、これらを取り巻く業界構造そのものが大きく変化していることも原因の一つと言えます。

また、DeepL のような機械翻訳サービスの台頭により「簡単な翻訳は AI や機械翻訳に取って代わる。人間にしかできない翻訳とは何か」という点も関係しているでしょう。

現在、様々なプレイヤーによって翻訳業界は変革の中にありますが、どうして変革しているのかは、「お客様のニーズの変化が起きたため、翻訳会社が変化に対応する」というのが本質だと言えます。

以下のページでは、その業界を占める4つの勢力について記載しています。

翻訳の功と罪

機械翻訳との違い

一方で、機械翻訳技術も発達してきました。ニューラルネットワークを活用した Google 翻訳の精度が飛躍的に向上したのは記憶に新しいでしょう。

現在も機械翻訳は日々進化を遂げていますが、読み物としてのドキュメントの場合には、まだ改善の余地がありそうです。ただ最近では、「機械翻訳+ポストエディット」という組み合わせのサービスが認知され始め多くの企業での活用が始まっています。

機械翻訳の問題点を解決するポストエディットとは

現状、機械翻訳自体は原文の意味を理解しているわけではないので、この部分では、まだ翻訳者の優位性は変わらないと言えますし、マーケティング翻訳との違いは明確になるでしょう。「文章の質」を細分化していくことで、いずれは棲み分けがなされる可能性もあります。

翻訳支援ツールとの相性は

機械翻訳や自動翻訳に似た概念として「翻訳支援ツール(CAT)」があります。翻訳支援ツールは、あくまで「翻訳者がメインであり翻訳作業をサポートする」という立ち位置です。

Translation Memory というデータベースを構築し、精度を高めていくわけです。

TM の精度について

基本コンセプトは、「n対n」で原文と訳文をペアにしてデータベースに格納していくわけですが、マーケティング翻訳との相性という点から考えると、ツールの使用自体がなかなか難しいケースもあると言えます。

それは何故でしょうか?これは原稿のバージョンアップのケースを考えるとイメージしやすいかもしれません。

データベースに格納された訳文は、センテンスで保管されます。最初に翻訳した際にはその訳し方で問題なかったとしても、ドキュメントが変更になったときに、果たして「データベース内の訳文をそのまま使えるのか」という疑問が残ります。

例えば「you」という単語ひとつとっても、最初は「あなた」で良かった場合でも、文脈によっては「お前」と訳さないといけないかもしれません。

これは結局のところ、マーケティング翻訳ではデータベースよりも「文脈(コンテクスト)」や「リズム」がより重視されるためです。

ところがデータベース優先になれば、登録されているぎこちない「あなた」を使うことになります。結果として読み手は「読みにくい文章」と感じるわけです。

ツールを使えば再利用率は高くなるかもしれませんが、マーケティング翻訳やクリエイティブ翻訳には向いていないと言えます(弊社もマーケティングマテリアルでのツール使用は限定的です)

※読みやすさなどは二の次で徹底的にコストを抑えるという目的の場合には、ツールの使用は目的に適っていると言えます。

コピーライトやライティングをすればいい?

マーケティング翻訳やクリエイティブ翻訳をご紹介すると、「通常の翻訳とも違う、機械翻訳とも違う、翻訳支援ツールも使わないのは理解したが、結局翻訳は変わらないのだからそれならライティングの方がいいのではないか?」というご質問をいただくこともあります。

このご質問への回答としては「その通りです」とお伝えしています。

プロのライターによる取材を重ね、サービスや商品への理解度を深め、訴求力のあるワードを選び構成していくという点では、圧倒的にライターに軍配が上がります。

そしてそれは当たり前の話であり、むしろそうでなくてはならないとも言えます。

弊社でご提供するマーケティング翻訳は「翻訳以上、ライティング未満」であることは前述の通りであり、あくまで「翻訳」の範疇で行われるものです。

一方でライティングには「原文」の制約はありません。つまり誤解を恐れずに言えば自由度が非常に高いわけです。(もちろん、完全に自由な仕事はありませんが)

その代わり、かかるコストは翻訳とは比べ物にならない位大きくなるでしょう。

つまり、ライティングとマーケティング翻訳では、作業範囲や内容が異なるため比較自体に意味がありません。マーケティング翻訳で大切なのは「コストもできるだけ抑えつつ、できるだけ魅力的な文章を作りたい」というお客様のためのサービスだということです。

文書の読みやすさコスト
機械翻訳
翻訳支援ツール
マーケティング翻訳
クリエイティブ翻訳
ライティング×

世の中のグローバル化が進み、今後翻訳市場は大きくなると言われていますが、これは言い換えれば、翻訳をするドキュメントが増えているということです。しかしそのすべてにライティングをすることは現実的に難しいでしょう。

