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バックトランスレーション(逆翻訳)のメリットとデメリット

機械翻訳、ポストエディット、翻訳支援ツール、多くの MLV(マルチランゲージベンダー)やクラウド翻訳など、翻訳サービスには様々な形態が存在します。

翻訳の功と罪

 

そんな中、「バックトランスレーション」という手法があるのはあまり知られていません。日本語にすると「逆翻訳」と呼ばれます。(これに対し、通常の翻訳を「順翻訳」と呼ぶこともあります)

この「バックトランスレーション」というものは、いったいどういうものなのか、そしてメリット、デメリットや利用する際の判断基準について解説します。

バックトランスレーションとは何か

バックトランスレーションは、上述のように「逆翻訳」と言われますが、具体的には一度翻訳したものを使って、元の言語に翻訳しなおす作業のことを指します。

例えば、日本語から英語に翻訳する際、その訳文(英語)が原文(日本語)の意味をきちんととらえて翻訳されているかどうかを検証するために、訳文(英語)を日本語に翻訳します。

この訳文(英語)から原文(日本語)への翻訳プロセスをバックトランスレーションと言います。

バックトランスレーションの意味と目的

バックトランスレーションの意味や意義、その目的は何なのかを知っておく必要があります。この手法自体、翻訳プロジェクト、ローカライズプロジェクトの中でどういう位置づけのものかを把握する必要があります。

バックトランスレーションの目的は 3つほど挙げられます。

  • 訳文の正確性を確認するため
  • ターゲット言語が分からない場合のチェックやレビューのため
  • 翻訳としての妥当性、好みなどの恣意的なものかの見極めを行うため

それぞれ解説します。

バックトランスレーションの目的①:翻訳の正確性

翻訳の正確性を確認するためにバックトランスレーションを行うというのは、どういう意味でしょうか。これはつまり「日本語の単語が正しい英単語に置き換わっているか」という確認です。

また、(あえて挙げるなら)文法的にも「主語+目的語+述語」という日本語ならば、「主語+述語+目的語」という文法構造で英語が成立しているかどうかということでしょう。

バックトランスレーションの目的②:ターゲット言語でのチェックができない

例えば、日本語から中国語へ翻訳したケースがあるとします。発注した企業は、これを使ってビジネスを展開する訳ですが、翻訳会社から納品された中国語の訳文のチェックが社内で行うことができない場合、一度日本語に逆翻訳して、きちんと翻訳されているかどうかを確認するために使用されます。

バックトランスレーションの目的③:訳文の妥当性や好みなどの恣意性の見極め

①と重複しますが、こういう目的でバックトランスレーションを行うケースもあります。納品された訳文が妥当なものであるかということを検証しようとするわけですが、文章には「好み」があります。実際のところ、これらはバックトランスレーションをしても確認することはできません。あくまで翻訳後の言語の文章として好きか嫌いかという話だからです。

このように、一言でいえば、訳文としての「違和感」があるかどうかということを、バックトランスレーションによって見極めようとしているわけです。

しかし、残念ながらこれらはあまりうまく行きません。

バックトランスレーションのメリットとデメリット

ではなぜうまく行かないのでしょうか?

実は、厳密にはすべてがうまく行かないのではなく、上手く行くものとそうでないものが混在すると言えます。

バックトランスレーションのメリット

上述のように、様々な目的をもってバックトランスレーションを行う訳ですが、この中で上手く行くのは論文など専門性の高いドキュメントに限定されるでしょう。

「A という単語が B という訳語に正確に翻訳されているのか」を確認するために行なうためのバックトランスレーションは有効だと言えます。

バックトランスレーションのデメリット

しかし「ちゃんと翻訳されているかどうか」といった、(どちらかというと)表現力をお求めになる場合には、バックトランスレーションは不向きでしょう。Web サイトやプレスリリース等をバックトランスレーションしたところで恐らくほとんど意味はありません。

