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ローカライズ費用は外資系企業にとってコストなのか、投資なのか

ローカライズ費用

「本当は翻訳したいのに予算が下りないんです」

外資系のお客様とお話ししているとよくこのようなご相談を受けます。予算次第、というのはどんな仕事でもよくある話ですが、少なくともグローバル企業の日本支社であるにもかかわらず、ある程度の予算が下りないというのはなかなか解せません。そこには、何らかの理由があると考えるのが妥当です。

一方で企業には仕事の優先順位があります。例えば日本に進出してきたばかりであればむしろ投資すると考えるのが普通でしょう。

しかし、お客様に色々とお話を聞いているとどうやら物事はそんなに簡単ではないということが分かってきます。

そもそもなぜ外資系企業はローカライズをするのか

今さら何を、という話ですが、「ローカライズを行うのはなぜなのか」を理解しておかなければなりません。この答えは簡単です。

「日本人ユーザは日本語を読みたい」からです。

もっと言えば、日本語版のドキュメンテーション等がないと、日本ではなかなか受け入れられにくいという側面すらあります。

※これは弊社が翻訳会社として仕事してきた18年以上もの間、何も変わっていません。(変わっていないからこそ翻訳というニーズが拡大している訳ですが)以下の記事は5年以上前に書いたものですが、本質はいまだ変わっていないことを痛感します。

なぜ翻訳するのか?

もしあなたが外資系企業の日本支社長であれば、日本でのプロダクトの拡販は当然ながらミッションに含まれているでしょうし、設定した売上を立てることは当然の必達目標でしょう。

それをどうやって実現するか=つまりどのように認知してもらい、さらに購入して使ってもらえるかを考えたとき真っ先に浮かぶのは「ローカライズ」ではないでしょうか。

ローカライズ費用は企業にとってコストなのか、投資なのか

外資系企業の場合、予算の獲得にはいくつかの傾向があります。

ローカライズのコスパをシビアに求める外資系企業の本社

コストパフォーマンス

これは各外資系企業によりますが「〇〇円投資するなら、〇〇〇〇円のコストパフォーマンスがなければならない」という本社から指示される会社もあります。

この場合、日本の支社長や担当者は予算を出してもらうためにこの根拠を作らなければなりません。これはなかなか骨の折れる作業です。もちろん適当に回答することはできませんし、かといって誇張することもできません。

初めてのローカライズでは前例が無いため、そもそも「読み」ができません。そのため正確にコストパフォーマンスを出すのが難しい状態です。

しかし本社からその精度を求められると、緻密な設計が難しいため、なかなか前向きにローカライズしましょうという結論は出にくいのは容易に想像できます。

結果をシビアに求められてしまうと(達成できるかどうかは分からないため)ローカライズは見送りになり、英語版のままユーザに提供されたり、営業ツールやマーケティングマテリアルも英語のままになります。

そして(それらも原因の一つと言えますが)日本人ユーザに英語は敬遠されるため、売り上げがなかなか立ちません。

グローバルマーケティングを行う外資系企業

またコスパというよりは「グローバルマーケティング」を行う外資系企業も多く存在します。グローバルマーケティングとは、全世界を市場として捉えるため、ローカライズに比べて各国の自由度は低くなります。

外資系企業では「中央集権化されたマーケティング」とも呼べるため、ブランド統一などには強く作用しますが、各国個別の事情にマッチするかどうかはかなり微妙なケースもあります。

ローカライズを「投資」と考える外資系企業

投資としてのローカライズ

一方で、ローカライズを行うことを投資と考える企業も多く存在します。彼らの場合にはローカライズをすることで認知されやすくなり日本市場で受け入れられやすく、営業もしやすくなるので購入にもつながると考えているわけです。

また投資と考える企業は、プロダクトそのもののローカライズだけではなくドキュメンテーションのローカライズもきっちりと行い、その国のユーザに寄り添った形でビジネスを展開していきます。

※ただしそれに伴った売り上げが達成できない場合には、ローカライズそのものが中止になったり、最悪の場合には日本市場からの撤退もあります(これは事前にサンクコストを算出しておき、撤退ラインを決めておくことで対応します)

※一般的に、日本企業が海外展開する際なども共通して言えるのはその国をしっかり調査し、ターゲットを定め、自社のプロダクトやサービスをまとめてローカライズしています。やはり「郷に入りては郷に従え」という点は無視することができません。ユーザニーズにマッチしないプロダクトやサービスは売れませんし、強引に売ったとしても長期的にはブランドが失墜するだけです。

ローカライズにかかる費用はそのマーケットに対する、本社の明確な意思表示

このように、結局のところは「本社が日本市場をローカライズ対象地域として捉えているかどうか」という価値観が如実に表れていると言えます。

日本の担当者や支社長は日本市場が魅力的であること、だから投資としてのローカライズ費用を出してほしいというアピールや交渉を粘り強く継続していく必要があります。

中には年単位でアピールをし、予算を獲得しているという担当者も存在しますが、本社側から見れば「売れてない市場なら投資しない=コストは押さえたい」という点に帰着してしまうこともあります。