となれば、「できるだけライティングに近い形で翻訳したい」というニーズが高まるのは自然な流れです。

まとめ

いかがでしょうか。最後に簡単にまとめると以下のようになります。自社に合った形で翻訳サービスを利用するようにしましょう。

  • マーケティング翻訳の目的は、読み手にしっかり伝わる訳文を作ること(ツールやシステムはその次)
  • マーケティング翻訳の定義は「翻訳以上、ライティング未満」であること
  • 機械翻訳も、翻訳支援ツールも、ライティングもすべて使用目的によって変えるべき

マーケティング翻訳やその他の翻訳、通訳サービスについてはお気軽にお問い合わせください。


バックトランスレーション(逆翻訳)のメリットとデメリット

機械翻訳、ポストエディット、翻訳支援ツール、多くの MLV(マルチランゲージベンダー)やクラウド翻訳など、翻訳サービスには様々な形態が存在します。

翻訳の功と罪

 

そんな中、「バックトランスレーション」という手法があるのはあまり知られていません。日本語にすると「逆翻訳」と呼ばれます。(これに対し、通常の翻訳を「順翻訳」と呼ぶこともあります)

この「バックトランスレーション」というものは、いったいどういうものなのか、そしてメリット、デメリットや利用する際の判断基準について解説します。

バックトランスレーションとは何か

バックトランスレーションは、上述のように「逆翻訳」と言われますが、具体的には一度翻訳したものを使って、元の言語に翻訳しなおす作業のことを指します。

例えば、日本語から英語に翻訳する際、その訳文(英語)が原文(日本語)の意味をきちんととらえて翻訳されているかどうかを検証するために、訳文(英語)を日本語に翻訳します。

この訳文(英語)から原文(日本語)への翻訳プロセスをバックトランスレーションと言います。

バックトランスレーションの意味と目的

バックトランスレーションの意味や意義、その目的は何なのかを知っておく必要があります。この手法自体、翻訳プロジェクト、ローカライズプロジェクトの中でどういう位置づけのものかを把握する必要があります。

バックトランスレーションの目的は 3つほど挙げられます。

  • 訳文の正確性を確認するため
  • ターゲット言語が分からない場合のチェックやレビューのため
  • 翻訳としての妥当性、好みなどの恣意的なものかの見極めを行うため

それぞれ解説します。

バックトランスレーションの目的①:翻訳の正確性

翻訳の正確性を確認するためにバックトランスレーションを行うというのは、どういう意味でしょうか。これはつまり「日本語の単語が正しい英単語に置き換わっているか」という確認です。

また、(あえて挙げるなら)文法的にも「主語+目的語+述語」という日本語ならば、「主語+述語+目的語」という文法構造で英語が成立しているかどうかということでしょう。

バックトランスレーションの目的②:ターゲット言語でのチェックができない

例えば、日本語から中国語へ翻訳したケースがあるとします。発注した企業は、これを使ってビジネスを展開する訳ですが、翻訳会社から納品された中国語の訳文のチェックが社内で行うことができない場合、一度日本語に逆翻訳して、きちんと翻訳されているかどうかを確認するために使用されます。

バックトランスレーションの目的③:訳文の妥当性や好みなどの恣意性の見極め

①と重複しますが、こういう目的でバックトランスレーションを行うケースもあります。納品された訳文が妥当なものであるかということを検証しようとするわけですが、文章には「好み」があります。実際のところ、これらはバックトランスレーションをしても確認することはできません。あくまで翻訳後の言語の文章として好きか嫌いかという話だからです。

このように、一言でいえば、訳文としての「違和感」があるかどうかということを、バックトランスレーションによって見極めようとしているわけです。

しかし、残念ながらこれらはあまりうまく行きません。

バックトランスレーションのメリットとデメリット

ではなぜうまく行かないのでしょうか?