仮に、日本語→英語→日本語 というプロセスを辿った場合でも、実際に使用するのは英語であって、英語として自然なものか、意味が通る訳文かどうかを判断できないと意味がありません。

「日本語では大丈夫だった」という事実は、イコール「英語として大丈夫」ということにはならないからです。

また、言語によってもバックトランスレーション自体が意味を成さないケースもあります。韓国語のような表音文字などは、その文字自体に意味を持っていないため、バックトランスレーションをしてもほとんど意味がありません。

そういった点からも、第一義的には翻訳後の言語がターゲット言語なのですから、そのターゲット言語として訳文を評価、検証すべきでしょう。

バックトランスレーション使用時の注意点

これまで述べてきたように、バックトランスレーションの使い方は限定的とはいえ、その判断基準を持って行うことである一定の結果を得ることができます。その基準とは、「効果の出るドキュメントと効果の出ないドキュメントを理解する」ことです。

例えば、論文や特許書類など、単語の正確性が極端に求められる場合には、バックトランスレーションは有効です。決まった用語を使用なければ、ドキュメントの正確性が問われてしまうような場合などは、バックトランスレーションを使用することができます。

そういった基準を持たずに、どんなドキュメントでもバックトランスレーションをすることは、現場の混乱を招くばかりか、今後は「バックトランスレーションをしてもクレームにならない訳文を作る」ことが目的となり、逐語訳や直訳的な文章が増えてしまうかもしれません。その訳文が使われる場所や、対象読者のことが置いてけぼりになれば、伝えたいことも伝わりません。

まとめ

これまで述べてきましたが、バックトランスレーション自体を否定するものではありません。しかし、残念ながら限定的な使い方しかできないのもまた事実です。

そしてもしビジネスにおいて「正確な訳文を」「伝わる訳文を」と考えるのであれば、バックトランスレーションの前に以下の点に注意することがより有効だと思われます。

・バックトランスレーションする時間を取るより、その時間をしっかり最初の翻訳作業にあてる

・品質を気にするなら専門用語集やスタイル、事前のトレーニング、研修などを開催する

用語集構築・運用

・翻訳後にネイティブチェックのプロセスを増やす

定額ネイティブチェックプラン

いかがでしょうか。

バックトランスレーションを行う際には、これらの点を含めて正しい判断基準をもって行うようにしましょう。


翻訳は「手段」であって「目的」ではない

弊社は主に「コミュニケーションサービス」を提供している企業ですが、そのうち、翻訳や通訳といった言語サービスを中心にご提供を行っています。

お客様からサービス提供への対価をいただきながら、経済活動を行っていますが、時折、そこに該当しないケースがあります。より大きな目的(弊社の場合には経営理念の実現)の場合であれば、該当しなくても(長期的には整合性が取られるため)問題ありませんが、以前にはそうでないケースも散見されました。

このあたりはもしかしたら業界構造や業界の変化にも関連しているかもしれません。

翻訳の功と罪

今回はビジネスでついつい「勘違い」してしまいがちな点について考察します。

陥りやすい「手段の目的化」

今はもうほとんどありませんが、以前に多かったのは「手段の目的化」です。翻訳や通訳サービスは、それを利用するクライアントのビジネスコミュニケーションをスムースにするためのツールのひとつであるべきで、それ自体が目的になってしまうのは本末転倒です。

具体的には、翻訳者の作る訳文がクライアントが求めるものとずれ、クレームになる場合などを指します。プロの翻訳者が行なう翻訳作業なのですから、ある一定の精度があるはずです。にもかかわらず、どうしてクレームになるのでしょうか?

考えられる原因はいくつかあります。

  1. 翻訳者の実力不足(一定の精度が無い訳文だった)
  2. 翻訳会社のヒアリング不足(営業窓口の力不足)、不適切なアサイン(人には向き不向きがある)
  3. クライアントが翻訳以上のものを求めている
  4. クライアントの好み(恣意的なもの)
  5. 納期等のその他の条件

 

これ以外でも、できない原因はあげればキリがないので、このあたりにしておきますが、いずれにしても様々な原因でクライアント期待とは違うものが納品されてくればクレームになる場合があります。

つまり、上記のような点が「ずれているから」起きてしまうトラブルやクレームが一定数存在します。

いったい何のために翻訳するのか?通訳するのか?

