「翻訳なんて誰がやっても一緒」だが、誰もが「言葉に魂を込めている」ものを求めている

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職業に貴賎なし

「翻訳なんて誰がやっても一緒でしょ」と面と向かって言われたことがあります。

クライアントは、有名企業に勤める部長クラスの方でした。

打ち合わせの中で、金額やスケジュール、品質のバランスをご説明している中での発言でした。

少なくとも立場的には(おそらく)現場レベルではないと思いますので、その場合は金額とスケジュールに重きが置かれます。それはとても理解できます。

ただここまではっきりと、面と向かって言われるという経験は後にも先にもありませんでしたのでとてもビックリしたのを覚えています。

本来、「職業に貴賎なし」と言いますが、少なくとも下に見ているのではないかと感じたのも事実です。

原因は伝わっていない、理解されていないこと

正直言って、この方がおっしゃっていることは決して気持ちの良いものではありませんし、もっと言えば侮辱されていると感じたのも事実です。

翻訳や通訳は、2カ国以上をさまざまなレベルで繋げることのできるコミュニケーションツールです。

こういう発想を持っていないからこそ出てくる言葉だと思います。

同席されていたのは、翻訳のことをよく知っている方(現場担当者)で、非常に気まずい表情をしていたのも大変印象的でした。

ただ、勘違いしてはいけないのは、この部長さんが悪いかというと決してそういう訳でもない、ということでしょう。

まずはじめに、この方は、現場の人ではありません。マネジメントクラスの方なので、コスト管理、リソース管理、スケジュール管理といった「マネジメント」が主たる業務であり、(これは予想ですが)恐らく、翻訳会社だけでなく、さまざまな業者に対して「○○なんて誰がやっても一緒だよ」という発言をしていると思われます。

ただ、こちらとしては、言われた瞬間にそこまで想像することは難しいですし、そんなに心を広く持っているわけではありません。ただ、今から考えると背景事情があるのかなと想像できるわけです。

ほかの仕事や業種は分かりませんが、殊、翻訳という仕事に関して言えば、ほとんど「知られていない」のが現状ではないでしょうか。

一般の人が「翻訳や通訳」という言葉を聞いたときに何を想像するのか

「翻訳を仕事にしています」と言えば、「すごいね~」とか「英語話せるの!」といった回答が多くなると思います。

すごいかどうかは主観的なものなのでそれは別として、「英語が話せる」というのは翻訳とは一切関係ありません。関係あるとすれば通訳でしょうか。

揚げ足を取りたいわけではなく、つまり、翻訳というのはそれだけ「知られていない」のだと言う事です。

ですから、知らない人からすれば「翻訳なんて誰がやっても一緒」という発想になっても何ら不思議ではありません。

考える基点をここに持ってくる必要があるのではないでしょうか。

「言葉に魂を込めていますよね」という言葉

一方でこんなことを言われたこともあります。

「翻訳って言葉に魂を込める仕事ですよね」

そう、その通り!と言いたくなる気持ちもありますが、このような発言をするのは、ほとんどの場合、翻訳のコツやツボを知っている人です。かつて翻訳業界で仕事をしていたとか、自身が翻訳者だったとか、または翻訳の担当窓口などでしょう。

現場に近い方は、自分でも翻訳したり、レビューしたりするので、翻訳という業務を(上述の部長さんのようには)バカにしません。

翻訳の難しさと面白さを知っているからです。

言葉に魂を吹き込むというのは、とてもよい表現だと思いますし、実際、その通りだと思います。できることならこういうお客様とだけお付き合いしたいというのは本音ですし、こういった方がある程度の権限をお持ちの場合には、仕事が非常にやりやすくなり、結果としてかなり高品質の翻訳・通訳サービスを提供することができます。

ビジネスとして成立するのは、前者が多いという事実

しかしながら、決裁者が完全な理解を示してくれるということは稀です。

弊社で取り扱っている翻訳サービスはボランティアではありません。そのため「価値=価格」という等式が成立しなければなりません。

ビジネスとして成立させるとき、価格や予算の決定は、先ほど登場した部長さんのような立場の方が決めることがほとんどです(現場からの進言はあるとしても決定権は現場にないことが多い)。

企業にとって、どんな仕事に対してもコストを下げることは至上命題です。翻訳もそのひとつです。

私たちが、どんなに「安かろう悪かろうだと、御社のレビューが大変になるから余計な時間がかかってしまいますよ」と言ったところで、現場レベルには伝わりますが、マネジメントクラスになるとまったく異なる力学やロジックが働くことがあるため、「とにかく安く」なっていればいいということも往々にしてあります。

どんなビジネスでもお金は大変重要なファクターです。

そして、このことは現実にどこでも起きていることですし、そもそも自分たちでどうにかできる問題ではありません。完全にコントロール外です。

色々な「お客様」がいることを理解する

大切なのは、お客様という括りでも、立場によって権限が変わり、大切にするものの優先順位が変わってしまうという事実をしっかりと理解することです。

  • マネジメントレベル:コスト優先、スケジュール優先
  • 現場レベル:品質優先

上記は極端な例ですが、こういう認識を持った上で、私たちが何をすべきか、何ができるかを把握することが重要です。簡単に言えば、以下の2点に集約されるでしょう。

  1. 良い翻訳を心がけること、そしてその努力を継続すること
  2. お客様(特にマネジメントレベル)に説明を怠らないこと

 

どちらか一方だけになってしまうと、文字通り、片手落ちになります。

翻訳は分かりにくい商品であるため、クライアントの理解度に大きな差があります。それらのギャップを少しずつ埋めていくことは、とても大切な作業だと言えます。

「翻訳なんて誰がやっても一緒」という言葉を発する人も、結果的に「言葉に魂を込めている」という言葉に感動するのは事実ですし、それをないがしろにすることはできないはずです。

ちなみに、「言葉に魂を込めている」という人は「翻訳なんて誰がやっても一緒だ」とはなりません。

なぜなら、「翻訳」というサービスに価値を置くかどうか、またどのくらいの価値があると考えているかどうかが問われているからです。

特に、Web全盛のこの時代では、言葉の品質はダイレクトにビジネスに影響を与えることになります。

そしてこのことは決して他人事ではなく、私たちにも当てはまることですから、どうやったらより高い価値を提供できる翻訳サービスを開発できるのか、どうすれば満足度の高い通訳サービスを提供できるかといったことは考えなくてはなりません。

そして、そういったことが業界の底上げに繋がるのではないかと感じています。

弊社も翻訳業界の中だけの常識にとらわれることなく、業界以外の方の理解を促すように努力をしていきたいと考えております。

ひとつの取り組みとして翻訳者のタマゴ、翻訳者になりたい方のための「プロフェッショナル翻訳者への道」という Podcast 番組を配信していますので、ご興味があればお聞きください。

参考:Podcast「プロフェッショナル翻訳者への道」

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