実は、厳密にはすべてがうまく行かないのではなく、上手く行くものとそうでないものが混在すると言えます。

バックトランスレーションのメリット

上述のように、様々な目的をもってバックトランスレーションを行う訳ですが、この中で上手く行くのは論文など専門性の高いドキュメントに限定されるでしょう。

「A という単語が B という訳語に正確に翻訳されているのか」を確認するために行なうためのバックトランスレーションは有効だと言えます。

バックトランスレーションのデメリット

しかし「ちゃんと翻訳されているかどうか」といった、(どちらかというと)表現力をお求めになる場合には、バックトランスレーションは不向きでしょう。Web サイトやプレスリリース等をバックトランスレーションしたところで恐らくほとんど意味はありません。

仮に、日本語→英語→日本語 というプロセスを辿った場合でも、実際に使用するのは英語であって、英語として自然なものか、意味が通る訳文かどうかを判断できないと意味がありません。

「日本語では大丈夫だった」という事実は、イコール「英語として大丈夫」ということにはならないからです。

また、言語によってもバックトランスレーション自体が意味を成さないケースもあります。韓国語のような表音文字などは、その文字自体に意味を持っていないため、バックトランスレーションをしてもほとんど意味がありません。

そういった点からも、第一義的には翻訳後の言語がターゲット言語なのですから、そのターゲット言語として訳文を評価、検証すべきでしょう。

バックトランスレーション使用時の注意点

これまで述べてきたように、バックトランスレーションの使い方は限定的とはいえ、その判断基準を持って行うことである一定の結果を得ることができます。その基準とは、「効果の出るドキュメントと効果の出ないドキュメントを理解する」ことです。

例えば、論文や特許書類など、単語の正確性が極端に求められる場合には、バックトランスレーションは有効です。決まった用語を使用なければ、ドキュメントの正確性が問われてしまうような場合などは、バックトランスレーションを使用することができます。

そういった基準を持たずに、どんなドキュメントでもバックトランスレーションをすることは、現場の混乱を招くばかりか、今後は「バックトランスレーションをしてもクレームにならない訳文を作る」ことが目的となり、逐語訳や直訳的な文章が増えてしまうかもしれません。その訳文が使われる場所や、対象読者のことが置いてけぼりになれば、伝えたいことも伝わりません。

まとめ

これまで述べてきましたが、バックトランスレーション自体を否定するものではありません。しかし、残念ながら限定的な使い方しかできないのもまた事実です。

そしてもしビジネスにおいて「正確な訳文を」「伝わる訳文を」と考えるのであれば、バックトランスレーションの前に以下の点に注意することがより有効だと思われます。

・バックトランスレーションする時間を取るより、その時間をしっかり最初の翻訳作業にあてる

・品質を気にするなら専門用語集やスタイル、事前のトレーニング、研修などを開催する

用語集構築・運用

・翻訳後にネイティブチェックのプロセスを増やす

定額ネイティブチェックプラン

いかがでしょうか。

バックトランスレーションを行う際には、これらの点を含めて正しい判断基準をもって行うようにしましょう。


翻訳は「手段」であって「目的」ではない

弊社は主に「コミュニケーションサービス」を提供している企業ですが、そのうち、翻訳や通訳といった言語サービスを中心にご提供を行っています。

お客様からサービス提供への対価をいただきながら、経済活動を行っていますが、時折、そこに該当しないケースがあります。より大きな目的(弊社の場合には経営理念の実現)の場合であれば、該当しなくても(長期的には整合性が取られるため)問題ありませんが、以前にはそうでないケースも散見されました。

このあたりはもしかしたら業界構造や業界の変化にも関連しているかもしれません。

翻訳の功と罪

今回はビジネスでついつい「勘違い」してしまいがちな点について考察します。

陥りやすい「手段の目的化」

今はもうほとんどありませんが、以前に多かったのは「手段の目的化」です。翻訳や通訳サービスは、それを利用するクライアントのビジネスコミュニケーションをスムースにするためのツールのひとつであるべきで、それ自体が目的になってしまうのは本末転倒です。

具体的には、翻訳者の作る訳文がクライアントが求めるものとずれ、クレームになる場合などを指します。プロの翻訳者が行なう翻訳作業なのですから、ある一定の精度があるはずです。にもかかわらず、どうしてクレームになるのでしょうか?

考えられる原因はいくつかあります。

  1. 翻訳者の実力不足(一定の精度が無い訳文だった)
  2. 翻訳会社のヒアリング不足(営業窓口の力不足)、不適切なアサイン(人には向き不向きがある)
  3. クライアントが翻訳以上のものを求めている
  4. クライアントの好み(恣意的なもの)
  5. 納期等のその他の条件

 

これ以外でも、できない原因はあげればキリがないので、このあたりにしておきますが、いずれにしても様々な原因でクライアント期待とは違うものが納品されてくればクレームになる場合があります。

つまり、上記のような点が「ずれているから」起きてしまうトラブルやクレームが一定数存在します。

いったい何のために翻訳するのか?通訳するのか?