まさに「卵が先か、鶏が先か」状態なのです。

つまり「売り上げるために投資する」と「売上がないから投資しない」は表裏一体であり、各社がどちらにフォーカスしてビジネスを展開すべきかの姿勢が出ているということでしょう。

ローカライズ費用を抑えつつ効果を出すために日本支社としてできること

前述のように、ローカライズにかかる費用を本社から獲得した後、それを使って最大の効果を出すためにには一体どうすればいいのでしょうか。弊社のこれまでの経験上、いくつかのパターンに分けることができます。

必要な個所を厳選してローカライズする

必要な個所をローカライズ

限りある予算の中で日本のユーザにとって本当に必要なものだけを翻訳していきます。リーンスタート、スモールスタートという観点からも理にかなっていますので、まずはここから小さな実績を作ることを目指しましょう。

販売代理店と契約して「テコの原理」を使う

販売代理店と契約

外資系企業が複数の販売代理店と契約することで、彼らに提供する販促ツールやマーケティングマテリアルと厳選し同じものを提供しますが、販売代理店が営業活動を行うことでテコの原理を軸に、1社で行うよりも早くリードを獲得することができます。

自社で直販するためのローカライズよりも、スピーディにマーケットになげかけることができるため効率的です。

オリジナルコンテンツを作る

オリジナルコンテンツ

ローカライズの一環として日本独自のコンテンツを作ることもできます。プロダクトに絶対に必要な UI の日本語、ドキュメンテーションの日本語、また営業ツールとしてにコンテンツ制作(日本での導入事例やインタビュー)などです。

まとめ

このように、外資系企業のローカライズ業務というのは、翻訳の仕方などのローカライズ作業そのもののポイントもさることながら、予算獲得にまつわる動きが重要であり、優秀な日本支社の担当者は「本社から予算を引っ張ってこれる人物かどうか」というのもポイントになります。(まるで政治家のようですが)

それを適切な個所に配分、投資することによって日本語版を提供し、売上を作っていくことができるわけです。

ビジネスを展開しスケールさせるにはやはり投資が必要であり、それは中長期、短期と両方の視点がありますが、どちらも継続しなければならないと感じています。実はこれは海外から日本進出だけではなく、日本から海外展開という場合も同様です。

これらは翻訳会社という見地からだけではなく、すべての企業が考えなくてはならないテーマなのではないかと思います。

外資系企業での翻訳、ローカライズ業務の進め方

弊社ではWebサイトをはじめ、外資系企業様の日本進出の足掛かりとなるローカライズサービスをご提供しております。

ご興味がございましたらお気軽にお問い合わせください。


UI を翻訳・ローカライズする時に注意したい 3 つのポイント

ui

UI とは何か

UI は「User Interface:ユーザーインタフェース」の略称です。具体的には、ソフトウェアなどでは頻繁に出現する画面のことを指します。(メニューやエラーメッセージなど)

ui3

この UI の翻訳やローカライズを行うにあたっては、通常のドキュメントの翻訳とは異なった注意が必要になります。今回は、その主な注意点をご紹介します。

UI 翻訳、ローカライズの準備

まず、作業にあたって準備が必要です。

  1. 翻訳対象原稿(ファイル形式)
  2. 専門用語集
  3. 表記スタイルガイド
  4. (必要であれば)スクリーンショットや実機インストール

 

それぞれについて見ていきましょう。

翻訳対象原稿について

これは読んで字のごとく、翻訳する対象のファイルのことです。しかしながら、UI の場合にはドキュメントとは異なり、様々なファイル形式があります。例えば、以下のような拡張子のファイルがあり、これらが対象となります。

  • .txt :テキスト形式のファイル
  • .resource:リソースファイル
  • .rc:リソースファイル
  • .xls/.xlsx:エクセルに抽出されたファイル

これらは、そのまま開いて作業することができないものもあるため、SDL TRADOS(トラドス) を代表とする翻訳支援ツールなどを使用して翻訳することもあります。

 

SDL TRADOS(トラドス)の解析アルゴリズム

 

またリソースファイルでは翻訳対象文章以外のプログラムコードが記述されているため、それらを誤って削除したりしないように注意する必要があります。

UI の翻訳やローカライズには、TRADOS だけでなく Passolo や Catalyst といった翻訳支援ツールを使用することで一貫性を保つことができます。なおこれらのツールは、上記のようなマニュアル等のドキュメントの翻訳でも効果を発揮します。

ローカライズとは

 

どんなファイル形式で原稿をお借りするかによって、使用ツールや納品形式も変わってしまいますので、翻訳会社への連絡時には、原稿のファイル形式を合わせて伝えた方が良いでしょう。