手段を目的化しないために、最初から最後までブレてはいけないのは、この翻訳、通訳の目的は何か?いったい何のためにクライアントは翻訳や通訳を利用するのか?ということです。

これは翻訳会社としてもしっかりヒアリングしなければならない部分ですし、それをコーディネーターから的確に翻訳者に伝えなければならない点です。

逆に、それをしっかりと汲み取って訳文を作ったり、通訳していくことができれば、理論上は大きな齟齬というのは出ないはずです。

※特に通訳の場合には、現場での対応になり、クライアントの担当者と直接打ち合わせができることも多いため、本来の目的を確認しやすいと言えます。

どの企業も、どの業界でも共通しているのは、ビジネスのコミュニケーションをスムースにして期待する成果を得ることであり、それを達成するために私たちは翻訳や通訳サービスを提供することで何ができるのか?ということです。

これを見失ってしまうと、クライアントの期待する翻訳や通訳サービスにはなりません。誤解を恐れず言えば、「作り手の独りよがりのサービス」になってしまうのです。

翻訳や通訳というサービスは、限りなく商品に近いところにあるために、ついつい勘違いしてしまいそうですが、残念ながらそれ自体は目的にはなりません。もし「翻訳すること」自体が目的であれば、それはビジネスではなく、ボランティアや趣味、また自分自身の勉強のためであることがほとんどではないでしょうか。(ちなみに、これらが悪いということではなく、ビジネスコミュニケーションサービスとして提供する以上はクライアントがいるわけですから、その要望も汲み取っていかなくてはならないということです)

これは英会話なども同様です。英語と言うツールを使って、仕事をスムースに進めることが重要な目的であって「英語が話せます」という話ではありません。実際の現場では、TOEIC の点数が非常に高くても、ビジネスの基礎がない人は活躍することできないのは何も英語に限った話ではありませんので、細かく説明するまでもないでしょう。

エグゼクティブ専門英会話 [Be Confident]

翻訳という仕事をしていると、どうしても TOEIC が高得点でなければならないといった類のことを言われることも多いですが、実態はそうではありません。「翻訳力」とでも言うべき能力はまったく定義が異なります。

 

「翻訳力」とは何か

 

「お客様に喜んでもらう」ことがひとつのバロメーター

仕事にはどれも相手(お客様)がいます。その「お客様のために価値を提供する」ことが重要なのであり、結果として収入や報酬があるのです。

クライアントが困っていることに対し、自ら蓄積してきた能力や経験で解決することが重要です。大ざっぱに言ってしまえば、人の役に立つことです。お客様の役に立つことを本気で考えれば、自ずととるべき行動は定まってくるでしょう。それは自己満足でも自慢でもないはずです。手段が目的化されている場合には、「自分がやったから結果が出たんだ」となりがちなので要注意です。

それよりも全力を尽くし、その結果としてお客様から感謝されるほうが自分が持つ能力が誰かの役に立てたと思えるのではないでしょうか。こういう真摯な気持ちで仕事に向き合ったとき、人はさらなる成長をすることができます。

翻訳も通訳も「お医者さん」と同じ

翻訳も通訳も様々なテクニックや最新のツールやテクノロジーがあります。ドキュメントによって訳し方が違ったり、分野によっても扱うドキュメントは様々です。

しかしそれ以前のスタンスの問題として自覚しておかないといけないことがあります。

それは、プロフェッショナルとしての翻訳者や通訳者は、その高い専門性や高い言語能力を駆使して、お客様の困りごとを解決できるということです。いわば「お医者さん」と同じように正しい診断を行い、治療法を提案していくこと、また専門性が高ければ、ブラックボックス化せず、インフォームドコンセントを行い、クライアントが満足する治療を受けることができるのです。