手段を目的化しないために、最初から最後までブレてはいけないのは、この翻訳、通訳の目的は何か?いったい何のためにクライアントは翻訳や通訳を利用するのか?ということです。

これは翻訳会社としてもしっかりヒアリングしなければならない部分ですし、それをコーディネーターから的確に翻訳者に伝えなければならない点です。

逆に、それをしっかりと汲み取って訳文を作ったり、通訳していくことができれば、理論上は大きな齟齬というのは出ないはずです。

※特に通訳の場合には、現場での対応になり、クライアントの担当者と直接打ち合わせができることも多いため、本来の目的を確認しやすいと言えます。

どの企業も、どの業界でも共通しているのは、ビジネスのコミュニケーションをスムースにして期待する成果を得ることであり、それを達成するために私たちは翻訳や通訳サービスを提供することで何ができるのか?ということです。

これを見失ってしまうと、クライアントの期待する翻訳や通訳サービスにはなりません。誤解を恐れず言えば、「作り手の独りよがりのサービス」になってしまうのです。

翻訳や通訳というサービスは、限りなく商品に近いところにあるために、ついつい勘違いしてしまいそうですが、残念ながらそれ自体は目的にはなりません。もし「翻訳すること」自体が目的であれば、それはビジネスではなく、ボランティアや趣味、また自分自身の勉強のためであることがほとんどではないでしょうか。(ちなみに、これらが悪いということではなく、ビジネスコミュニケーションサービスとして提供する以上はクライアントがいるわけですから、その要望も汲み取っていかなくてはならないということです)

これは英会話なども同様です。英語と言うツールを使って、仕事をスムースに進めることが重要な目的であって「英語が話せます」という話ではありません。実際の現場では、TOEIC の点数が非常に高くても、ビジネスの基礎がない人は活躍することできないのは何も英語に限った話ではありませんので、細かく説明するまでもないでしょう。

エグゼクティブ専門英会話 [Be Confident]

翻訳という仕事をしていると、どうしても TOEIC が高得点でなければならないといった類のことを言われることも多いですが、実態はそうではありません。「翻訳力」とでも言うべき能力はまったく定義が異なります。

 

「翻訳力」とは何か

 

「お客様に喜んでもらう」ことがひとつのバロメーター

仕事にはどれも相手(お客様)がいます。その「お客様のために価値を提供する」ことが重要なのであり、結果として収入や報酬があるのです。

クライアントが困っていることに対し、自ら蓄積してきた能力や経験で解決することが重要です。大ざっぱに言ってしまえば、人の役に立つことです。お客様の役に立つことを本気で考えれば、自ずととるべき行動は定まってくるでしょう。それは自己満足でも自慢でもないはずです。手段が目的化されている場合には、「自分がやったから結果が出たんだ」となりがちなので要注意です。

それよりも全力を尽くし、その結果としてお客様から感謝されるほうが自分が持つ能力が誰かの役に立てたと思えるのではないでしょうか。こういう真摯な気持ちで仕事に向き合ったとき、人はさらなる成長をすることができます。

翻訳も通訳も「お医者さん」と同じ

翻訳も通訳も様々なテクニックや最新のツールやテクノロジーがあります。ドキュメントによって訳し方が違ったり、分野によっても扱うドキュメントは様々です。

しかしそれ以前のスタンスの問題として自覚しておかないといけないことがあります。

それは、プロフェッショナルとしての翻訳者や通訳者は、その高い専門性や高い言語能力を駆使して、お客様の困りごとを解決できるということです。いわば「お医者さん」と同じように正しい診断を行い、治療法を提案していくこと、また専門性が高ければ、ブラックボックス化せず、インフォームドコンセントを行い、クライアントが満足する治療を受けることができるのです。

この正しい心構えを持ち、最新のテクノロジーを駆使し、自らの能力を最大限発揮することができれば、クライアントの悩み(顕在的/潜在的)を解決することができるのです。


登録翻訳者の人数が多ければ良い翻訳会社なのか

お客様から時折、以下のようなお話をお伺いします。

「A 社さんは、翻訳者が1万人もいるんだって」

「B 社さんは、全部で翻訳者 5万人もいるって書いてあるよ」

このようなお話をお聞きするたびに、毎回ご説明を差し上げておりますが、今回はこのテーマについて考えてみたいと思います。

多くの翻訳会社がフリーランス翻訳者の登録で成り立っている

まずはじめに、多くの翻訳会社は、フリーランス翻訳者を登録することによって実際の翻訳作業を賄っています。稀に社内翻訳者を抱えることで、社内で翻訳作業を行なっているケースもあります。彼らは「インハウストランスレーター」と呼ばれたりもします。