専門用語集について

用語集は、UI の翻訳やローカライズに関わらず大切です。弊社では、用語集をお持ちでないお客様向けに「用語集構築プラン」をご提供しています。

用語集構築・運用

 

専門性が高くなればなるほど用語集は重要になります。専門用語は、その用語が持っている意味が重要だからです。用語集がなければ、統一が難しくなってしまうシーンもあるため、できるだけ用意しましょう。

表記スタイルについて

用語集と同様に、表記スタイルも大変重要です。例えば、このような場合は何が正解なのかはお客様にしかわかりません。

表記の例ルール
ユーザ インタフェースユーザ、インタ、フェース
ユーザ インターフェースユーザ、インター、フェース
ユーザ インターフェイスユーザ、インター、フェイス
ユーザ インタフェイスユーザ、インタ、フェイス
ユーザー インタフェースユーザー、インタ、フェース
ユーザー インターフェースユーザー、インター、フェース
ユーザー インターフェイスユーザー、インター、フェイス
ユーザー インタフェイスユーザー、インタ、フェイス

どれも ” User Interface” という言葉の訳語であり、意味も変わりません。違うのは表記スタイルだけです。

これは、どれも意味は同じなのに、表記方法が異なっているというほんの一例です。UI の場合、特にこの表記方法が異なると、画面として表示させたときに、かなりバラバラな印象が強く、使いにくいソフトウェアと思われてしまうかもしれません。

スクリーンショットや実機インストール

UI はそのソフトウェアのスクリーンショットがあればより翻訳しやすくなります。これは完成形をイメージできるからです。また、場合によっては翻訳時に作業環境を構築し、実際のソフトウェアをインストール、操作しながら翻訳するケースもあります。

これらはどちらも、実際の画面に表示される状況を想像して翻訳することができるために、品質が高くなるということを意味します。

まず作業前に確認すべき点を洗い出し、準備することで実際の翻訳作業をスムースにすることができるため、より翻訳作業そのものに集中することができ、結果としてお客様が望む品質に近くなるのです。

これらを踏まえ、UI の翻訳時に、特に重要な 3 つの注意点をご説明しましょう。

注意点1:限定された文字数

ドキュメントの翻訳と異なり、UI の翻訳やローカライズではその使用される場所が画面やメニュー画面ということもあり、ダラダラと長い文章で翻訳することができません。

スクリーンショットの幅に収まるように訳文を調整しなければ、どんなに上手な翻訳でも使い物になりません。このため、翻訳後には訳文を実装し表示させ、訳文の微調整などを行わなければならないケースもあります。

例えば、英語から日本語からの翻訳の場合には、英語はシングルバイト、日本語はダブルバイトという前提を踏まえて最大の文字数をあらかじめ決めておいて翻訳する必要があります。

文字数制限のある翻訳では、創意工夫が必要になりますし、上述の用語集や表記スタイルが重要になってくるのです。

注意点2:文脈(コンテキスト)がない

通常、ドキュメントは読み物としての要素を持っているため、「話の流れ」、つまり文脈(コンテキスト)が存在しますが、UI には文脈がありません。そのため、この文章がいったいどういうシーンで使用されているのかが想像できないため、どのように訳せばいいのかがとりわけ困難になります。

文脈は非常に重要です。読み手だけでなく翻訳者にとっても、流れるような、リズムのある文章は、読み手の頭にスッと入っていきますが、逆に、読みにくい文章の場合にはそれがかなり難しくなります。

文脈(コンテキスト)がない分、周辺資料がより一層重要な位置を占めるのがご理解いただけるかと思います。

注意点3:ファイル形式

UI  ファイルには、様々なファイル形式があるのは上述のとおりですが、UI ストリングス内にある文字列では翻訳する必要のないものが多くあります。もっとも一般的なものとして、例のような記述がある場合、以下のように処理します。

example

この際、翻訳対象個所以外を誤って触ったり、変更してしまったりすることがあります。

これについてはツールを使用して回避するか、もしくはエクセル等に翻訳対象個所を抽出していただき、そのエクセルファイルを翻訳するという方法があります。これであれば、余計な文字列を気にすることなく翻訳作業に専念することができるためです。

まとめ

UI はソフトウェア内においてユーザとの接点となる大変重要なコンタクトポイントです。インターフェースとしての機能を果たすためには、適切な訳語である必要があります。

弊社のこれまでの経験でも、ドキュメントは翻訳してもソフトウェアはローカライズしなかったり、UI が英語のままの製品がありました。これは、下手な翻訳をするくらいなら英語のままのほうがユーザに親切だという判断です。UI をはじめとした翻訳・ローカライズ作業は確かにコストのかかるものですが、それは顧客満足度を引きあげるための必要な投資ですから、翻訳の品質をきちんと担保すべきではないでしょうか。

だからこそ今回お伝えした3つのポイントに注意していただき、納得のいく品質で翻訳し、ご利用いただければと思います。

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