この正しい心構えを持ち、最新のテクノロジーを駆使し、自らの能力を最大限発揮することができれば、クライアントの悩み(顕在的/潜在的)を解決することができるのです。


登録翻訳者の人数が多ければ良い翻訳会社なのか

お客様から時折、以下のようなお話をお伺いします。

「A 社さんは、翻訳者が1万人もいるんだって」

「B 社さんは、全部で翻訳者 5万人もいるって書いてあるよ」

このようなお話をお聞きするたびに、毎回ご説明を差し上げておりますが、今回はこのテーマについて考えてみたいと思います。

多くの翻訳会社がフリーランス翻訳者の登録で成り立っている

まずはじめに、多くの翻訳会社は、フリーランス翻訳者を登録することによって実際の翻訳作業を賄っています。稀に社内翻訳者を抱えることで、社内で翻訳作業を行なっているケースもあります。彼らは「インハウストランスレーター」と呼ばれたりもします。

翻訳会社から見た場合、社外の登録翻訳者のコントロール、いわゆる「リソースマネジメント」がとても重要になります。

これは翻訳業界だけではなく、制作会社ならフリーのエンジニアやデザイナー、出版社ならライターといった職種と共通事項がありますので、何も特別なことではありません。

繰り返しになりますが、このように、多くの翻訳会社はフリーランスの翻訳者に登録してもらうことによって、クライアントから依頼された実際の翻訳作業をこなすことができます。

また翻訳業界全体や翻訳会社の基本的な機能については以下の記事をご覧ください。

翻訳業界と翻訳会社

フリーランス翻訳者として必要なもの

さて、今度は翻訳者の立場から考えてみましょう。

「フリーランスとして生きていく」という選択をした場合、翻訳作業だけでなく翻訳会社への営業やマーケティングも必要です。またコスト管理も外せません。確定申告なども年に1回発生しますから、経費精算など日々の地味な作業も発生します。

また「自分」を商品として考えた時に、「誰に対して、いくらで、何を、どのくらい売るのか」ということを様々な角度から検証していかなくてはなりません。

これも翻訳者だけが特別なのではなく、フリーランス全般に言えることなので、特に珍しいことではありません。むしろ誰もが理解していることです。(理解していなければフリーランスは向かないでしょう)

これらは自分を1つの「会社」として考えれば、すべて必要なことです。そしてこの「責任」があるからこそ、それと同等の「自由」があると言えます。

フリーランス翻訳者は 1社のみ取引をするのか、複数社との取引なのか

この自由と責任が一体となっているフリーランスですが、本テーマに沿って考えていくと、フリーランス翻訳者にとっては特定の翻訳会社とだけ付き合っていく方がいいのか、もしくは複数社と付き合っていけばいいのかという疑問が浮上します。

こちらは、正解はありません。

なぜなら個々人のフリーランスとしての矜持や価値観、フリーランスとしてのそれぞれの戦略、方向性によって答えは変わってくるためです。結局のところ、自分が思うようにやるしかないのであり、そこにも自由と責任があります。

しかしながら、一般論として論じるのであれば、複数の翻訳会社と取引や口座を持っておく方が毎月の売上(収入)のリスクヘッジにはなります。逆に、年間契約のように1社専属で取引ができる状態で、かつそれがずっと継続する保証があるなら、登録するのは1社だけで問題ありません。

とはいえ、万物は流転します。この世に変化がないものはありません。企業は生き物である以上、必ず良い時も悪い時もあります。そう捉えた時には、やはり複数の翻訳会社に登録しておくことで、A 社から仕事がないときには、B社でフォローするというのは通常の考え方ではないかと思われます。

※ここでは「フリーランス翻訳者としてどう振る舞うのか」がテーマではないので詳細は割愛します。

つまりここから分かることは、(一般的に)フリーランス翻訳者は複数の翻訳会社と取引をしている実態が間違いなく存在するということです。

もし「登録翻訳者 100万人」と「登録翻訳者 100人」という翻訳会社があるとすれば、どちらが良い翻訳会社なのか?