翻訳会社から見た場合、社外の登録翻訳者のコントロール、いわゆる「リソースマネジメント」がとても重要になります。

これは翻訳業界だけではなく、制作会社ならフリーのエンジニアやデザイナー、出版社ならライターといった職種と共通事項がありますので、何も特別なことではありません。

繰り返しになりますが、このように、多くの翻訳会社はフリーランスの翻訳者に登録してもらうことによって、クライアントから依頼された実際の翻訳作業をこなすことができます。

また翻訳業界全体や翻訳会社の基本的な機能については以下の記事をご覧ください。

翻訳業界と翻訳会社

フリーランス翻訳者として必要なもの

さて、今度は翻訳者の立場から考えてみましょう。

「フリーランスとして生きていく」という選択をした場合、翻訳作業だけでなく翻訳会社への営業やマーケティングも必要です。またコスト管理も外せません。確定申告なども年に1回発生しますから、経費精算など日々の地味な作業も発生します。

また「自分」を商品として考えた時に、「誰に対して、いくらで、何を、どのくらい売るのか」ということを様々な角度から検証していかなくてはなりません。

これも翻訳者だけが特別なのではなく、フリーランス全般に言えることなので、特に珍しいことではありません。むしろ誰もが理解していることです。(理解していなければフリーランスは向かないでしょう)

これらは自分を1つの「会社」として考えれば、すべて必要なことです。そしてこの「責任」があるからこそ、それと同等の「自由」があると言えます。

フリーランス翻訳者は 1社のみ取引をするのか、複数社との取引なのか

この自由と責任が一体となっているフリーランスですが、本テーマに沿って考えていくと、フリーランス翻訳者にとっては特定の翻訳会社とだけ付き合っていく方がいいのか、もしくは複数社と付き合っていけばいいのかという疑問が浮上します。

こちらは、正解はありません。

なぜなら個々人のフリーランスとしての矜持や価値観、フリーランスとしてのそれぞれの戦略、方向性によって答えは変わってくるためです。結局のところ、自分が思うようにやるしかないのであり、そこにも自由と責任があります。

しかしながら、一般論として論じるのであれば、複数の翻訳会社と取引や口座を持っておく方が毎月の売上(収入)のリスクヘッジにはなります。逆に、年間契約のように1社専属で取引ができる状態で、かつそれがずっと継続する保証があるなら、登録するのは1社だけで問題ありません。

とはいえ、万物は流転します。この世に変化がないものはありません。企業は生き物である以上、必ず良い時も悪い時もあります。そう捉えた時には、やはり複数の翻訳会社に登録しておくことで、A 社から仕事がないときには、B社でフォローするというのは通常の考え方ではないかと思われます。

※ここでは「フリーランス翻訳者としてどう振る舞うのか」がテーマではないので詳細は割愛します。

つまりここから分かることは、(一般的に)フリーランス翻訳者は複数の翻訳会社と取引をしている実態が間違いなく存在するということです。

もし「登録翻訳者 100万人」と「登録翻訳者 100人」という翻訳会社があるとすれば、どちらが良い翻訳会社なのか?

さて、この事実を直視し、冒頭のフレーズに戻ります。

例えば、これは極端な例ですが「弊社は翻訳者が100万人います」と言うのと、「弊社は翻訳者が100人います」という言葉では、実際の業務にどのくらいの違いがあるのでしょうか?

そして、一体どちらが良い翻訳会社なのでしょうか?

もちろん単純に「数」という点で考えれば、100万人の登録翻訳者がいる翻訳会社の方が良いのでしょう。ただこれは完全に片手落ちの状態です。

なぜなら「100万人の翻訳者に常時仕事を発注しているわけではない」からです。100万人のうち、その案件に見合った人、クライアントの指名の人、継続案件の人など、仕事にも様々な状態があるからです。

仮に、まんべんなく100万人分の仕事を継続して発注できる/しているという翻訳会社があるとすれば、それはかなり優秀だと言えますし、もしかしたら、そういう会社も世界を見渡せばあるのかもしれません。

とはいえ、翻訳産業は 100% 受注産業です。そのため、まず初めにニーズが発生しなければ、翻訳の仕事のオーダーはありません。ということは、クライアントの市場規模や趨勢、世の中の流れなどによって常に翻訳ニーズは変動しているということです。多い時もあれば少ない時もあるはずです。

これを裏付けるものとして、「登録はしたけれど、仕事の連絡はない」ということもあるでしょう。しかし実は、これは「翻訳会社とフリーランス翻訳者」だけでなく「1次翻訳会社と下請の翻訳会社」という関係でも同じことが起きています。

大元の翻訳会社からすれば、「(受注産業なので)いつ大型案件が発生するか分からない。だから翻訳会社の登録だけ増やして済ませておきたい」という判断でしょう。ビジネスとしては当然のことです。

