仕事では誰しも「そんな言い方しなくたっていいのに」とか「そんな風に言われたら悪い気はしない」といった経験があるはずだ。
もし、「言い方ひとつ」で伝わり方が変わってしまうという厳然たる事実があるなら、それはきちんと理解しておかなくてはならない。
あなたのビジネス成果にも直結する話だからだ。
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そもそも言い方で伝わり方は変わるのか
結論から言うと、言い方次第で相手への伝わり方(=相手の受け止め方)は変わってしまうのは間違いない。
例えば提案中の案件の失注の連絡をしたとする。営業マンが受け取ったメールはそれぞれこうだ。
「〇〇さん、おはようございます。ご連絡するのが遅くなってしまったのですが、先日のお見積りの件、諸々検討した結果、残念ながら他社さんにお願いすることになりました。せっかく色々なご提案をいただいたのに、本当に申し訳ないです。個人的には非常に良いご提案をいただいていたので、お仕事ご一緒出来たらといった期待もあったのですが、力不足ですみません。またこれに懲りずに次回以降、ご相談させていただいてもよろしいでしょうか。」
「〇〇さん、おはようございます。先日のお見積もりの件ですが、他社に決まりました。」
どちらも「失注の事実」は変わらない。しかし、前者のほうが経緯の説明や担当者の意図が見える。一方、後者はなんとなくバッサリ切られた気分になる。
いったいどちらが良いのかは一目瞭然だろう。
営業マンの立場からすれば、前者の担当者のほうが(仮にこの経緯が嘘だったとしても)お付き合いしたいと思うのは当たり前の話だ。「もっといい提案をしよう、もっとお役にたてるように頑張ろう」と思うハズ。
営業マンだって人間なのだ。ビジネスだから用件だけ伝えれば問題ないという点は、そこだけ切り取れば確かにそうだが、それだけでは何とも味気ない。
上記は極端な例ではあるが、似たような話は世の中にいくらでもある。どちらのコミュニケーションを採用するかで担当者から営業マンへの伝わり方、つまり営業マンの受け止め方は変わってしまう。
また次に見積依頼をしたとき、もしかしたら後者の場合は営業マンが断ってくるかもしれない。(もちろんそれでも構わないという場合もあるだろうが、今回は伝わり方の話なのでこのまま続ける)
間違った伝わり方をすると自分が損をすることがある
しかし、なぜこのように気を遣う必要があるのかそこには理由がある。それは、
「自分が損をすることがあるから」
だろう。
結局のところ、この理由が一番大きいかもしれない。(そんな人はめったに見かけないが)最初からケンカ腰にコミュニケーションをとれば、当然それは相手にもうつるので「何だこの人?失礼な人だな」と思う訳で、同じように(場合によってはそれ以上になって)返ってくる。
仕事もしていないのになぜか険悪なムード、ピリピリした雰囲気になってしまう。
文字にすると、そんなことはあり得ないはずだが、実際のビジネスでは起きなくもない。
コミュニケーションをサボればその分しっかりと「コミュニケーション負債」として自分に戻ってくるのだ。
これが間違った方向に進んでしまうと、モラハラやパワハラといったハラスメントにエスカレートすることも稀に起きる。
どうすれば丁寧なコミュニケーションをとれるか
冒頭の例で、丁寧なコミュニケーションをとることは重要であることはすでに述べたが、ではそれを目指すときに具体的に何をすればいいのだろうか。
それにはいくつかのポイントがある。
相手への尊敬を持つ
まず大前提として重要なのは「相手への尊敬」を持つことだ。年齢も性別も関係ない。相手の仕事をリスペクトする気持ちがあれば、「自分ができないことをやってもらっている」という感謝の気持ちも湧いてくるはずだ。そういう視点があれば、ないがしろにはできないはずだ。相手も人間、機械ではない。
だからこそ「相手に丁寧に接しよう」という気持ちが湧いてくる。