さて、この事実を直視し、冒頭のフレーズに戻ります。

例えば、これは極端な例ですが「弊社は翻訳者が100万人います」と言うのと、「弊社は翻訳者が100人います」という言葉では、実際の業務にどのくらいの違いがあるのでしょうか?

そして、一体どちらが良い翻訳会社なのでしょうか?

もちろん単純に「数」という点で考えれば、100万人の登録翻訳者がいる翻訳会社の方が良いのでしょう。ただこれは完全に片手落ちの状態です。

なぜなら「100万人の翻訳者に常時仕事を発注しているわけではない」からです。100万人のうち、その案件に見合った人、クライアントの指名の人、継続案件の人など、仕事にも様々な状態があるからです。

仮に、まんべんなく100万人分の仕事を継続して発注できる/しているという翻訳会社があるとすれば、それはかなり優秀だと言えますし、もしかしたら、そういう会社も世界を見渡せばあるのかもしれません。

とはいえ、翻訳産業は 100% 受注産業です。そのため、まず初めにニーズが発生しなければ、翻訳の仕事のオーダーはありません。ということは、クライアントの市場規模や趨勢、世の中の流れなどによって常に翻訳ニーズは変動しているということです。多い時もあれば少ない時もあるはずです。

これを裏付けるものとして、「登録はしたけれど、仕事の連絡はない」ということもあるでしょう。しかし実は、これは「翻訳会社とフリーランス翻訳者」だけでなく「1次翻訳会社と下請の翻訳会社」という関係でも同じことが起きています。

大元の翻訳会社からすれば、「(受注産業なので)いつ大型案件が発生するか分からない。だから翻訳会社の登録だけ増やして済ませておきたい」という判断でしょう。ビジネスとしては当然のことです。

そしてこの構図がフリーランスの翻訳者に対してもあてはまるのは何ら不思議ではありません。

また、どんな仕事でも同じですが、同じやり方で何年も仕事を続けられるような甘い世界はありません。常に改善し効率を上げていかなければならないのです。職人の世界でさえ、いえ、職人の世界だからこそ、外側からは目に見えない小さな変化や改善を加えているのです。

逆に言えば、これら大小の変化がテクノロジーの発展やイノベーションを支えているわけであり、より良い世界の実現へ向かう原動力とも言えます。

翻訳業界でいえば、AI を代表とする機械翻訳、MLV などのグローバル企業の参入など驚くほどのスピードで様々なビジネスモデルとテクノロジーが参入しています。

※様々な参入者、そして今後翻訳サービスはどうなるのかについて以下の記事をご覧ください。

翻訳の功と罪

マクロ的視点でもミクロ的な視点でも、変化は常に起きています。それを忘れてはなりません。

こう考えていくと、本当の意味で、「100万人の登録翻訳者のいる翻訳会社」と「100人の登録翻訳者のいる翻訳会社」とではどちらが良い翻訳会社なのでしょうか?

一概に、100万人のフリーランス翻訳者がいる会社とは言い切れなくなってくるのではないでしょうか。

結局、身の丈に合ったビジネスしかできない

そうなると、大切なのは登録人数ではありません。

発注側として、もし人数で判断しなければならないのであれば、登録されている翻訳者のうち「週ごと、月ごとなどでどのくらいの人数が実際に稼働しているのか」を確認したほうがよいでしょう。

これは翻訳会社側としての方針となりますが、結局、どれだけ大きく見せようとしても、実態がかい離してしまうとあまり説得力が無くなってしまうわけで、身の丈に合った形で、少しずつでもきちんと登録翻訳者を増やし、得意分野を伸ばしていくしかありません。そしてそれはとても地道ですが、一番の近道であると言えるでしょう。