そしてこの構図がフリーランスの翻訳者に対してもあてはまるのは何ら不思議ではありません。

また、どんな仕事でも同じですが、同じやり方で何年も仕事を続けられるような甘い世界はありません。常に改善し効率を上げていかなければならないのです。職人の世界でさえ、いえ、職人の世界だからこそ、外側からは目に見えない小さな変化や改善を加えているのです。

逆に言えば、これら大小の変化がテクノロジーの発展やイノベーションを支えているわけであり、より良い世界の実現へ向かう原動力とも言えます。

翻訳業界でいえば、AI を代表とする機械翻訳、MLV などのグローバル企業の参入など驚くほどのスピードで様々なビジネスモデルとテクノロジーが参入しています。

※様々な参入者、そして今後翻訳サービスはどうなるのかについて以下の記事をご覧ください。

翻訳の功と罪

マクロ的視点でもミクロ的な視点でも、変化は常に起きています。それを忘れてはなりません。

こう考えていくと、本当の意味で、「100万人の登録翻訳者のいる翻訳会社」と「100人の登録翻訳者のいる翻訳会社」とではどちらが良い翻訳会社なのでしょうか?

一概に、100万人のフリーランス翻訳者がいる会社とは言い切れなくなってくるのではないでしょうか。

結局、身の丈に合ったビジネスしかできない

そうなると、大切なのは登録人数ではありません。

発注側として、もし人数で判断しなければならないのであれば、登録されている翻訳者のうち「週ごと、月ごとなどでどのくらいの人数が実際に稼働しているのか」を確認したほうがよいでしょう。

これは翻訳会社側としての方針となりますが、結局、どれだけ大きく見せようとしても、実態がかい離してしまうとあまり説得力が無くなってしまうわけで、身の丈に合った形で、少しずつでもきちんと登録翻訳者を増やし、得意分野を伸ばしていくしかありません。そしてそれはとても地道ですが、一番の近道であると言えるでしょう。

もちろん現在大手と呼ばれる翻訳会社は、こういうプロセスをコツコツと大胆に進めてきたからこそ、今の形になっていると推測しますし、翻って弊社も見習っていかなくてはなりません。

まとめ

いかがでしょうか。実際のところ、どの産業でも戦略上、数で勝負しなければならないステージは存在しますし、ある一定の数を超えていなければ、勝負にすらならない(土俵に上がることもできない)という事実も一方であります。

また「沢山いる/あることはイイことだ」という、ある種の固定概念に縛られてしまっているケースもあります。「どんなに実力があっても数人ではこなせない」という仕事もあるでしょう。ですから、すべてがこうだとは言いにくいのですが、今回のテーマに限っては、翻訳会社が単純に「数」だけを全面に押し出してくるケースがあること、また発注側としてはそれをそのまま真に受けてしまうことにはリスクが伴うということです。

「質と量のバランス」こそが最も大切なのだと言えるでしょう。

Podcast「プロフェッショナル翻訳者への道」

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フリーランス翻訳者として、また翻訳者にこれからなりたいという方のための番組で毎回様々な切り口でお届けしております。ご興味がございましたらぜひご登録ください。


「旅の恥はかき捨て」だが「受け入れ側の恥はずっと残る」という話

インバウンドの伸びに伴い、様々なトラブルも増えている

年々、インバウンド需要が高まる中、同時に様々な課題や問題も起きています。

例えば、以下のようなものが挙げられます。

忍び寄るオーバーツーリズム 日本も危機に?

https://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2018_1017.html

「観光公害」とは何か?京都の夜桜ライトアップ中止に見る実際の観光公害事例

https://honichi.com/news/2017/06/21/kankokogai/

新たな観光公害 訪日客の「医療費未払い問題」…解決策はあるのか?

https://honichi.com/news/2017/08/21/medicalexpensesunpaid/

観光庁 温泉などの入浴施設にタトゥー・入れ墨を入れた訪日客への対応改善を促進も、日本人一般客は半数が入れ墨NO!

https://honichi.com/news/2016/08/16/kankochoonsennadonony/

訪日香港人観光客が好む移動手段:レンタカー利用者が多い反面、事故などのトラブルも多発

https://honichi.com/news/2016/05/27/honichihonkonjinkanko/

これらは、外国人観光客側への十分な説明が不足していたり、外国人観光客側のマナーの違いとそれぞれのギャップによるものだったりしますが、外国人観光客数が増えれば増えるほど、今後もこういった何らかのトラブルや問題は起きると言えます。