※ただしこれは相手も同様に考えていることが重要。「適当に仕事を流す人」も世の中にはいるので、そういう人にはこの気持ちは伝わらない。大切なのは相手によって態度を変えるのではなく「自分がこの点をはじめから理解しておく必要がある」という意味。
ビジネスマナーとして「一貫した行動」に習慣化する
言い方を気を付けるにあたり、テクニック論ではないが、ビジネスをする以上、ビジネスマナーは大変重要でベースとなるもの。このビジネスマナーの一環として、だれに対しても同じような言葉遣い、同じような丁寧な表現をするのは大切だといえる。
このあたりは「5W1H」をしっかり守ることである程度の「型」は作れるので以下の記事を参考にしてほしい。
しかし面白いことに「そこまでしないといけないの?」という意見もあるし、「何だか媚びを売るみたい」という気持ちすら湧いてくる。結果として「そこまでしてコミュニケーション取りたくない」ということもある。
ただ考えてみてほしい。ある一定の成果を出す人はそういう感情抜きに、定型化して成果を出しているはずだ。何故なら、最低限のマナーを誰に対しても行うことが重要なのを知っているからだ。
リーダーが信じる「言葉の力」
ビジネスリーダーがトップダウンでマネジメントするのはよくあることだが、それが偉そうな物言いだとしたらどうだろう。怒鳴ったり大声で話したりするリーダーに誰がついて行きたいと思うだろうか。
恐らく、尊敬されるリーダーというのは、謙虚で誠実、それでいて行動して結果を出す人ではないだろうか。
彼らは「言葉の力」を知っている。自分ひとりではこのビジネスを進めるには時間がかかりすぎるし、できないことを知っているからこそ、チームで仕事をしようとする。そのためには前向きな言葉、力強い言葉、スタッフの背中を押す言葉が何よりも大切なことを知っている。
同じ意味を伝えるときにどんな表現をすればいいのか、伝わりやすいのかを知っている。
参考までに英会話においても「誰」が話すかは重要だ。
「お腹に入れたら何でも一緒でしょ」と何が違うのか
別の例えをしてみる。
「おなかに入れたら何でも一緒だ」という言葉がある。これをコミュニケーションに置き換えたら、「どんな言い方をしようが伝わればいいだろう」という話だ。
確かに、食べ物も胃まで行けば嚙み砕かれているし一緒だろう。
でも、よく考えてほしい。
食事をするときには、お腹に入れる前、口元に運ぶ際には食感、匂いや色、味などすべて異なる。現実的にそれらを無視することができるだろうか。
だとしたら、お腹に入ってしまえば、美味しくてもそうでなくても一緒だとは言えないだろう。
一流のシェフには「お腹に入るまで」の優れたテクニックがある。それを含めて「美味しい」と感じるのだろう。「食材が新鮮であれば調理されてなくても美味しいから大丈夫」とはならない。料理の場合には各技術に対して金額を支払っている要素も強い。
そうであるなら(現実にはありえないが)、ビジネスの場において丁寧にコミュニケーションを取る人は、コミュニケーションスキルだけで料金をとれるかもしれない。相手を貶めるような表現をする人は、食べ物としてお腹がいっぱいになればいい=伝わればいいと思っているわけで、それには当然料金は発生しないし、調理されていない食材を無理やり食べさせられたとしてクレームにすらなるかもしれない。
本当に自分の意図するところを相手に伝えたいのであれば、そのための「技術」は磨くべきだし、きちんと使用すべきだ。
具体的にどこに気を付けるべきか
ではどんなところに気を付けてコミュニケーションをとるべきだろうか。
話し言葉
- 選択する言葉
- 話すテンポ
- 話すトーンなど
- 肯定的、否定的表現
書き言葉
- 「ですます」「である」など表記スタイル
- 選択する言葉
- 肯定的、否定的表現
- 論理性の高い文章
ちなみに、翻訳でも論理性などは重要だと考えられている。
多くのコミュニケーション関連講座や話し方講座があるのは、それらが重要だと考えている人が大勢いる証拠だろう。