もちろん現在大手と呼ばれる翻訳会社は、こういうプロセスをコツコツと大胆に進めてきたからこそ、今の形になっていると推測しますし、翻って弊社も見習っていかなくてはなりません。

まとめ

いかがでしょうか。実際のところ、どの産業でも戦略上、数で勝負しなければならないステージは存在しますし、ある一定の数を超えていなければ、勝負にすらならない(土俵に上がることもできない)という事実も一方であります。

また「沢山いる/あることはイイことだ」という、ある種の固定概念に縛られてしまっているケースもあります。「どんなに実力があっても数人ではこなせない」という仕事もあるでしょう。ですから、すべてがこうだとは言いにくいのですが、今回のテーマに限っては、翻訳会社が単純に「数」だけを全面に押し出してくるケースがあること、また発注側としてはそれをそのまま真に受けてしまうことにはリスクが伴うということです。

「質と量のバランス」こそが最も大切なのだと言えるでしょう。

Podcast「プロフェッショナル翻訳者への道」

弊社では「プロフェッショナル翻訳者への道」というPodcast 番組を配信しております。

フリーランス翻訳者として、また翻訳者にこれからなりたいという方のための番組で毎回様々な切り口でお届けしております。ご興味がございましたらぜひご登録ください。


「原稿の意味を汲んで翻訳して欲しいのに」というご要望への解決策

お客様の本質的な悩みとは

お客様から寄せられるご相談のうち、特に多いのがこの悩みです。

“原稿の意味を汲んで翻訳してほしいのに、全然できない会社が多い”

ご訪問してお伺いすると、このようなご不満やお悩みをお伺いすることがあります。これは最近に限った話ではないのですが徐々に多くなっています。

今回は、それは何故なのか、そしてどうすればお客様のご要望にお応えすることができるのかを考察します。

「原稿の意味を汲む」というのはどういうことか

そもそも、多くのお客様の言う「原文の意味を汲む」というのはどういうことを指しているのでしょうか。

その意味を正確に理解するために、現状をしっかり把握する必要があります。

はじめに、産業翻訳の場合には「原文に忠実に翻訳する」というルールがあります。

これは、翻訳業界にとってはデファクトスタンダードであり「翻訳会社や翻訳者を守る」という点でも明確なルールでもあります。原文に書いてあることを勝手に省略したり、原文に書いていないことを勝手に付け加えたりすれば、「誤訳だ、訳抜けだ」となるからです。

しかしながら、この状態が長く続いているからこそ、冒頭のお客様の「原文の意味を汲んで・・・」という発言につながる可能性があります。事実、このように発言されるお客様が非常に多いことは否定できません。

となると、お客様の望んでいる品質と、産業翻訳業界での「原文に忠実に」というルールは相容れないことになります。

直訳とは何か、意訳とは何か

では「直訳」ではいけないということでしょうか。すべてお客様に合わせるべきでしょうか。

「直訳」とは何でしょうか。またそれに対する「意訳」とは何でしょうか。

https://ja.wikipedia.org/wiki/直訳と意訳

翻訳会社の立場から言えば、「直訳」であっても何も問題はありません。「産業翻訳」としては、誤訳も無く、訳抜けもない、問題のない品質だと言えます。

しかし、お客様から見ると「直訳では問題だ」という事実もあるわけです。この事実に目を背け、「いや、問題ありません」というだけでは、議論は平行線のままです。

大切なのはこの事実をそのまま受け止め、このギャップを埋めることです。

産業翻訳のルールを変えればいい

もしお客様が求める品質がすべて「正」だとしたら、(極端に言えば)産業翻訳の「原文に忠実に翻訳する」というルールをすべて変更すればいいように思えます。(どのように変更すればいいかは置いておきます)

しかし、少し考えてみるとこれもおかしいということに気づきます。

なぜなら、お客様側には一貫した判断基準がないからです。「お客様」自体がさまざまな業種、さまざまな職種にはじまり、企業ごとの状況も異なっています。その中でどこまでが直訳で、どこからが意訳なのか、またどういう方向性(文体や表現)を好んでいるのかなどはお客様ごとにバラバラで「正解」が見えにくいのです。結局のところ、「お客様」という大きな括りになってしまうと、誰に合わせたらいいのか分からないため、非常にぼやけた話になってしまいます。