「観光立国」を目指していく以上はこれらのトラブルへの対応や事前の対策もさらに徹底していく必要があります。

そもそも旅行というのは「非日常」であるわけで、普段経験できない事やモノを見たり、聞いたり、触れたり感じたりしたいわけです。日本の伝統や文化などに触れたり、日本でしかできない体験などを求めています。

「旅の恥はかき捨て」という言葉もありますが、誰しも気持ちが解放的になるのは仕方がないことでしょう。また「非日常」の世界に移動するわけですから、文化的な背景や知識を持っている観光客の方が珍しいという前提で考えるが妥当です。

これは外国人だからというわけではなく、旅行する人なら誰でも当てはまることです。

しかし、一方で「かき捨て」ることができないのが、受け入れ側の問題です。受け入れ側として上記のようなトラブルや問題を起こさないために、何ができるのでしょうか。

【解決法:1】まずは外国人観光客が困っていることをきちんと解決する

受け入れ側が真っ先に行うことは、どこにでも載っていますが「外国人観光客が困っていること」を順番に解決することです。

観光庁:受入環境について訪日外国人旅行者にアンケート調査を行いました

http://www.mlit.go.jp/kankocho/news08_000233.html

こちらのアンケート結果にもありますが、Wifi 問題は解決の方向に向かっています。

しかし一方で「コミュニケーション」はあまり改善しているとは言い難い状況です。特に「飲食や小売店」でのコミュニケーションです。

具体的には、以下のように「スタッフとのコミュニケーション」と「多言語表示」に分けることができます。

旅行の場面ごとの多言語表示・コミュニケーションの課題が明らかになりました ~多言語表示・コミュニケーションの受入環境について訪日外国人旅行者にアンケート調査を実施~

http://www.mlit.go.jp/kankocho/news08_000239.html

※弊社サイトでも接客英会話について記載しております。

これさえ覚えれば大丈夫!外国人観光客向け 接客英会話 22フレーズ(飲食店編)

コミュニケーションをどうやって円滑にするのか

アンケートを見てもわかるように、言語の違いはあっても、結局はコミュニケーションの問題ですので、本質をしっかり抑える必要があります。

「コミュニケーションの本質は何か」と言えば、それは「思いやる心」「慮る心」「姿勢」です。

受け入れ側として、まずは「外国人観光客が困っているコミュニケーションを改善する」ことに腐心しなくてはなりません。

「とにかくメニューを多言語化し、注文はタッチパネルで」というのは理解できますが、それ以上に相手の状況を理解したり声をかけるという部分は人間にしかできない部分です。

「ハードとソフトの組み合わせ、そしてバランス」という点は今回のテーマとは異なりますので、割愛しますが、外国人観光客がコミュニケーションが取れないと感じるのは、何も「注文がスムースにできればそれでいい」ということだけで解決するのではないということです。

何故なら現地の「人との触れ合い」も旅の醍醐味だからです。

そういう意味での「コミュニケーション」をどうスムースにしていくのかと言えば、言語のプロフェッショナルとしては「地道な学習と実践しかない」というお伝えするしかありません。

根本的な解決は「継続的な学習」しかないためです。

英語の学習法は様々ですが、やはり日々の継続がモノをいうので、コツコツと行うしかありません。そこでまずは「外国人観光客の不満を解消するため」という目的を持てば、「接客英会話」という括りで学習するのが効果的でしょう。

弊社では「飲食店向け接客英会話」を不定期で開催しております。

「飲食店向け接客英会話」セミナーのご案内(終了いたしました)

※チェーン店様の場合などは、法人向けサービスとしてもご提供しております。ご興味があれば別途お問い合わせください。

この「コミュニケーション」は決して上手である必要はありません。大切なのは、離そうとすることであり、伝えようとすること、相手の言うことを理解しようする「姿勢」です。