言葉の構造を知る
このように、「言葉」には意味と表現がある。
この図のように、同じ意味であっても伝え方(表現)を変えることによって相手の受け止め方や印象が変わってしまうのだ。
この構造が頭に入っていればテクニック的な側面から表現を増やすこともできるようになるし、いろいろな表現をストックできるようになる。言語は他者とのコミュニケーションツールなのだから、表現のバリエーションを持っておくことは双方にとって非常にメリットが大きい。
一方で表現よりももっと大切なポイントもある。
「何を言うか」よりも「誰が言うか」の功罪
これまでの内容を覆してしまうかもしれないが、「何を言うか」よりも「誰が言うか」のほうが重要なケースも実は非常に多い。
これは「ユニフォーム効果」「ハロー効果」も近く、簡単に言えば「権威性や実績がある人」の発言は正しさよりも重く捉えられるということだ。
この「誰が言うか」については、肯定的にも、否定的にも解釈できる。
ちなみに、Google でさえ、権威性を重視している。「E-A-T」が品質評価に加わったのは有名だろう。
E-A-Tとは、Expertise(専門性)、Authoritativeness(権威性)、Trustworthiness(信頼性)の3つの概念の略である。
https://www.irep.co.jp/knowledge/glossary/detail/id=10226/
検索品質評価ガイドライン(英語版)
たとえば翻訳会社が翻訳のことを語るからこそ、その内容に説得力が増す。
「誰が言うか」+「どんな表現を使うか」の最強の組み合わせ
これまで見てきたとおり、自分の意思を伝えたいときには、
- 「誰」になれる努力をする(権威性)
- 表現のバリエーションを増やす(ストーリー性)
- 相手への敬意を持つ
というポイントを理解し実践することが重要になってくるということだ。
「誰」になるための努力をすること
これは簡単には構築できないが、まずはしっかりと誠意をもって仕事をして結果を出す事だろう。結果が伴わなければどんなに素晴らしいことを話しても誰も聞いてくれない。
まずは結果を出すことにこだわる必要がある。
例えば、ワンピースのルフィやキングダムの信が、多くの苦労を重ね、成長していく姿を知っている読者からすれば(正しいかどうかは別として)彼らの言うことには一理あることが分かる。
「誰が言うか」は重要だ。
ストーリーがあること
どんな表現を使うのか、「言葉づかいと文脈」こそがストーリーを支える。どんなことがあってどんな展開になったのか、しっかりと説明できるかどうか。そして自分自身はどのように感じているのか、これからどうしたいのか。
そんなことを情熱をもって語りかけることができるかどうかが重要になる。
ルフィや信の立場での言葉遣いがあれば相手の共感度は増す。そうなれば、相手は話を聞く。
それでも「誰が話そうと、話の内容自体が正しくあるべきだ」という点
一方、「誰が話しても、話の内容自体が正しくなければならない」という意見もある。これもまさにその通りではあるのだが、前述のように、ほとんどの人は「何を言うか」の前に「誰が言うか」を見てしまう(見えてしまう)のは避けられない。
本当に伝えたいならこれまでのルールを改善しよう
このように、いくつかのポイントがあるが、まとめると以下のようになる。
- 相手へのリスペクトを持つ
- 「誰」になれる努力をする
- 言葉のバリエーション、表現のバリエーションをストックする
- 言葉の構成を理解しておく
- 関係性によって適度な距離をとる表現を使用する
面倒くさいだろうか?しかしビジネスではこれらが日常的に行われているし、無意識にできていることも多いはずだ。
無意識だった部分を意識することができれば、より一層のコミュニケーションの達人になれるかもしれない。
お互いに気持ちよく働き、お互いに成果を出していくことができれば、これらは努力に値するのではないだろうか。