また、ドキュメントの性質から考えた場合、正確な翻訳(=直訳)の方が大切で必要だというケースも多く存在します。

※ドキュメントの性質や用途をまとめた「ドキュメントマップ」をご覧ください。

翻訳ドキュメントマップ

つまり「産業翻訳のルールを変えればいい」という単純な解決方法ではうまくいかないということになります。

ドキュメントの用途や性質には大きな関連がある

上述のように多様な「お客様」の判断基準は一貫性がありません。無くて当たり前だからです。しかし一方で、一貫性があるのは「ドキュメントの用途や元々持っているドキュメントの性質」です。

例えば、契約書なら契約書なりの翻訳の表現がありますし、財務書類なら財務書類の翻訳の仕方があります。

これらの特性を理解して翻訳することは、翻訳会社からすれば当たり前の話です。そのためにコーディネーターがいます。

分野や専門性を考慮し、そのドキュメントに適した訳し方をすることによって、読み手にとって理解しやすいものとなるわけです。

しかし、適した翻訳者をアサインしているにも関わらず、冒頭のお客様の声が増えているのは何故なのでしょうか。翻訳会社が作り上げる訳文がダメだということも無さそうです。

マッチしているときとそうでないときがあるということは、ドキュメントによってかなり訳し方が違うということが分かります。特に冒頭のお客様のコメントで多いのは、どちらかというとマーケティング資料(カタログや Web など)に対してです。

これは、「読み手にしっかり伝わる文章を作りたい」「伝わらなければ意味がない」というリクエストがより強く出てくるドキュメントは、マーケティング資料が多いためです。

ここに、今回のテーマの答えがありそうです。

最近では、 Web サイトの翻訳やローカライズにおいて、テキスト(文章)はますます重要な位置づけを占めており、そこにフォーカスした翻訳サービスをご提供する必要があります。

仮に英語が原文だとした場合、それをそのまま日本語に翻訳しただけでは、Webサイトには適さない翻訳になってしまうこともあるでしょう。これは日本語から英語への翻訳でも同様のことが言えます。

特にキャッチコピーのようなものは、字面を追いかけて翻訳するくらいなら、英語のままにしておいた方が「カッコいい」場合もあります。

クリエイティブに翻訳するということ

ひとつの解決策として、弊社では、「通常の翻訳以上、ライティング未満」という位置づけで「クリエイティブ翻訳プラン」をご用意しています。

コンテンツ向けクリエイティブ翻訳プラン

https://www.trivector.co.jp/service/contentstranscreation/

SNS向けクリエイティブ翻訳プラン

https://www.trivector.co.jp/service/snstranscreation/

「翻訳を超えた翻訳」を作ることが唯一の解決策

このように、マーケティング関連のドキュメントは、ますますテキストが重要となっています。

例えるなら、「翻訳を超えた翻訳」を作ることです。これが SEO 対策としても重要ですし、何よりもっとも大切なのは、そのテキスト(文章やキャッチコピー)を読んだ人が「次の行動」を起こせるかどうかということです。

  • SNS(Facebook や Instagram等)の広告を見て、クリック(タップ)するかどうか
  • コンテンツを読んで問い合わせするか、申し込みをするか、購入するかどうか

まとめ

「原稿の意味を汲んで翻訳してほしい」というご要望にお応えする解決策としては、

  • ドキュメントの性質や特徴をつかむこと
  • そのドキュメントに合った表現や言い回しをすること
  • それは翻訳を超えた翻訳、つまり「クリエイティブな翻訳」をするということ

と言えます。

せっかくお金を払って翻訳するのですから、「翻訳はコストではなく、プロフィットである」という観点から効果的な翻訳を行っていただくことをお薦めします。