その「姿勢」こそが外国人観光客に届けば、多少やり取りが増えたとしても、それを含めた「非日常」体験となるからです。

「楽しんでもらいたい」「楽しい思い出を作ってもらいたい」という「姿勢」こそが、最も大切でそれこそが「おもてなし」なのではないかと思います。

コラム:銀座のお店

銀座にある化粧品店の話です。

そのお店は昨今のインバウンドブームで中国人旅行者が大挙をなしておしかけています。もちろん売り上げは順調です。

しかし、ひとつ大きな問題があります。それはお店のスタッフの質です。

・どうせ日本語が分からないだろうからと、目の前で「早く決めろ」といったことや「邪魔なんだよ」といった小声で暴言を吐く

・周りのスタッフもそれを止めないどころが、便乗する

こんな態度を取っていれば、日本語が分からなくても誰でも気づきます。このお店はブームの最中にも関わらず、徐々に旅行者が来なくなりました。

実は、それ以前に別の女性スタッフが、暴言や接客態度が悪いことを経営陣に報告していたのですが、それも改善されることなく時間だけが過ぎていっていました。

当然この女性スタッフも「この店は将来がない」と見切りをつけて早々に辞めていきました。

優秀な人は辞め、暴言を吐く人だけが残るお店に、いったい誰が来店するのでしょうか。

【解決法:2】この先も見据えて、「恥にならない翻訳」をする

ちなみに、コミュニケーションをすぐにスムースにすることができるツールとしては(手前味噌になってしまいますが)「多言語翻訳」は今後も重要なツールだと言えます。

最も分かりやすい例として英語で考えると、対人の場合には英会話となりますし、表示物であれば英語への翻訳となります。

飲食店なら

  • 接客英会話(お客様とスタッフ)
  • 英語翻訳(メニューや看板など読むもの)

でしょう。後者の翻訳は、テキスト情報としてずっと目に触れるものです。ですから、その品質を軽んじてしまうと、それなりのものにしかならないということです。

例えば、こんな事例があります。(名称等は伏せております)

  1. 某庁の肝いりのプロジェクトで、日本全国に点在する某観光施設のパンフレットの多言語翻訳を行なうことになった
  2. 大手代理店や制作会社が担当し、プロジェクトは年度末の納品で決定
  3. プロジェクトのキックオフミーティングが開かれることもなく、なし崩し的にプロジェクトがスタート
  4. 打ち合わせが曖昧で、作業の仕様が揺れているために、各担当者とのやり取りもどんどん煩雑になり、結果的に制作会社も代理店も翻訳会社も納期に間に合わせるため、やっつけ仕事になった
  5. 結果、納期には間に合い、印刷をし全国の施設に配布されたが、外国人観光客からは「訳抜けや誤訳、スペルミスなどが多く散見されるパンフレットとなった
  6. 大型のプロジェクトだったので目立ってしまい某メディアや書籍で「失敗事例」として取り上げられる

これらは、よく聞く話と言えばよく聞く話です。一番大切な「外国人観光客視点」が完全に抜け落ちてしまっています。

翻訳を行う上で、大切なのは「読者は誰か」を把握し、「伝わる翻訳」を作ることです。その視点を見失ってしまうと上記のような問題は頻繁に起きるでしょう。

また AI 翻訳のミスとしてこのような事例もありました。

堺筋だけやない、天下茶屋は… 大阪メトロのサイト誤訳

https://www.asahi.com/articles/ASM3M32R5M3MPTIL006.html

「堺筋」→「サカイ・マッスル」? 大阪メトロ外国語版サイト「めちゃくちゃ誤訳」多数で閉鎖に

https://mainichi.jp/articles/20190318/k00/00m/040/164000c

これと似たようなケースでは、「コスト優先が強すぎて品質が置いてけぼりされた」ということもよく聞きます。入札案件などでは常にこのリスクを抱えることになります。

莫大な費用をかけて新しい技術を導入するのもいいですが、まずは正確に読者が分かるように翻訳することの方が先決ではないでしょうか。

上記のように本末転倒になってしまったプロジェクトは関係者も徒労感に襲われますし、最もまずいのは、受け入れ側として、「この先ずっと残る訳文」になってしまったわけです。(大阪メトロの場合はサイト閉鎖という事態に)

そして、それを利用しなくてはならない外国人観光客はどう思うでしょうか?

冒頭のアンケートにあった「コミュニケーションが取れないことによって困った」というのは、まさにこのことではないでしょうか。

言葉には100点満点はありません。しかし、インバウンドの大きな潮流の中、文章の品質というのは、外国人観光客に直接目に触れるものであり、決してないがしろにしてはならないもののはずです。

その直接のコンタクトポイントを適当に済ませてしまうことは、長期的に見てもあまりにもリスキーではないでしょうか。

まとめ

一生の思い出で日本に旅行にやってくる観光客もいます。決して安くないお金を支払ってくるわけですから、その期待に応えていくことはリピーターになってもらう場合でも重要なことでしょう。

彼らに対してコミュニケーションをしっかりとるためにも、以下の2点は改善していくことが期待されます。

  1. すでに顕在化した「外国人観光客が困っていること」をまずは解決する
  2. 特にコミュニケーションは、会話と文字情報に分け、文字情報は後に残るものとしてしっかり翻訳する
  3. その上でおもてなしの心を持って外国人観光客と接する

 

受け入れ側がしっかりと対応することが、これからのインバウンド対策にはより一層求められていくことになります。

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